【コラム】西寺郷太著書ワークスでみる〜現代のポップに繋がる80年代ポップ〜

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西寺郷太『新しいマイケル・ジャクソンの教科書』

西寺郷太
新しいマイケル・ジャクソンの教科書
新潮文庫, 2009年
BUY: Amazon, タワーレコード

2016年のUSポップシーンを振り返った時、ブルーノ・マーズやザ・ウィークエンドなどマイケル・ジャクソンに対するリスペクトの大きさが上げられると思う。それらを紐解くに当たってノーナ・リーヴス西寺郷太氏による関連著作は大きなヒントを与えてくれる。

西寺郷太氏がこれまで書き下ろしてきた6冊の著書では、一貫して1985年から86年の間にポップ・ミュージックの受け入れられ方がどのように変化していったかを、マイケル・ジャクソンやプリンスなどそれぞれのミュージシャンを題材に、パーソナルな特徴に注目して書いてきた。それにより80年代のポップシーンを多角的に検証し、現代と当時の空気感をも内包する形で浮き彫りにしている。これらの著作を読み進めていくに連れ、1986年生まれの私が何となく抱いていた、ウィー・アー・ザ・ワールドやマイケル・ジャクソンと言った80年代ポップに対する偏見は崩れていき、現代のポップ・ミュージックへの繋がりの中で捉え直させてくれた。

簡単にそれぞれの著書を順番に振り返ると、『新しいマイケル・ジャクソンの教科書(新潮文庫)』は、マイケル・ジャクソンの半生を特に彼自身で音楽を制作していくようになっていく過程に重きを置いて書いている。

マイケル・ジャクソン(講談社現代新書)』では、キング・オブ・ポップとなった90年代以降、彼を襲ったスキャンダルについて豊富な資料を元に実際彼の身に何が起こったのかを検証している。

噂のメロディ・メイカー(扶桑社)』では、ノンフィクション風小説という形で、彼の元に届いたワム! のゴーストライター疑惑を通して、これまであまり語られる事のなかった80年代ポップを代表するデュオであるワム! について詳細な分析をするだけでなく、イギリスと日本との距離感など30年前との違いなども書かれている。

ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い(NHK出版新書)』では、新しいトレンドは得てしていまのトレンドに対するカウンターとして出てくることが80年代を通じて具体的に語られている。そしてそれは、サウンドの変化、メディアの変化だけではなく、「ウィー・アー・ザ・ワールド」と「サムシティ」という2つの歌に注目し、イデオロギーの変化にまで踏み込んでいる。

プリンス論(新潮新書)』では、常に活発な活動を続け切り取りにくいプリンスの活動をアーカイブ的に取り上げ、謎が多く次の世代にとっては取っつきにくい存在であるプリンスのサウンドの何処が重要であるのかを提示している。

そして、最新著者である『ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち(星海社新書)』では、それら80年代ポップ研究の集大成として80’sポップはどのように終止符を打たれたかについて、それを大成させたマイケル・ジャクソンの妹であるジャネットがマイケルのライバルであるプリンス陣営とコラボする事で生まれた化学反応について、音楽家として特にドラマーという視点から切り込んだ一冊になっている。全編を通じて80年代の変化の大きな要素にヒップホップ的手法が受け入れられていくポップシーンの変化が書かれている。

これらの著書の中でも言及されていたダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』(2013年)が象徴するように、ディスコなど70年代後半から80年代への再評価が2010年代に入ってから顕著になったと思う。デヴ・ハインズはライトスピード・チャンピオンからブラッド・オレンジへと名義を変えて、プリンスへのリスペクトを伺わせるサウンドを構築し、いまやカーリー・レイ・ジェプセンのプロデュースを手掛けるようになった。R&Bに新たな風をもたらしたザ・ウィークエンドは『ビューティー・ビハインド・ザ・マッドネス』(2015年)収録の「Can’t Feel My Face」では、マイケル・ジャクソンに対するリスペクトをサウンドだけでなく、MVでも明らかな形でそれを提示している。体を燃やしながら歌う所などペプシコーラのCM撮影で起こった事故を象徴しているようにも思える。

そしてザ・ウィークエンドの最新作『スターボーイ』(2016年)では、お互いにマイケル・ジャクソンに対して敬意を表した作品を上梓したダフト・パンクとのコラボ。これは成るべくしてなったんだなと納得している自分がいた。

ザ・ウィークエンド『スターボーイ』

ザ・ウィークエンド
スターボーイ
ユニバーサルミュージック, 2016年
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

テン年代の日本のポップシーンとの繋がり

そしてもう一つ、テン年代の日本のポップシーンとの繋がりも見えてきた。ジャネット・ジャクソンがジャム&ルイスと共に『コントロール』(1986年)で、人力ではなく機械化されたドラムビートをポップ・ミュージック移植したことが、オアシスなどのロック・バンドにまで影響を与え、その後のポップ・ミュージックのあり方までも変えてしまったという趣旨の事が書かれていたが、この種の変化を日本に置き換えると、ニュー・ミュージックからJ-POPへの変化と考えられるのではないだろうか。

ジャネット・ジャクソン『コントロール』

ジャネット・ジャクソン
コントロール Limited Edition
ユニバーサルミュージック, 2015年
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

これらの著書の中でジャネット・ジャクソンの登場が宇多田ヒカルや安室奈美恵と言ったJ-POPの歌姫を生み出したことは言及されていた。さらに言えば、モーニング娘。に代表されるハロープロジェクト作品におけるディスコティックなサウンドの影響源としてモータウンやフィリーソウル、ニュージャックスウィングを確認できる。テン年代への影響という面ではtofubeats「水星」(2012年)だろう。この曲はテイトウワと今田耕司のユニットKOJI1200「ブロウ・ヤ・マインド」をサンプリングしているが、「ブロウ・ヤ・マインド」はジャネット・ジャクソン「This Time」のオマージュであると考えれば、水星は「This Time」の孫曲と言えるのではと思った。

これらから1986年という30年程前の出来事がいまのシーンの大きな影響源になっていることが理解できただけでなく、「ウィー・アー・ザ・ワールド」と「サムシティ」の違いのように、そこには起こるべくして起こるイデオロギーの変化による社会的要因が音の変化としても表れているという考察が特に興味深い。そしてマイケル・ジャクソンのように一度キングとなった者は、一度落ちなければならない。これは50年代〜60年代にカウンター・カルチャーとして、若者文化が育ってきた歴史を考えるとこれも必然なのだろうと考えさせられる。