ki-ftレビュアーが選んだ2015年ベストディスク
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ki-ftレビュアーが選んだ2015年ベストディスク
ki-ftレビュアーが選んだ2015年ベストディスク

音楽ライター講座in京都から生まれた関西拠点の音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」では、2014年に続き、2015年も邦楽・洋楽を合わせた年間ベストアルバムを発表します。書き手は京都・大阪・奈良・神戸在住者が多いため、とある制約を設けました。それは「関西音楽作品を一枚以上取り上げる」ということです。そのため、他のミュージックサイトや音楽雑誌などのベストディスクとはかなり異なるラインナップに見えるかもしれません。しかし、今、関西で鳴っている音楽を伝えていくということは、とても重要なことだと考えています。一人3枚づつ挙げてもらいましたが、不思議な事に重複は1枚もありませんでした。そういった意味でも、興味深い年間ベストになったと感じていますし、フレッシュな1年だったとも言えます。ki-ftならではのベストディスクを楽しんで頂けると幸いです。

ポップシーンと直結する関西のダンスミュージック

tofubeats『POSITIVE』
tofubeats
POSITIVE(CD+DVD)
unBORDE, 2015年
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  • tofubeats『POSITIVE』ワーナーミュージック・ジャパン
  • seiho『Tong Poo(Live at Conpass)』
  • KOHH『YELLOW T△PE 3』GUNSMITH PRODUCTION PRESENTS

神戸に住む私が2015年を振り返ったとき、tofubeatsが地元目線で見て大きくその存在感を増した年だったと思う。彼は『POSITIVE』で地方にいてもポップシーンに直結した作品を出せることを証明して見せるだけでなく、東京でやっていたDJイベント〈Lost Decade〉を地元のクラブtroop caféで初開催するなど、自ら地元にコミットする形で新たな“場”を作ったからだ。そして、そのイベントは人が集まり過ぎたことにより、入場するのも一苦労といった賑わいを見せた。そんな彼のライヴは自身の曲だけを使ったDJパーティーの面白さがある。

「STAKEHOLDER」と「Drum Machine」の2曲を軸に自身の楽曲をマッシュアップするなど、ダンスカルチャーを咀嚼し取っつきやすい形へと変換して僕らを楽しませてくれる。さらにアメ村音楽祭〈UNION〉で同イベントに出演したKOHHのラップをその後のライヴでサンプリングして用いるなどこういった事例は、シーンが大きくなることの面白さを体現していると思う。

そんな彼と甲乙つけ難いアクトがSugar’s Campaignとしてメジャーデビューも果たしたseihoのソロだ。牛乳の早飲み、生け花と、アート・パフォーマンスの領域へと踏み込みつつある彼のステージ。サンプリングで作り上げるエモーショナルなメロディーと一見難解な音の断片を混ぜ合わせる彼のサウンドは、フロアのオーディエンスが気持ちよくて思わず笑ってしまう程の圧倒的な支配力がある。

2人もよく出演する東心斎橋CONPASSで行われた〈CHOICE〉での満員の観客に、地方にできたダンス・ミュージック・シーンがポップ・シーンとして受け入れられてきていることを実感した年だった。(杉山 慧

独自の活動スタンスを示すヴィジュアル系バンドと、活気づく関西シーン

A9(Alice Nine)『銀河ノヲト』
A9(Alice Nine)
銀河ノヲト
NINE HEADS RECORDS, 2015年
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〈LUNATIC FEST.〉の開催や、X JAPAN約20年ぶりの国内ツアーと紅白出場など、レジェンド枠のバンドの話題が目立った今年のV系シーン。そんな先輩たちの大きすぎる背中を見せつけられた後輩たちも、それぞれに切磋琢磨していた1年だったと思います。

特に、A9が選んだ活動方法には驚かされました。昨年、所属事務所から独立し再スタートを切った彼らは、独立後の第一弾作品の制作資金を、クラウドファンディングで募ったのです。しかも、目標としていた金額の倍以上のサポートが、国内だけでなく世界中から集まりました。彼らのこの選択は、今後どうやってバンドを運営するのかを考えるうえで、こういう方法もあるとシーンに提示した素晴らしいチャレンジだと思います。完成した楽曲も、外へ突き抜けるようなエネルギーを感じられ、彼らが再びシーンの中で存在感を増していくと確信できる作品でした。

