【インタビュー】今、ここから何かが聴こえる~京都で生み出される音楽の現場~ | α-STATION エフエム京都

アルファステーション番組収録のマイク
Interview
Pocket

アルファステーションのスタジオ
アルファステーションのスタジオ

古くは村八分、ボ・ガンボスなどから、くるり、キセル、ここ数年でもTurntable Films、Homecomings、本日休演など……あるいは〈ボロフェスタ〉〈京都音楽博覧会〉〈いつまでも世界は…〉など多くの音楽イベントを生み、育てた町、京都。なぜこの町は常に音楽の発信地であってきたのか。そして、今再び新たな息吹が吹き込まれているのはなぜなのか。今回から不定期でそんな京都の音楽シーンの、今の現場を裏方の目線から掘り下げた探訪記が始まります。

第1回 エフエム京都

小さなエリアの中に、レコードショップやレーベル、スタジオ、ライヴハウスがあり、独自の音楽文化を育ててきた町、京都。そんな京都で、ラジオを通して音楽を発信してきたのがα-STATIONの愛称で親しまれているエフエム京都だ。91年の開局以来、独立ラジオ局系としてオリジナリティ溢れるプログラムを通じ地域と密接な関係を築いてきたそんなエフエム京都が、この春よりモード・チェンジ、番組のコンセプトを「α=心地よさ」から「京都人」に一変させたことは記憶に新しい。番組を80%も改編し、くるりやキセル、現在京都精華大学にて教鞭をとる高野寛、京都きっての人気レーベルである『SECOND ROYAL』のオーナー、小山内信介氏ら、京都に縁のあるアーティスト、キーマンがDJを勤める『FLAG RADIO』や、京都を拠点に活動している音楽評論家である岡村詩野による『IMAGINARY LINE』、京都のライヴシーンを牽引している『Live House nano』の店長、モグラ氏などがDJを担当する『KYOTO MUSIC SHELF』など、今までよりもぐっと京都の音楽シーンの動きが聴き取れるような番組が始まった。改編から約半年、同ラジオ局は今の京都音楽シーンをどのように捉えているのだろうか? 京都の音楽発信のキー局ともいえるアルファステーションがこのような動きを起こしたのは何故だろうか? 今回はラジオというメディア側からみた京都の音楽シーンについて、この番組改編の中心人物である株式会社エフエム京都 総合管理局 編成制作部長の堀秀和氏と、局内で多くの番組制作に関っているディレクターの杉本ゆかり氏(株式会社ステップ)に話を伺った。(取材・文 / 乾 和代

FM京都社内にはアーティストのポスターがたくさん貼られている
FM京都社内にはアーティストのポスターがたくさん貼られている

ラジオの聞かれ方が大きく変化した「今」だからこそ、コンセプトを一新

──京都は音楽シーンや文化が個々で発達しているイメージがあったのですが、特に今年の4月の番組改編以降、京都で活動しているアーティストやライヴハウス、レーベルなどの横のつながりが見えるようになってきたように思えます。このような大改編に至ったきっかけを教えて下さい。

