私たちはV系の何に惹かれるのか~OL兼業ライターのひとりロクサミ(仮)Vol.3

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毎年5月に大阪心斎橋のアメリカ村で開催されている、ヴィジュアル系(以下V系)に特化したサーキットイベントKANSAI ROCK SUMMIT(通称ロクサミ)が、今年は新型コロナウイルスの影響で中止になった。そこで、「ひとりロクサミ」と題し、出演予定だった81組すべてを紹介する短期集中連載を企画。

前回のVol.2では、LUNATIC FEST.(ルナフェス)とVISUAL JAPAN SUMMIT(VJS)以降のV系インディシーンは、“V系こそカッコイイ”という価値観を持ちつつ、他シーンへ接近するバンドが増えたと述べた。
では、そもそも、私たちはV系の何に惹かれるのだろうか。どういうところに魅力を感じるのだろう。

V系というシーンが誕生して約30余年の間に、本当にたくさんのバンドが登場した。X JAPAN、LUNA SEA、黒夢、ジャンヌダルク、ムック、ガゼット、ナイトメア、シド、ゴールデンボンバー、メガマソ、アンカフェ、DIAURA、アルルカンなどなど、いろんなタイプのバンドがいるのがV系で、それがこのシーンの面白さでもある。だが、それでも、リスナーがV系に期待するポイントのひとつは、「悲しみ」や「怒り」「虚しさ」「淋しさ」などをのみこんだ「闇」、平たく言えば「暗さ」なのではないか。
例えばDIR EN GREYの作品は、あらゆる激しい感情がそのまま鳴っている。そしてリスナーは、その音を浴びた時に、どこにも拠り所のなかった自分が抱える負の感情の落としどころを見つけたりする。だからDIR EN GREYのファンは、縋るように彼らの曲を聴き、その混沌のなかに、「それでも」と、希望のようなものを見出そうとする。

人の負の感情にフォーカスし、それを表現することにこだわるバンドは、V系には多い。しかも、ただ暗いのではなく、リスナーをその闇の向こうへ連れて行こうとするバンドが。

というわけで、Vol.3となる本稿では、人の持つ複雑な感情、情緒を、歌謡曲や演歌のテイストを用いるなど、バラエティに富んだ音で表現するバンドについて紹介したい。

i.D.A

名古屋を拠点に活動する4人組バンド。切ないメロディと泣きのギターに、ヘヴィなリフとシャウトが合わさっている。ひとつの曲に悲哀と狂暴が混在しているよう。

umbrella

2010年結成の4人組。V系らしい陰鬱さを残しながらも洗練されていく様は、現在、V系と少し距離を置きながら新しい価値を生み出そうとするDEZERTとの共鳴を感じる。

ゼラ

イントロのギターソロも歌詞も、氷翠(Vo)の悩まし気な歌声も、まるで演歌のようだ。2020年始動の4人組バンド。

ヘルタースケルター

哀愁漂うもの悲しい旋律の曲を得意とする2018年に始動した5人組。歌謡曲に影響を受けているよう。ボーカル(=歌)に絶対的な信頼を置き、真ん中に据えるスタイルは、シドの佇まいと似たものを感じる。

mama.

2018年の暮れに始動した5人組バンド。ひたすら報われない想いを歌い、女性目線の曲も多い。繊細なボーカルの声が、痛々しいほど悲しい曲にマッチしている。

マルコ

2014年から始動した現在4人組のバンド。ヴィジュアルを見ると“レトロ”がキーワードのひとつだろうが、エキゾチックで怪しげな印象も受ける。展開が読めない曲が多く、破天荒だが、逆にそれが、一筋縄ではいかない人間の胸の内を表しているよう。

ギャロ

グロテスクでホラーな見た目は、もはや特殊メイクかという過剰さ。そのヴィジュアルのみならず、曲も、疾走感のあるツービート、シンコペーション、急にテンポを落としてメランコリックな展開になったりと、1曲の中にあらゆるパートを詰め込みまくっており、その過剰さがおもしろい。2009年活動開始の5人組。

HAKLO

2018年始動の5人組バンド。メロディアスの歌ものかと思いきや、リズムも弦楽器のフレーズも多彩で複雑な響き。背景にはジャズなどもありそう。

SiREN

生き急ぐように刻むギターとドラムのビート、憂いのある歌声からは、いま、この瞬間に懸ける必死さを感じる。メンバーの脱退が続き現在は3人で活動している。

SCAPEGOAT

2009年に結成し、昨年新メンバーのドラムを迎えて再始動した。ゴリっとした低音のギターと、攻撃的なサウンドは、前回紹介したZONらとも通ずる。

ベル

2014年から活動するバンド。メンバーチェンジを経て2019年に現メンバーの5人で新生ベルとして再出発した。切ないメロディと軽やかなダンスミュージック、和モダンを意識した楽曲は、ボーカロイドのリスナーにも受け入れられるのではないか。

ストロベリーソングオーケストラ

1998年から活動しているパフォーマンス集団。グロテスクでアンダーグラウンドな匂いは、cali≠gariなどの密室ノイローゼに所縁のある面々と親和性が高いだろうし、過去にはR指定やMERRYとの競演もある。

 

◆小川あかね

セーラームーン&SPEED世代。ヴィジュアル系村の住人。ガンダムはシャア派。モビルスーツはシナンジュ。好きなタイプは空条承太郎。声優沼に腰くらいまで浸かってます。

akane.o1218*gmail.com  (*=@)

Twitter:@akam00n


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ZON/空想ノベル/L.A bate/The Guzmania/nurié/マチルダ/THE NOSTRADAMNZ/RAKUGAKI/the LAHNGS/サイノ筐ニワ~31-8520~/The Benjamin

 

 

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