多様なV系シーンの中で、大阪という地域性を打ち出し独自のスタンスを貫いているのがFEST VAINQUEURです。本作にも「NANIWAリスペクト~Yah man! 俺たちラガマフィン~」というレゲエを取り入れた曲が収録されています。

更に、そのFEST VAINQUEURをはじめ、関西のV系バンドを集めたコンピレーション・アルバムの第二弾も、今年は名古屋のV系も加わりリリースされました。若手を中心に活気づく関西のV系シーンにも興味惹かれた1年でした。(小川 あかね

2015年最も刺激に満ちた三枚

goat『Rhythm & Sound』
goat
Rhythm & Sound
HEADZ, 2015年
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とにもかくにも2015年、というよりここ何年かgoat、そしてその中心にいる日野浩志郎という人物を追いかけまくった身の私としては、バンドの2ndアルバム『Rhythm & Sound』は外せず。勿論、1stで提示した手法をさらに突き詰め、洗練させたようなその内容も素晴らしく、もはや関西音楽シーンとかそんなもの背負う事無く、2016年いけるところまで行ってほしいとただただ期待。

次に挙げるのは大阪在住の音楽家・服部峻。電子音楽、現代音楽、ジャズ、民族音楽をシームレスに融合させ、結果、どのジャンルにも当て嵌めることの出来ない作品を作りあげてしまった。ジャンルレスでどこにも属さない感覚は日野が作る作品にも通じるところあるように感じた。

CARREは関西ではなく東京を拠点とするデュオだが、恐らくgoatを聞いていなかったら出会ってなかった音楽のひとつだと思う。南堀江socore factoryで早朝5時に観た彼らのサイケデリックな演奏は2015年度のベストライヴと言えよう。(堀田 慎平

京都の音楽シーンの“今”を感じる3枚

THE BED ROOM TAPE『yarn』
THE BED ROOM TAPE
YARN
bud music, 2015年
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SNSやApple Musicなどの影響か、新旧や洋邦、地域を意識せず、自分にとって新しい音楽に出会う機会が多かった2015年。ゲスの極み乙女。川谷絵音のヴォーカル曲を契機に知ったTHE BED ROOM TAPEもそのひとつ。ツイッター経由だったためCDを購入後に京都のバンドNabowaの景山奏のソロ作品と気づいたのだが、意外な繋がりに驚かされた。

音楽性だけでなく、ライヴでも度肝を抜かれた現役京大生のバンド本日休演。ベーシストが演奏せずにバンドを指揮するなんて初めての経験! そんな彼らの新譜を発売したのは関東のインディーレーベルだった。

そして、英語詞から日本語詞へだけではなく、歌声の質感も変化したTurntable Films。井上陽介がGotchバンドをサポートした縁もあり、今回only in dreamsよりリリースされた。

その昔、くるりやキセルのデビュー当初は音楽業界が京都のバンドに注目していた時代もあったそうだが、今はよりフラットにこの街の音楽が外へと流れ、循環しているのだろう。そんな時代の移り変わりを感じる1年でもあった。(乾 和代

大阪発World’s Wideにつながるインディ・ポップ・ベスト3

THE SMALL SQUARE『THE SMALL SQUARE』
THE SMALL SQUARE
THE SMALL SQUARE
Moorworks, 2015年
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  • THE SMALL SQUARE『THE SMALL SQUARE』Moorworks
  • LADYFLASH「とらばーゆ」(カセットテープ)SIMPO RECORDS
  • Wallflower『Our To Sea』(カセットテープ)Miles Apart Records

普段、英米のインディ・ロックを追いかけている者としては、大阪を拠点にしているバンドは彼らのライヴでの対バンで知ることが多い。

大阪府箕面市在住のWallflower。2015年のリリースは、5月に出演したNYC POPFEST用にリリースしたリイシュー音源集である『Out To Sea』のみ。2月8日の松屋町地下一階でのTOPS(カナダ)とのライヴで初めて知ったが、すべて英詞で歌われる男女ツインヴォーカルのやさしいサウンドは、80年代インディ・ポップを彷彿とさせるTOPSとの相性はばっちり。2016年にはMöscow çlub(東京)のレコ発への出演も決まっており(2/27大阪、3/5東京)、ポストThe fin.、HAPPYの位置を十分に狙える立ち位置にいる。