堀 : 最近、ラジオの聞かれ方が大きく変わってきているように思います。当社は、今年で開局24年になります。開局以来、大人の感性を持った人、30~40代後半の人をコア・ターゲットにしてまして“α(アルファ)”というギリシャ文字が表すように“快適な”とか“1番”という意味があり、脳波のα波としても知れ渡っていますが、その言葉が示すとおり、“快適で心地よいミュージック・ステーション”をコンセプトにダイエットトーク・モアミュージックとして、洋楽メインで大人向けのいわゆる、「FMらしい」放送をやっていました。
しかし、これだけスマホを中心とした聴取環境の変化や新しいメディアが増えてくると、ラジオ自体の存在自体が、懐古主義的なもの、“もう誰も聞いてない”とか、“何? ラジオって”、と、いうような状況でラジオ全体がプロモーションしていなかったためにメディア自体が忘れさられてきたような、ラジオの存在意義自体がクエスチョンになってきているような、厳しい現実を痛感していました。
音楽の聞き方もYouTubeや様々なアプリが登場し、そこが起点となり中心となっていますし、我々にとってマイナス要素ばかりじゃないかと。そんな中、これから我々は、そういった難しい環境の中で皆様に愛されるメディアとして生き残っていく上で、どうやっていこうかと悩んでいました。しかし、ある時、逆に考えてみるとこういった状態のおかげて、ラジオにとってある種負の状態も、ひっくるめてすべてが「1回転」し、今、まさにゼロからの振りだしに戻ったんじゃないか、そんな、感じがしたんです。
ラジオをまったく知らない人が出てきて、“なに! この新しいメディア”というような、ラジオを、まったく新しい存在のものと思ってもらえたり、クリエイターが、新しい表現のツールの1つとして、可能性を感じ、興味を持ってきてくれているようなことが、最近、多くなっています。
それなら、もう一度、新しいメディアとして、勝負しよう!と、「まさに今だ!」というタイミングであったのと、これだけネットが普及し、情報が氾濫し、何もかもがそれに埋もれてしまっている市場の中で、うちの強みである「京都」というのをもっとストレートに前に出していって、「京都」を丸ごと集約し、束ねることで、もっともっと分かりやすくやる方がいいのではないか、という風に思ったのが、きっかけです。そういう意味で、コンセプトを根底から変えました。時代が変わってきているというのが、一番の原因ですけれど、より一層、話題性も必要だったので、激的にターゲットも変えてスタートしたかったんですね。その分、リスクもありつついいことも悪いこともあるような感じなのですが。

──当初は30代、40代がターゲットだったとのことですが、今はどのあたりに設定されているのですか?

堀 : 僕らの世代は、邦楽でいうと、バンドブームからTMネットワークのころとか、大量に音楽をかければかけるほど、いつのまにかそれが名曲になり、ヒットし、浸透していくというか、ドラマでもなんでもそうなんですけど、完全に発信側に流行や価値観をコントロールされてきた感じで、それでも楽しかったというのがあったんですが、今の子ってなかなか届かへんというか、こっちが思ったように投げても返ってこない。なんでもそういう状況があって、同じ20代であっても音楽が好きな子もいれば嫌いな子もいるし、価値観がそれぞれなので、年齢で区切るのをやめて、とりあえず京都が好きで、ニッチでこだわりを持っていて、サブカルが好きな子たちを応援していきたい、そこで共感できるようなリスナーの皆さんと一緒に、僕らも京都から、何かおもしろいことを発信していくことができたらな、と思いました。

──2009年も局の改編があったと聞いていますが、今回の改編は、コンセプトが大きく変わったことと、ターゲットの年齢設定をやめたことが大きな違いですか?

堀 : そうですね。エフエムといえば「若い」というイメージがあると思いますが、実際、うちのリスナーは年齢で調べると50代くらいの方に一番多く聞いていただいています。これは開局24年来、コア・ターゲットをこれまで30代に狙っていましたが、当時から聞いていただいている方々が、大変ありがたいことにそのまま24年間、ずっと聞いていただいているということになるんです。ところが他のデータを、年齢だけで調べてみると70代で、FMラジオを聞いている人はほとんどいないんです。皆さん、急に、AMを聞いてはりますね。このままいくと、うちのリスナーがどこかで、卒業? されるのではないかという危惧もあって、今、音楽が好きな50代より下の方々をもう1回掘り起こしたい、そして、これまでにない新しいリスナー像を開拓したいというのが、私の思いとしてありました。
これまでうちがやってきた番組やイベント、その雰囲気から醸し出される空間を愛していただいているリスナーの方々を、今回裏切るというか、うちの味を変えることで、お客さんが離れてしまうというリスクをとっても感じていましたが、今、勝負するしかない、そんなタイミングは、今しかないと思って、1歩前へ出たというか……。
うちを好きで、我々もリスナーの皆さんを好きでお互い、もっと内面で深く共感したい、相互関係になりたいという気持ちのほうが勝った結果でしょうか。そこには年齢という漠然とした切り口のものは必要ありません。音楽が好きで、SNSもやってくれて、先取り感というか、ジャーナリスト感といか、常に時代に敏感で、自分のポリシー、こだわり、があって、何かを表現したい、伝えたい、知りたい思いがある、そんな意欲あるリスナーの方々をなんとかつかまえたいなというのが目的でもありました。僕らと一緒に、共感し、なにかを一緒に作れる共同体として。

