【コラム】森本アリ著『旧グッゲンハイム邸物語』は『バグダッドカフェ』『カーズ』に継ぐ、塩屋における“まちづくり”ドキュメントだ

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森本アリ著『旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし』

森本アリ
旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし
ぴあ, 2017年
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いまでは旧グッゲンハイム邸と言えば、ライヴハウスとして、さらに結婚式場やワークショップの会場など、神戸のカルチャーを牽引する一つの基点とも言える程の存在感を示している。しかし、数年前まで旧グッゲンハイム邸やこの邸宅のある塩屋は、神戸に住んでいる者にとっても馴染みのあるものでは決してなかった。本稿で紹介する『旧グッゲンハイム邸物語』とは、旧グッゲンハイム邸を中心に如何にして塩屋が今のように注目されるに至ったかを、当事者の視点から書かれたドキュメンタリーである。

この本を読んで、私が思い浮かべたのは、1987年に公開された映画『バグダッドカフェ』と、2006年に公開され、3作目が予定されている人気シリーズの1作目『カーズ』だ。この2作に共通しているのは、栄えているとは言えない地方都市が、ある出来事をきっかけに何年も停滞していた生活に変化が訪れるというもの。バグダッドカフェでは、ドイツ人旅行者ヤスミンが夫とのアメリカ旅行中にケンカで車を飛び出した事でたどり着いた町で、カーズではマックイーンがレース会場への輸送中の事故をきっかけに、それぞれ自分の意思ではなく不可抗力により辿り着いた町との出会いが大きなきっかけを作る。

それと同じようなことが、この塩屋でも起こっていたというのだから現実は小説より奇なりだなと、思わず笑ってしまった。まず森本アリさんとは、ベルギー人で宗教学者の父と、日本人でステンドグラス作家の母を親に持ち、塩屋で育った。高校の1年間と大学時代はアートを志し、ベルギーへ留学、そこでは数多くの賞を受賞するほどだったという。そんな森本さんが母からアトリエを手伝って欲しいと言われ、大学卒業後日本に帰国。そこから、妹さんをきっかけに森本家が旧グッゲンハイム邸を購入することに。初めは森本アリさんだけ購入に反対であったことなど、自分の意思ではなく、巻き込まれる形で関わるようになっていく。2007年に運営を始めてからも、人とのつながりで、偶然のような必然で、どんどんと繋がっていく様は、まさに映画のような展開だ。

この本で書かれているまちづくりのプロセスを見ると、そこには初めからビジョンを持っていた訳ではないことが明確に書かれている。そして、それはこれからもそうであり、自分たち住民がどういう町で暮らしたいかを突き詰めた結果だということがわかる。等身大の当事者同士がどうしたいのか考えるというシンプルなことの積み重ねの大切さを改めて考えさせてくれるドキュメントであり、神戸に住んでいる方は、この街の歴史を知るという意味でも興味深い一冊となりうる。

ちなみに今年神戸は開港150年を迎え、様々なイベントが開催されている。その中には森本アリさんも自身のバンド三田村管打団?として参加した「神戸国際ちくわ笛音楽祭」など120以上の企画からなる『神戸国際フルート音楽祭』や、日本版SXSWを目指し立ち上げられた神戸の市外局番を冠した音楽・映画・IT・食のイベント『078』など地域を巻き込んだ面白い試みがされている。