そのThe fin.と共に12月7日、松屋町地下一階でSTRFKR(アメリカ)との共演をしたのがLADYFLASH。メンバー交代を経て、男4人から、男2人女2人で、今年から活動を再開。80年代ギター・ポップを思い出させるような哀愁漂うギターと吃音を使用した歌詞に、エコーがかかった一本調子の女性ヴォーカルをメインに据えた「とらばーゆ」は、肉声でボーカロイドをやろうとしている印象を受けた。2016年2月にはフルアルバムのリリースも控えている。

このLADYFLASHと共に5月4日、松屋町地下一階でDM3(オーストラリア)と共演したのが、ポール・チャスティン(ex. Velvet Crush)。実はポール、アメリカで仕事がない時は、大阪近郊に滞在している。他のミュージシャンとの音源のやりとりで完成させた新ユニットTHE SMALL SQUAREの1stアルバムは、大阪のマンションでも編集作業が行われた。ギター・ロックの中にポールの家族へのまなざしが詰まった1枚だ。

お目当てのバンドの対バンやオープニングアクトからリスナーは新しい発見をし、バンド同士はつながる。その連鎖により、シーンの形成や発見が行われることを実感した1年だった。(杢谷 栄里

コウベ・シティと七畳間

Sufjan Stevens『Carrie & Lowell』
Sufjan Stevens
Carrie & Lowell
Hostess Entertainment, 2015年
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今年4月、就職を期に岡山の実家を離れ神戸に越してきた。初めての一人暮らし、行けるライヴも買えるレコードも増えはしたが、脳ミソのメモリには元より限りがある。そのほとんどが仕事と家事に充てられてしまう中、せめて原稿1本書くだけの余裕は持とうと躍起になる日々だ。これらはそんな忙しない1年を彩ってくれた3枚である。

まず、年の前半でSufjan Stevensの新譜と出会えたことが大きかった。パーソナルな感情の背後にキリスト教的価値観への疑義が見え隠れするこの作品は、私のフォーク・ソングに対する扱いをまるきり変えてしまった。個人的な話だが、このアルバムとの出会いを節目に喜んで聴けるようになった音楽がたくさんある。Hi, how are you? のカバー集は、彼らのメロディ・メイカーとしての半生をそのまま収めたような絶妙な選曲で、スフィアンと共に部屋の中で過ごす時間を充実させてくれた。そしてAwesome City Clubの2枚目、中でも「アウトサイダー」は、少しずつ生活に余裕が出てきた秋以降、(地元よりは)華やかな神戸を歩く楽しみを増幅してくれた1曲だ。ここ数年続いたインディー・シーンのAORブームをメジャー・シーンに大々的に持ち出すという、彼らの活動そのものにもワクワクさせられた。

一人のリスナーとして、今年は“メロディ”と“BGM”という2つのワードについて考えることが多かった。3枚すべて毛色は違えど、そのきっかけ、あるいは一つの答えにもなってくれたアルバムだ。目の前の景色を心地よい旋律が彩るとき、バックグラウンドと言い切るにはその役割はあまりにも大きい。1対1で音楽と向き合う時間をあまり持てなかったこの1年、会社帰りの街中でも手狭な部屋の中でもそれは同じだった。安田謙一氏の新刊を読みながら、来年は、この街のことも音楽のことももっと掘り下げられる一年にしたいなあ、と思うのである。(吉田 紗柚季

新世代ソロミュージシャンによる時代の幕開け

ローホー『GARAGE POP』
ローホー
GARAGE POP
自主制作, 2015年

東京来て2年目、毎日深夜まで働く新宿勤務会社員としてライヴは「今日はよ終わりそや。どっかええのんやってへんかな~」と当日探すライフスタイル。そんでまたちゃんとどこかしらではええやつやっているのが東京なんですな。そんな暇があったら顔を出すという東京LIFEにも少し慣れたこの1年の印象としては以下でしょうか。

ここ数年めざましかった東京インディーシーンの隆盛はcero『Obscure Ride』の発売、Yogee New Waves、Suchmos、Lucky Tapes、Never young beachらのブレイク、そして森は生きているの解散で一旦一区切りついたか。