FM KYOTO アルファステーションのロゴ
FM KYOTO アルファステーションのロゴ
音楽制作会社Stepのロゴ
音楽制作会社Stepのロゴ

SNSやアプリにより、全国から聞いてもらえるメディアに変化

──実際、番組を改編して半年ほど経過しましたが、なにか変わったという手応えはありますか?

堀 : ラジコプレミアムの導入(月額350円税別)で、全国で聞くことができるようになったのは大きな変化です。うちのウェブサイトだけでみるとリスナーのアクセスが全国47都道府県に一気に増えました。番組でいうと、特にくるり、10-FEET、ROTTENGRAFFTY、つじあやのさんなどがDJを務めている『FLAG RADIO』が大きいですね。岡村詩野さんの番組も全国に影響力を持っています。SNSで拡散して、どうしても聞きたい内容やヒトだからこそ、全国から聞いてもらえるというイメージ通りの番組ができて。ウェブも昨年の4月と比べると、今年の4月だけでアクセスが4万件くらい増えています。トータル数はまだ出すことができていませんが、まさに今、2クール上期が終わり、検証中です。
ラジオとしての聴取エリアは、京都府内全域はもちろん遠くは三重まで、ほぼ関西全域でしか放送が入りませんでした。今は北海道から沖縄まで僕らのメッセージが届きます。実は、東京から聞いてくれている人が今、多いんですよ。京都の次は、東京です。ラジコプレミアムができて、うちも全国区のメディアになってほしいと思ってたんですけど、それには「京都」という最強のブランドを最大限活かすしかないな、と。まさに、狙い通りの結果です。京都、ありがとう! と(笑)。
リスナーの動きとしては、アーティストによるツイッターなどのSNSから番組をまず知って頂く。そのあと、アプリを手に入れラジコプレミアムに加入してもらう有料という、ハードルはあります。それにも関わらず、聴取チャンスやリスナーが拡大しているのはありがたいですね。そして、そのリスナー像は、全国へ、そして我々と一緒に共感できる方々が増えている、実際にそんなメッセージが増えています。

FM KYOTO ラジオ収録スタジオの録音機材
FM KYOTO ラジオ収録スタジオの録音機材

次世代へバトンタッチするためにも、全国へ誇れる京都のアーティストを一堂に

──特に今回の改編において新たに誕生し、平日夜の帯番組として看板番組となった『FLAG RADIO』ですが、日替わりでの担当DJはどのように選ばれたのでしょうか?

