【関西ヴィジュアル系シーンを読む 】第5回KANSAI ROCK SUMMIT’19に見る、関西V系シーンの今
- By: 小川 あかね
- カテゴリー: Column
- Tags: Base Ball Bear, CROW MUSIC, DEVILOOF, FEST VAINQUEUR, Free Aqua Butterfly, KANSAI ROCK SUMMIT, KISAKI, Rides In ReVellion, SiM, UVERworld, V系, ZON, ザアザア, ビバラッシュ, ロクサミ, ヴィジュアル系, 凛として時雨, 甘い暴力

5月12日(日)、大阪心斎橋アメリカ村で大規模なヴィジュアル系(以下V系)のイベント、〈KANSAI ROCK SUMMIT’19 EXPLOSION CIRCUIT〉が開催された。〈ロクサミ〉の通称で親しまれているこのイベントは、2014年から毎年5月に、アメリカ村の複数のライブハウスで開催されている、V系に特化したサーキットイベントだ。6年目の今年は、72組の出演者が全国から集結。また、会場には、近辺のライブハウスでは最大の、約850人が収容できるBIGCATも加わり、過去最大規模での開催となった。
本サイトでも、ロクサミについてはこれまで何度か紹介しているが、今年のロクサミは、過去6回の中で、最も関西勢の活躍が目立った年だったように思う。そこで、本稿では、現在勢いのある関西シーンの様子についてお伝えしたい。
そもそも、これまでの関西のV系シーンは、人気や実力が頭ひとつ飛び抜けたレーベルやバンドが、シーンを牽引するという構図だった。2000年代は、関西V系の皇帝〈KISAKI〉(ex.凛、Phantasmagoria)が率いたレーベル〈UNDER CODE PRODUCTION〉、2010年代中頃からは、確かな演奏力と、恵まれたルックス、それでいて親しみやすい兄ちゃん気質で、曲にも関西のノリを取り入れたバンドFEST VAINQUEUR(2019年10月まで活動休止中)。このように、少なくともここ20年程は、シーンを代表するようなレーベル、もしくはバンドがいたのだ。
では、現在はというと、そういう絶対的な存在を挙げることがとても難しい。特にFEST VAINQUEURが不在の今年、人気、実力が拮抗しているバンドがたくさん登場している。それが今の関西V系シーンの特徴だ。先日のロクサミでは、その様子が動員数という分かりやすい形で表われていた。OSAKA MUSEを入場規制にした、デジタリックなサウンドと、切ない旋律を融合させたRides In ReVellion。とにかく楽しく、明るく、オーディエンスを盛り上げたパーティバンド、ビバラッシュ。BIGCATを満員にした、関西ゼロ世代との共鳴を感じさせるバンド、ザアザアと、同じくBIGCATで大トリをつとめた「メンヘラ」をユーモラスに表現する甘い暴力。強烈なデスコアサウンドで、パンパンになった会場にサークルモッシュの渦を生んだDEVILOOFなど。入場規制、もしくは、入場規制スレスレという状況が、あちらこちらで発生していたのだ。そして、そのほとんどが、関西を拠点に活動しているバンドたちで起こっていた。
また、面白いのが、これらのバンドの音楽性や趣向が、前述のとおり、バラエティに富んでいることである。特に、ZONの飛躍と、Free Aqua Butterflyの存在は、V系シーンに新しい風を感じさせた。
4人組バンドのZONは、V系としてはめずらしく、ストリートの感性を持ったミクスチャーロックを得意としている。おそらく、曲だけを聴いてZONを迷わずV系と位置付ける者は少ないのではなかろうか。サウンドや歌詞からはUVERworldやSiMらV系ではないバンドからの影響を強く感じる。また、彼らの曲に合わせてツーステップで踊るバンギャルたちにもとても驚いた。
Free Aqua Butterflyはメンバーに女性がいる4人組バンドだ。会場では熱心な男性ファンも見かけたし、彼女目当ての女性ファンも多い。曲によっては、Base Ball Bearや、凛として時雨のような、あきら(Vo)と早希(Vo&B)の歌の掛け合いがあるが、女性ならではの透明感のある歌声で、楽曲に愛らしさが加わり、とても新鮮だ。こういった、これまでV系ではあまり見られなかった性質を持つバンドに対しても、興味津々に食いつき、受け入れる雰囲気が、ここ、関西にはある。
ロクサミは、今や、関西だけでなく、V系シーン全体にとっても、影響力のあるイベントだ。はじめに、「今の関西で、シーンを牽引する存在を挙げるのは難しい」と述べたが、2014年以降、毎年この大きなイベントを運営する、京都のV系レーベル、〈CROW MUSIC〉の存在は大きい。だが、〈CROW MUSIC〉は、主宰イベントやアウトストアイベントなど「場」を作ることに徹しており、その姿勢は、シーンを「引っ張る」というよりは「支える」という言葉がしっくりくる。ロクサミも、〈CROW MUSIC〉所属バンドだけが目立つわけではなく、全国のV系シーンで活動する全てのバンドに開かれたイベントとなっている。もしかすると、ロクサミの「開かれた空気」が、現在の、自由で雑多な関西シーンの風土を作った要因のひとつかもしれない。新しくて面白いことは、関西から起こる。そんな予感を感じさせる、2019年のロクサミであった。
◆小川あかね
セーラームーン&SPEED世代。ヴィジュアル系村の住人。ガンダムはシャア派。モビルスーツはシナンジュ。好きなタイプは空条承太郎。声優沼に腰くらいまで浸かってます。
akane.o1218*gmail.com (*=@)
Twitter:@akam00n
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