その代わりに新たに私の中の火種をともしたのは、のろしレコードの面々(松井文、折坂悠太、やく)、カネコアヤノ、Reiら新世代のブルース・フォーク・ミュージシャンと、水曜日のカンパネラ、ぼくのりりっくのぼうよみ、DAOKO、新生ライムベリーそしてまだ自主制作盤を出したのみだが、大阪のローホーなどヒップホップとは違う文脈から出てきた若きラッパーたちでした。

特にのろし3人の活動は関西フォークの血を直に受け継ぎつつ現在を歌う希望の光だし、ローホーのアコギ一本でラップしていくニュースタイルは、一方でミス花子や上田正樹と有山じゅんじなどに通ずる大阪オリジネイションを久々に確立してくれそうな逸材で、いずれも来年さらなる活動が期待できる。(峯 大貴

私の一年、ジャンゴの一年

uwanosora'67『Portrait in Rock 'n' Roll』
uwanosora’67
Portrait in Rock ‘n’ Roll
自主制作, 2015年
  • uwanosora’67『Portrait in Rock ‘n’ Roll』自主制作, 2015
  • Le SuperHomard『MapleKey』rallye, 2015
  • blueberry, very blue『5th life』5TH LIFE, 2015

ジャンゴとともに歩んだ一年だった。ネオアコ好きなら誰もが知る奈良の有名レコード店。そう言われたのは遠い昔の話で、今やネット・ショップに客を取られ、経営の危機に立たされている。店主の松田太郎さんが日々発信する「客が来ない」のツイートは、哀惜の一行詩か。

そんな現状を知り、今際の際の入院患者を見舞う気持ちで、私は老詩人のもとに通い詰めた。噂に違わぬ重体ぶりに当初は戸惑ったが、ほどなく根強いファンはミュージシャンの中にも多いことを知った。大滝詠一をルーツに持つ奈良の若手バンドuwanosora’67の『Portrait in Rock’n’Roll』、20年ぶりに新譜を出した渋谷系ユニットblueberry, very blueの『5th life』は、真っ先にジャンゴで委託販売が始められた。他にも品揃えが独特で、松田店長が興奮気味に薦めてくれたフランスのインディー・ポップLe SuperHomardの『MapleKey』は個人的に今年の大きな収穫だった。

これらの発見に希望の光を見ないでもないが、もちろん三作品ともにネットでも購入可能だ。昨今レコード・ブームが再燃しているとはいえ、正直、ジャンゴは未だ回復の兆しを見せていない。それでも、一ファンとして今後も患者の容体を見守っていきたい。この店で音楽を探す時の高揚感は何にも代えがたいのだ。(二宮 大輔

パンにハマった自分を音楽の海へと誘ってくれた関西3組

シンリズム『NEW RHYTHM』
シンリズム
NEW RHYTHM
Ano(t)raks/FAITH MUSIC ENTERTAINMENT INC., 2015年
BUY: Amazon CD&LP, タワーレコード, iTunesで見る

趣味ではじめたパンの水先案内人「PAINLOT」が忙しくなり、音楽に触れる時間が減ってしまい、「いかんなあ」と振り返る日々。当然、ライヴへ足を運ぶ回数も少なくなった。なんだがネガティブな書き方で申し訳ないが、その中で音楽の海へと誘ってくれた関西3組を挙げてみると上記になる。CARDは沸々としたギターロックを、bachoはむき出しの感情と言葉を、そしてシンリズムからは新緑の息吹を受け取った。特にシンリズムのライヴでは、見ているこっちまで緊張してしまって、成長していく過程が手に取るようにわかるのだ(お父さんか!)。クアトロ大尉(a.k.a.シャア・アズナブル)の「新しい時代を創るのは老人ではない!」という言葉が頭をよぎっている。関西レペゼンだった奇妙礼太郎が上京した今、まわりを思い切り巻き込んでいく音楽性を持っているのは彼だ。そのくらいの期待を抱いている。

さて、2016年は京都のBEDが3P3Bから新作をリリースする。激情バンドyarmulkeの元メンバーが結成した9iもいい感じに仕上がってきているので、ぜひ作品を発表してほしい。若手も探しつつ、10年以上も音楽を続けている同世代をしっかりと取り上げていきたい。(山田 慎

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