堀 : 私が入社した頃、当時、全国から京都の音楽シーンが注目され始め、京都でインディーズとして活動、メジャーデビューが決定し、全国へ進出とそんな道を行くアーティストがたくさんいて、当時「京都系」と言われるほど、台風の目、的なものが、ここ京都にはありました。
そういったアーティスト達が、全国へデビューし、これまでの周りの環境が変化していく姿や機会を私は、間近で接することができたことはとても貴重なことだったと、改めて思っています。くるりも、キセルも、つじあやのさんも、みんなそうなんですがデビュー前から知り合って、番組を一緒にしてたりしたんです。才能ある彼らが活躍し、全国でも有名になったのが僕らはとても嬉しかった。みんなが嬉しかった。
そして、今、年を重ねてきてふと振り返ったときに、最近、京都はみんなが嬉しい、そんなことが減って、あまりに、静かになってしまったと。当時の京都のような、あの頃のように全国から注目され、人が集まり、熱のように盛り上がっていたあの頃のように、もう一度、次世代のためにも京都の音楽シーンの活性化をしたいなと思ったんです。才能ある次のアーティスト達をきちんと紹介もせず、埋もれさせては、ダメだと。
彼らも、たぶんそう思ってくれていて、愛する京都だからこそ、もう一度、自分たちのスタート地点だった京都から、若い才能あるアーティストを掘り出してあげたい、というのもあったんじゃないかと思います。その頃の個人的な思い出、同窓会的なとこも僕自身ありますが(笑)。
全国へ誇れるたくさんの京都のアーティストが、こんなにも次世代へのバトンタッチ的な意味も含めて、集まった! みたいにしたいなと、そういう思いでキャスティングしたんです。あと、高野寛さんは東京在住ですが京都精華大学で特任教授をされてるというのがありましたし、ここ京都から次世代へ、継いでいてくれる大変貴重な方だと。どついたるねんは、今、サブカルシーンやトレンドに敏感な子から人気があるということを聞いていたのと、正直、スリリングな感じが(笑)。京都は芸大生が多いので、クリエイティヴというかアート系の子にも刺さるというか、聞いてほしかったというのがありまして。ちょっとニッチでトンガっている方が話題性もあってSNSでもっとつぶやいてくれるかなと、邪心もどこかにありました(笑)。

アルファステーションの機材
アルファステーションの機材

京都のアーティスト同士のつながりがネットワーク化してきた

──番組が変わったことで、局の内部で動きが変わってきたことはありましたか?

堀 : 心労が半端ないです(笑)。

──実際にライヴなどのイベントに行って、その音源をかけるケースも多くなっているように思います。

堀 : 多いですね。昔は違ったんですけど、僕らはどちらかというと、つい受身というか、レコード会社さんに、実際当社まで足を運んでいただき、いち早く最新の音楽情報を提供していただいている。その情報の中で精査し制作をし、リスナーの皆さんにお届けしているという放送の仕事が習慣や慣れで、仕事から、どうも作業になってきてるという危機感があったんです。でも、岡村詩野さんや新しいDJの方に入って頂いて、アーティストさんもそうなんですけど、その世界でがっつりと活動されているならではのこだわりや、より詳しい方がいらっしゃることで、かなり制作陣にとっては大きな刺激になっています。
もう一度、仕事として、いろいろ教えていただいてるところは、とっても大きいですね。選曲や音楽に対する考え方は確実に、変わってきています。つまり、どこにもできない、他局にもできない、うちだけの、ならではの音を探そうと。もちろん、機材も進化し、よりポータブルになったので外での収録もしやすくなり、ハード的な面も大きく影響しているかと思います。
あと、アーティストさん同士のつながりというか、ネットワーク化っぽくなっているのはいいなと思っています。京都ってみんな知り合いなのに、バラバラ、みたいなところがあるんですね。全アングルをとらえるのは難しいですが、うちを中心として、ひとつにつながりたいなというのが、昔からほんとに思ってるんです。

──今まで、そういった動きがなかったように思います。では、従来のリスナー以外のフレッシュな層が増えてきている感じはあるのでしょうか。

堀 : そうですね。どちらかというと新しい番組自体が音楽嗜好になって、アーティストも増えました。変わり目という意味もあり、あえてそうしているので、今までのリスナーの皆さんからすると、ひょっとしたら面白くないかもしれないですね。ラジオは、すぐ反応が出ないので、ボディーブローのように1年、2年タームくらいで、動きがこっちに実感として反応の波がくるんです。うまくいったなと感じられるとしたら、来年以降かもしれません(笑)。
ただ、これまでのマスを狙うというよりは、リーチ、浸透の深さを狙うという発想の転換をしています。ワンクールでは判断できませんが、半年経ってYahoo! ニュースや全国メディア、大手サイトに、うちのことがニュースとして掲載していただく率は、確実に上がってきています。来年には、よりリスナーの皆さんと共感し、コンテンツを一緒に作っている、そういった本当の音楽ステーションに変われたらなと思っています。

──新しいコンセプトとして“京都人”を立ち上げられましたが、これを長いスパンで続けようと思っているのですか?

