

沈黙の恋人
SPACE SHOWER MUSIC, 2012年
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8月20日にリリースされた18ヶ月ぶりの5曲入りミニ・アルバム『ABEFUYUMI EP』。このタイミングだけれどぜひ紹介したい人がいる。7月12日、京都磔磔でのライヴで出遭ってしまった、北海道出身SSWの2ndアルバム『沈黙の恋人』、また阿部芙蓉美という人だ。
2ndアルバム『沈黙の恋人』(2012年)は、全9曲の息使いと微熱がただシンプルに脈打っていく1枚。とにかくライヴでのすっとした感触、また彼女と少し話せたときのフランクさ、音源の手触りにすごく驚いた。彼女には、接する人を素に戻してしまうブレない佇まいがある。それが自ずと曲の骨格になって浸潤してくる。人を掴んで離さないという事はしない。つまり“free”で“楽”だ。
例えば、ブレスで抜け高音でマットにのびる声付き。たおやかに力の抜けたアコギ、ストリングス、ピアノ。また、曲の均一で静かなモーション。そのおかげか、サウンドやメロディがうずまくのが、ごく自然に曲のドラマへと変身していく。同時に孕む、M2「君とあの海」の平熱で揺れているような間奏など、ときどき弱って息苦しさに染まりだすアレンジの機微。ゆるやかなカタルシスの波のあと、必ず落ち着けてくれる曲順のリズムは秀逸。歌とナチュラルに連動してアルバムの色としてもよく効いている。
けれど一方で、遠くの方でちらつくバグのような摩擦や熱がある。それはM1「highway, highway」の“俺が本当に平気と思うの”のような、彼女のマニッシュでじりじりした目線の歌詞からだ。M3「エイトビート・サッドソング」やM7「更地」であっけらかんとしながらも“誰かに言えたり言えなかったりする景色”として物語は描かれていく。それでも残滓する想いを一度置いて進んだM8「沈黙の恋人」では白夜の明るさが開けていて、穏やかなエピローグの予感を運んでくる。

ABEFUYUMI EP
3rd Stone Records, 2014年
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こんな在り方が成立するのは、フラットという形をとった独特の“やさしさ”があるからだろう。阿部芙蓉美、というブレンドだけが掬いあげる、触れにくいものへの触れ方がある。M8で“沈黙だけが僕らの恋人”と歌うよう、言葉にしない“沈黙”だけが繋げあう時間・それを紡ぐ彼女の温度が音楽としてあって、触れられることは貴重だと思った。
求めた握手を、両手でそっと包んでくれた彼女。『沈黙の恋人』を、胸の内の、日焼け後のようなじりじりとした抜けない熱に、ゆっくり触れてみるための付添人にしてみてほしい。