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本稿は、今年のKANSAI ROCK SUMMIT(通称ロクサミ)が新型コロナウイルスの影響で中止になったことを受け、出演予定だった81組のヴィジュアル系(以下V系)バンドを紹介しようと企画した短期集中連載です。

前回、V系の魅力のひとつは、人の負の感情にフォーカスし、リスナーをその闇の向こうへ連れて行こうとするところだと述べた。
“闇”を扱うことは、V系の十八番なのである。ふさぎこみ沈みきった状態を、とことん暗く、でも、耽美的に表現することはV系の美学とも言えよう。例えば、BUCK-TICKは、闇の帝王かのような櫻井敦司(Vo)の美貌も相まり、オーディエンスを暗闇へ引き摺り込むほどの魔力があるし、X JAPANのYOSHIKIが紡ぐピアノの音色からは、二度と癒えぬ悲しみが聴こえてくる。どちらも、それを観聴きすることで、リスナーが表現者の核にあるその闇に触れ、共鳴する。

一方で、近年のV系で見られるのは、“闇”よりも“病み”である。しかも、己の“病み”というよりは、身近な人が病んでいる状況を俯瞰で見つめ、その傷だらけの胸の中を暴くような歌詞が多い。これは、先に述べた、リスナーが表現者の心の闇に触れて共鳴するのとは逆で、表現者の側がリスナーの心の闇を覗いているような構図だ。
加えて、V系シーンのリスナーには、いわゆる“メンヘラ”が多い。だから、多くのリスナーはそういう曲を聴いて、まるで自分の心を見透かされたような気持ちになるだろうし、共感も生む。そうやって2010年代後半、“メンヘラ”はV系シーンでトレンドとなった。

そのメンヘラブーム、先頭に立つのはR指定だろう。楽曲「アイアムメンヘラ」(2012年6月)、「病んでる彼女」(2014年5月)の発表や、2016年からは主催イベント、その名も「メンヘラの集い」を開催。彼ら以降、“メンヘラ”や“病み”という言葉を、ストレートに曲名や歌詞で使うバンドはぐっと増えた。

とはいえ、ブームの火付け役はR指定だろうが、私は、V系シーンにおける“闇”から“病み”へのターニングポイントは、シドの「妄想日記」だったのではないかと考えている。アルバム『憐哀-レンアイ-』(2004年12月)に収録の楽曲で、シングルではないが人気の高いこの曲は、ストーカー化するファンの心理を描写したような歌詞で、これをアーティスト側が歌うことには大変インパクトがあった。また、2013年にはシドの結成10周年を祝い、当時の若手バンド10組がこの曲をカバーした企画も記憶に新しい(前述のR指定も参加していた)。このカバー企画により、改めて「妄想日記」の影響力の大きさを実感したし、振り返ってみれば、この企画こそが、近年のメンヘラブームへの引き金だったのではないだろうか。

というわけで、Vol.4の本稿では、その“メンヘラ”を自分たちの表現として取り入れているバンドについて紹介する。

 

甘い暴力

2016年に活動開始した4人組で、おそらく今、V系シーンで最も熱視線を浴びるバンドだろう。“病み”や“メンヘラ”をテーマとしてはいるが、深刻になりすぎず、かといってネタまではいかないギリギリのラインで、ユーモラスに昇華する。なによりバンギャに対して、「そんなお前らが愛しい」という一貫した姿勢が感じられる。今一番熱いバンド。

アンドゥー

「絶対的社会不適合者」と自称する2017年始動の5人組。歌詞はえげつないが、低く重厚感のある楽器隊の音に、オーディエンスも一緒に叫べるキャッチーなサビ、極めつけに中毒性のあるエレクトロサウンドまで乗っかって、もはや曲自体が麻薬のよう。ライブでもめちゃくちゃ盛り上がるのだろう。

感染²(Sick²)

バンドSick²が2020年2月から始動した期間限定プロジェクト。血まみれでホラー映画のようなMV。高速ツービートはDir en greyの初期の「残」を彷彿させる。ボーカルの声に張りがあり、歌声に惹きつけられる3ピースバンド。

キラワレモノ

2018年始動。現在は、砂糖(Vo)がひとりで動かしておりメンバー募集中のようだ。
その砂糖(Vo)だが、大学では心理学を専攻していたそうで(砂糖Twitterより)、荒んでしまう心の動きを一歩引いた目線からとらえるような歌詞が印象的。カラフルでポップなヴィジュアルは、Kawaii文化とも馴染みがよさそう。

ジグソウ

2018年に活動を始めた「レトロホラーカーニバル」を掲げる4人組。特にこの曲のMVは、メリーゴーランドの前で、白塗りのピエロのようなヴィジュアルのバンドが、ハードコアにサーカス調の怪しげな音階を織り交ぜた曲を鳴らす。まさに「レトロホラーカーニバル」を体現した曲だと思う。

CHIC BOY

2018年から活動。メンバーチェンジを経て現在5人組。他のバンドは、バンギャルや彼女の病んだ心を歌う曲が多いなか、MVと歌詞から推察するに、この曲で病んでるのは彼のほう。途中挟まれるでラップパートでは、V系に対して辛辣な言葉が並ぶ。跳ねるギターとシンセ音が小気味よい。

SHiSHi

2018年に始動した5人組。「病みうさぎ」「かまちょ。」「バブみ。」など、いかにもメンヘラなタイトルが並ぶ。曲調もダンスミュージックで、寂しがりやで構ってほしい子たちのメンタルをストレートに表現している。振り付けまで完璧にこなすライブフロアが目に浮かぶ。

未完成アリス

2017年にもともと別のバンドで活動していた有栖川 塁(Vo)と、唯依葉(G)により結成された現在5人組のバンド。
リズミカルなギターのカッティングに裏打ちハイハットのドラム、弾む鍵盤はラテン調で、巧みに転調を繰り返す楽曲はとてもノリがいい。そして歌詞には、女の強情さ、エゴイスティックさが垣間見れる。サウンドも、歌詞も、他のV系バンドと一線を画すアプローチだ。

在りし日のうた

2019年11月に始動した3人組。「炎上のすゝめ」というタイトルからは、V系シーンに巣くうバンギャ文化を皮肉るような曲かと想像したが、実のところ、唐突にやってくるサビのマイナー調で切ないメロディと、そこで歌われる歌詞を聴かせるための曲構成なのだと感じる。バンギャルたちの抱える心の空洞に触れようとしているのかもしれない。

外道反逆者ヤミテラ

2017年に始動した5人組。ヘヴィロックに和を意識した音階を取り入れるサウンドを基軸としているが、この曲は「メンヘラヘラ メンヘラ」と歌うサビがあまりにキャッチー。
現在、新型コロナウイルスの影響で活動に支障が出ており、クラウドファンディングを実施している。
V系バンドは、衣装やメイクなど何かと入用だ。新型コロナウイルスで、大きな打撃を受けているバンドは多いだろう。どうか彼らの情熱が絶たれてしまうことのないよう、できる支援はしたい。

参考
『ROCK AND READ079』/「R指定「宗教化」計画」/2018年9月18日発行/株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント

◆小川あかね

セーラームーン&SPEED世代。ヴィジュアル系村の住人。ガンダムはシャア派。モビルスーツはシナンジュ。好きなタイプは空条承太郎。声優沼に腰くらいまで浸かってます。

akane.o1218*gmail.com (*=@)

Twitter:@akam00n


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