堀 : 僕が退社しない限りは(笑)。

──来年の2016年は開局25周年ということですが、イベントなどやってみたいことはありますか?

堀 : 京都は、フェスのできるような大きな場所が、近隣への音量の問題や収支を考えるとキャパが足りないなど、土地柄、物理的な問題を抱えています。また、ちょうど、イベント・フェスも過渡期のようで悩ましいところです。今、定額制で音楽が聴き放題というのがありますが、今後イベントやフェスも定額制で見放題になるんじゃないか、ともいわれていますし、収益として考えるうえで、よほど企画を練らないとちょっと難しいかなというのと、僕らのこれから目指している方向は、ちょっと左京区っぽいというか、アート好きで人ごみを嫌うような、王道を嫌うような、ちょっとひねくれた感じのラインなんです。アングラに、こっそりやっている方がかっこいいというか、量より質を求める京都人をつかまえたいので、フェスという感じではないかもしれません。夜中に京大西部講堂の前で人は居るけどシーンと静まりかえっていて、よく見てみたらヘッドフォンをつけてサイレントフェスをしているような、何やっているねん! みたいな方が、京都らしいかなと思っています。偏狂なほうが、インパクトがあるじゃないですか。偏った考えであるかもしれないですが、京都らしい、京都人が好きそうなことをコーディネートしたいなと、いうのが、京都っぽいかな、京都人に似合うかなと思っています。

アルファステーション番組収録のマイク
アルファステーション番組収録のマイク

100%自社制作で番組を作ることができるのが強み

──アルファステーションは、独立放送局として運営されているというところも他局との違いとなっているように思うのですが、いかがでしょうか?

堀 : 他局とのネットワークを持っている系列局は、どうしてもキー局に主導権を握られる部分がありますが、うちは独立して運営しているので、全くそういうものはありません。クライアントとリスナーに重きを置きながら、100%自社制作で番組を作ることができるというのが強みですね。いろんな企画でもなんでもそうなんですけど、どちらかといえば、縛りゼロみたいなところでどうやっていくかですね。

──そういう部分もあったから、今回の大きな改編も可能だったのですね。

堀 : そうですね。あと、少数でやっていまして、制作スタッフも100%自社制作でやっているわりには、ぎりぎりの人数でやっているので、疲労困憊で、仕事ばっかりで、ネタ切れ、余力不足なところもある。専門性と総合性のキャパオーバーな部分が多々あるんですが、その分、なにかを変える時は、小回りが利くというか、それは強みですね。あと、他局に比べてうちは比較的、横のつながりが強く、垣根なく全体のことを考えてくれるスタッフが多いんです。みんなうちを好きで結束力をもっていてくれるのが、「こうするぞ」という時にすぐに変われるという力になっていると思いますし、とっても感謝しています。

エフエム京都の番組収録スタジオ
エフエム京都の番組収録スタジオ

アーティストも、ライヴハウスの人たちも行動力が上がってきている

──そんな制作の現場でディレクターとして活躍されている杉本さんは、京都にお住まいとのことですが、たくさんライヴにも足を運んでいると聞いています。京都のいちリスナーとしてライヴを見られている中で、ここ最近の京都の動きというのはどのようにとらえてらっしゃっているか、まさに改編前後をはさんで何か劇的な動きはあったのか。ここ数年の京都の動きで大きな変化を感じていらっしゃれば教えて下さい。

