【コラム】1981年の松任谷由実と神戸

松任谷由実『昨晩お会いしましょう』
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松任谷由実『昨晩お会いしましょう』
松任谷由実
昨晩お会いしましょう
東芝EMI, 1981年11月1日
12枚目のオリジナル・アルバム

いまから37前の1981年、神戸はポップスの舞台として機能していました。80年にゴダイゴ「ポートピア」(ポートピア81のキャンペーンソング)、大地真央「ポートピア’81がやってくる/ポートピア’81音頭」(当時宝塚歌劇団に所属)、桜田淳子「神戸で逢えたら」(tofubeatsが2013年にカバー)。その翌年には矢野顕子「春先小紅」(歌詞が「春先、神戸に」と聴こえる空耳ソングと話題になりました)、そして松任谷由実「タワー・サイド・メモリー」と当時のポップシーンから注目を集めていたことが分かります。この年は、66年から着工していたポートアイランドの完成。それに伴い神戸ポートアイランド博覧会「ポートピア81」を開催。三宮と人工島を繋ぐために、世界初の無人運転システムを導入した交通機関ポートライナーを開通させました。「ガンダーラ」や「銀河鉄道999」など未だによく耳にする楽曲を立て続けにリリースしていた時期のゴダイゴがキャンペーンソングを書くというだけでも、ポートピアが大きな話題となっていたことが分かります。しかし、ここでは現在の神戸のポップスとの繋がりから松任谷由実「タワー・サイド・メモリー」に注目しようと思います。

『Fantasy Club』収録「This City」

80年頃の松任谷由実は、いまに続くユーミン・イメージを確立する上で重要な一枚となった『Surf & Snow』(1980年)をリリース。このアルバムをきっかけとして冬は苗場プリンスホテル、夏は逗子マリーナというリゾートライブシリーズが始まるなど、当時都市に住む若者がレジャーへ行くというライフスタイルを相互補完する形で受け入れられていったそうです。「タワー・サイド・メモリー」はその翌年にリリースされた『昨晩お会いしましょう』のアルバム曲として収録されました。ポートピアやポートライナーなどを歌詞で言及し神戸を全面に押し出すことで、レジャーの提示という『Surf & Snow』の流れを汲んでいます。しかし、この曲の肝は酒井順子の著書『ユーミンの罪』でも言及しているように、ポートピアの終わりと恋の終わりを重ね合わせるように振り帰っている点ではないでしょうか。この曲はポートアイランドではなく、ポートタワーを舞台としています。ポートタワーはポートピアの会場とは少し離れた対岸の陸地にあり、81年当時から考えると18年前の63年に建てられました。当時の神戸の人にとっては見慣れた風景の一部であり、祭りに浮足立つ街の景色を一定の距離間を持って眺める場所として機能していたと考えられます。そこに松任谷由実のソングライターとして物語を作り出す妙を感じます。そして「街角のペシミスト(悲観論者)」へと続く流れも、前作のリゾート地から、本作ではお祭りが終わり普段の都市生活へと戻っていくようにも思います。

これらのポップスに対する返答として2010年代に入りそれらの楽曲の流れを汲みながらも、新しい形で提示したのがtofubeatsなどのトラックメイカーです。tofubeats「BABY」(2017年)は、ブレット&バター「あの頃のまま」(1979年)がサンプリングされています。この曲の作詞作曲を手掛けた呉田軽穂とは、松任谷由実のペンネームです。さらに彼の大学の同級生thamesbeatの1st『PORTOPIA’81』(2012年)には、松任谷由実「タワー・サイド・メモリー」をサンプリングした「kobe girl」が収録されています。そこにtofubeatsが寄せたライナーノーツは、神戸(地方)に住むことへの悲喜交々を簡潔に表しています。大学卒業後も神戸を拠点にしているtofubeatsは、東京に出ていかず地方に住むことに対して自覚的である発言をしています。それは、活動にも表れているように思います。彼が主題歌を手掛けたドラマ『電影少女』(テレビ東京系で現在放映中)では、劇伴をin the blueshirtやパソコン音楽クラブ、ゆnovation、ドーナッツ梶、本田たくと、Le Makeupら関西在住のミュージシャンと共に共同制作をしています。さらに博多のラッパー/コメディアン徳利がInstagramにアップした“「This City」のビートジャック” を『Fantasy Club』のリリースパーティで使うなど彼の活動が地方に住むミュージシャンのフックアップという面でも大きな影響力を持ち始めているのではないでしょうか。神戸市とコラボした神戸の若者にスポットを当てるための企画「kobebeats PROJECT」なども、それらの延長線上として捉えることができます。彼のこういった活動は、住んでいる街で自分に何ができるかという視点を与えるきっかけとなっているように思いますし、それだけでなく外から神戸が注目を集めるきっかけを作っているように感じます。

神戸を拠点とした若者にスポットを当てた『U30 CITY KOBE tofubeats編』

本稿では着工から15年の歳月を経て完成させた大事業・ポートアイランドがきっかけとなり多くの神戸を舞台としたポップスができたことに触れました。そのポートアイランドと隣の人工島・六甲アイランド(1988年完成)を作るために削られた六甲山の跡地にできたニュータウンがtofubeatsの出発点になっていることは、神戸の街の変化が彼の背景にあると捉えることができる面白い事実ではないでしょうか。ここには神戸の街が形成してきた文化の一端が表れていると思います。

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