杉本 : 私が京都に来るようになってから、出会った人たち、そのころから関わりあった人たちとの関係は今も続いていますが、年を重ねていくごとに、みんな個々で動くようになってきて、アーティストも、ライヴハウスの人たちも行動力が上がっている感じがしますね。それは、例えば実際に音源を出すとなると、これまで東京の事務所であったりとかレーベルであったりとかに頼っていたものが、自分たちの力で出そうという流れになって、個々の制作力であったり行動力が上がっている印象はあります。

──実際、ライヴハウスも増えていますね。御局には現在、『Live House nano』のモグラ氏や『KYOTO MUSE』の行貞氏がDJを担当する番組もあります。これはある意味すごく冒険でもあるし、トライアルなことでもあると思うんです。タレントではない、裏方を逆にDJとして出演してもらう、そのような番組が増えたことで何か思うことはありましたか。

杉本 : タレントではない人たちが関わることによって、メディアに対する目線が近くなった感じがします。例えば、普段、自分たちが出演しているライヴハウスの人や制作に関わっている人たちが、メディアに出て自分のことを話してくれているということで、目線が近くなっている部分もありますし、アーティストにとってもメディアがより近く感じてもらえるようになったというか。目標として、いつか自分たちも出演できるようになりたいねと思ってもらえたり。例えば、前々からあるパワープレイの“Hello! KYOTO POWER MUSIC”は、普通のパワープレイと違ってアーティスト自身がエントリーできるので、目標にしてもらいやすい部分もあり、メディアに出るというハードルがより下がった感じもあるかもしれません。

堀 : 僕がリスナーだったら、「本音」を聞きたいというのが1番だと思ったんですね。やっぱりその人はどのように思っているんだろうという、その人の声、ここだけのハナシみたいなのがもっともっと聞きたいのではないかと。もともと最初は以前、クラブサーキットイベント〈KMF〉というのがあって、『METRO』さんや『WORLD-世界-』さんのプロデューサーの方々が、DJとして実際にしゃべって頂いたんですけど、それがいわゆる、プロのDJじゃない人がメインで番組をやる、というのが、お互い初体験で(笑)。
でも、それがとってもいい味を醸し出して、結構いけるな感があって。なんといってもリアルな話が聞けるところと、これまでにない選曲と交差して、どこにもない番組で、わ~面白いな、と思ったんです。それにすっかり、味をしめてしまい(笑)。
今度はライヴハウスチームをDJに、というのがあって、皆さんの御厚意とタイミングとがうまくそろったというところもあり今回実現したのですが、これがもし10年前とかだったら考えられないかも、ですね。

──10年前であれば、そのような横のつながりが生まれるような土壌がなかったということでしょうか。

堀 : なかったかもですね。うちも、しゃべり手のプロ、DJ以外は喋らせるな! みたいな(笑)。そして、みなさんも、やっぱりライバル同士、競合店。ここまで、仲のいい同じような年齢の方々で同じような考えで、繋がってらっしゃる印象はなかったですね。

杉本 : そうですね。

──昔に比べて、クラブであったり、ライヴハウスであったり、京都の中でも皆さんが何か一緒にしようという動きが個々にできてきたのでしょうか。

堀 : そうですね。ここ7、8年でより一層活発になってきているかもしれないです。みなさん、「京都のため」を思っている。

杉本 : それこそ〈ボロフェスタ〉チームもそうですし、最近だったら、〈いつまでも世界は…〉がライヴハウス同士で一緒になって頑張って盛り上げています。

アルファステーション番組収録スタジオの機材
アルファステーション番組収録スタジオの機材

スタジオを出る機会が増え、よりライヴ感が生まれている

──杉本さんは週に何本の番組を担当していますか?

杉本 : 自分がディレクターとして関わっているのは、岡村さんの『IMAGINARY LINE』とウルトラワタワーの『ULTRA RADIO』、原田博行さんの『HARADISE RADIO』と高野さんの『FLAG RADIO』、そして日曜の朝の『C’s NAVIGATION』ですね。

──杉本さんはこの半年でこれまでの動きと違うところを感じていますか。

杉本 : 関わっている番組の多くは収録ですが、スタジオを出る機会が増えたこともあり、よりライヴ感といいますか、音楽が生まれる現場に関われている気がします。出会う人もこれまでと違う層の音楽とも出会うことができるので、刺激はあって楽しいですね。

──最後に、京都の音楽シーンの変化について感じてらっしゃることがあれば、教えてください。

堀 : やはり、今の音楽性を見てると、僕はくるりの存在が一番大きいと思います。みんな影響を受けているんではないでしょうか。あとは、逆に変化しないとこが京都らしい、京都METROさんの存在。先日、Open Reel EnsembleのライヴがMETROでありましたが、ゲストは大野松雄さんでした。このブッキングは、京都ならではだと思うんですよね。あと、アート・リンゼイのライブでお客さんがいっぱいになるというのは、他府県ではありえないですよね、きっと。こんな土壌を作ったのはすごいなと思うので、うちもそうなりたいと思っていますし、変わらないとこのチカラが素晴らしいです。子連れでアート・リンゼイを見に来るとか京都ならではでしょうし。これこそが愛すべき京都だと思うので、もっともっと継承していきたいと思っています。

杉本 : 私はどちらかというと天邪鬼な方なので、自分自身は支持されているアーティストのフォロワーと言うよりは、ライヴハウスに行ったりとか、これからの核になれる人を探していきたいなと思っています。それが大多数に支持されるかどうかまだ分かりません。そういう意味でいろいろなアーティスト・音楽と出会っていきたいなと思いながらライヴハウスに行ったり、音楽を聴いたりしています。

インタビュー後記

取材後に〈音楽ライター講座 in 京都〉で講師を担当している岡村詩野さんがDJをつとめる『IMAGINARY LINE』の番組制作現場を見学させてもらった。番組を収録に携わるのはディレクターである杉本さんのみ。録音ブースに入る前に、番組進行用の台本に沿って、岡村さんが今回かける曲を確認しながら、杉本さんが手際よく、機械に音源をいれてセッティングを行っていく。話し合いながら番組の流れによって、選曲の順番をフレキシブルに変更していたり、時事的なトピックスなどの雑談のような話も、いざ番組がはじまるとトークの中の話題になっていたのが印象的だった。

ラジオでは岡村さんが一人で話しているように聞こえるが、ブースの外では杉本さんが相づちを打ったり、必要な情報を調べて伝えたりと、二人三脚で番組が作られているのを目の当たりにする。少数精鋭のアルファステーションだからこそできる、細やかな番組作りはこのような現場から生まれているということを実感した。

今回のアルファステーションの番組改編によって、参加型というか、アーティストも制作サイドもライヴハウスの現場も、場合によってはレーベルもすべてが結果として横並びになっていく、というような作用の後押しをしている印象を受けた。DJはDJだけであるとか、ミュージシャンはゲストとして出るだけ、という垣根さえもとっぱらって、それが結果として新しい世代を巻き込んで、京都の狭いエリアの中でひとつ大きなシーンのようなものができつつある。それを後ろから大きく支えているような立場に今、このアルファステーションがなっているのだ。

関連リンク

Interview
【インタビュー】インディーにも、シューゲイズにも属したくない。揺らぎが目指す新しいシューゲイズのかたち

滋賀県出身の4人組、揺らぎが8月8日にFLAKE RECORDSが運営する音楽レーベルFLAKE S …

Interview
【インタビュー】憧れを奏でるバンド。Ribet townsが語る、いまと未来の私たちについて。

京都にRibet townsというバンドがいる。今年avex、DUM-DUM LLP、HOT STU …

ベランダ
Interview
【インタビュー】ベランダ、これまでとこれからの“街”と“旅”|『Anywhere You Like』

昨年、清流のようなメロディと端正な言葉選びのデビュー・アルバム『Any Luck To You』が全 …