

こうやって文章を発信していると、SNSで自分の書いたレビューやコラムの感想を目にすることがあり、その中には自分が意図しなかったところまでをくみ取って感想を述べられたりすることもある。誰もが簡単に自分の作品を発信できる時代、それは言い換えてみれば、誰もが自分の作品に触れられ、自由に感想を言える時代だとも言っていいだろう。一億総ツッコミ時代、なんて呼ばれるこの現代において、京都を中心に活動する95年生まれの若きシンガー・ソング・ライター、大槻美奈の話はとても興味深かった。
高野寛も自身のラジオで「ブライテスト・ホープ」と称賛した大槻美奈は2015年に地元京都で歌手活動を開始し、2016年には1stミニアルバム『MIND』を発売。(なお『MIND』に関しては以前に当ki-ftの現在関西音楽帖で取り上げている。)去年8月にはミュージックサロン Yoshikawaで初のワンマンライヴを開催するなど、精力的な活動を行っている彼女が今年の2月10日2ndミニアルバム『SOUND』を発売した。以前からサポートを務める戸渡ジョニー(D)の他、MILKBARの寺田達司(Ba)も参加した本作は、煌びやかでポップな音作りと濃度の高いアンサンブルが楽しめる一作となっており、日食なつこや、中村佳穂を好きなリスナーは是非一聴する価値のある作品だ。また本作は一曲一曲にイラストがついた絵本がついており、作品世界へのさらなる没入を誘う作りに仕上がっている。
今回のインタビューでは彼女が音楽を始めた経緯や2ndミニアルバム『SOUND』について語っているが、そこで注目すべきは彼女の自覚と無意識である。本作は“絵本付き”ということもあり、収録された全7曲には彼女の考えたストーリーが存在する。しかしインタビュー中、彼女は「普段よくわからないまま曲を作って」や「(音楽は)自分がわかりたいがために作っている」とも話しており、そのため聴いた観客からは自分の意図を超えた思いが湧き出ることがあったとも語る。そんな自覚と無意識の狭間に漂う彼女の声を、ぜひ受け取っていただきたい。(インタビュー・テキスト:マーガレット安井、編集:ki-ft)
そもそも音楽が凄くやりたかったというわけでは無かった
──4歳の頃からピアノと楽典を習い始めたということですが、この頃から音楽をやり始めた理由は何ですか?
大槻:私の家の近くにピアノ教室が出来て、お母さんから「ちょっとあんた習いに行き」と言われて習いに行ったのがきっかけで、年に2回ある大会で良い賞もらいたいという気持ちでピアノの練習をやっていました。だからそもそも音楽が凄くやりたかったというわけでは無くて、楽典もそのピアノの先生が「楽典も教えるけど?」と言われたから教えてもらって。
──その後、2007年から作曲を始めたという事ですが、その頃から「自分で音楽をやってみようかな?」という意識が生まれたという事ですか?
大槻:そうですね。小学校6年生の頃にニンテンドーDSの『どうぶつの森』が流行っていて。そこで、とたけけが歌う音楽が凄く好きで、「この音楽をピアノで弾けるようにならんと!」と思ったんです。当時、『どうぶつの森』の楽譜はなかったので、イヤホン付けて聴いて、それをピアノで弾いてて。その頃くらいから、自分自身がピアノを弾きたいと思うようになったのかもしれないですね。
──その後、TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』で未確認フェスティバル応募作品として「納豆バラード」が2015年にON AIRされましたが、これが大槻さんにもたらした影響はありますか?
大槻:「納豆バラード」は、今回の作品で絵本を書いてくれた友達と“納豆”というユニットで大学の時に応募して。結局、本選までは行けなかったのですが、その時くらいから大会に出てみようかなと。
──なるほど。確かに同じ年にはアコ―ステックギターでMusic Revolutionの京都予選に参加して、審査委員特別賞をもらっていますからね。となると、この頃には「自分の歌を聴いてもらおう」って感覚が生まれたってことですか。
大槻:そうかもしれないですね。大学に入ってフォークソング部に入ったんですね。そこでアコースティックギターを始めて、「歌ってみよう」と思って曲を作って皆の前で歌ったら、すごく喜んでくれて。その時に「もっと他の人にも聴いてもらってみたい」って感じたかもしれないですね。
──ではそのあたりですか?ライヴをやろうと思ったのは。
大槻:そうですね。京都VOXhallで大学から一人ずつ代表が出る天下一武宴会というイベントがあって。その年のフォークソング部が誰も出なかったので私が出場したんですよ。その時に共演したwork from tomorrowの山下慧さんとたまたま一緒にお昼ご飯を食べていたら「音楽活動してみたら?」と言われて。ちなみにその天下一武宴会では何にも賞には入らなかったんですが、ライヴを観た小野満さん(VOXhallのブッキング担当)に「君は大学だけでやっているのはもったいないよ」って言われてやり始めたんですよ。ちなみにその頃はギターとピアノという形でやっていましたが、それも小野満さんに「ピアノ出来るんやったら、ピアノと歌のほうが絶対いいわ」って言われて、「そうかもな~」と妙に納得してピアノだけにしました。その後、「CDを作ってみたい」と空中ループの和田直樹さんに相談したことがあって、そしたら戸渡ジョニーさんを紹介してくださって、一緒にスタジオはいることになったんです。直ぐ『MIND』をレコーディングして、そこからジョニーさんが気にいってくださって、ずっとやっている感じですね。
音はピアノ1個なんですけど私の中ではオーケストラみたいなイメージをもってて
──楽曲の制作方法やルーツ等について詳しく伺いたいのですが、大槻さんの楽曲を聴くと、日食なつこ、中村佳穂といった、ほぼ同世代のアーティストからも刺激を受けたようなサウンドであるように感じました。大槻さんのルーツになっている音楽、それとアーティストをやるうえでのロール・モデルのような人物はいらっしゃいますか?
大槻:そもそもバンドが好きで。フジファブリック、相対性理論、モーモールルギャバン、辺りが凄く好きで、今もあんまり変わってなくて。確かに佳穂さんとか日食さんは好きですが、知ったのは私が音楽活動を始めてからなんですよ。音楽活動する前は、ピアノ弾きながら歌っている人ってアンジェラ・アキぐらいしか知らなくて(笑)。
──バンドが好きだった事が楽曲に影響しているってことはありますかね
大槻:あると思います。例えばフジファブリックや相対性理論って凄くサビが印象的だなと思っていて。音楽の組み立て方みたいなのを、今言ったバンドから影響は受けているとは感じます。あと高校生の頃に→Pia-no-jaC←にハマったんですよ。それがきっかけでピアノの弾き方は今のようになってて。
──なるほど。それがあるのか大槻さんの楽曲のピアノに関してダイナミックでありつつメロディがころころと変化する印象を受けます。楽曲を製作するにあたり、こだわりのようなものはありますか?
大槻:こだわりか…。曲を作る時は、まずピアノと歌を録って、そこにピアノの音をどんどん7つくらい重ねていくんです。次に歌も7つくらい重ねていって。そしたら凄い膨大なトラックになるのですが、それをライヴ用に1つにまとめようとするんです。
──たくさん音を足した後に必要なやつを残して、一人で演奏できるようにしているということですか。
大槻:そうですね。ピアノだけですが、オーケストラを後ろに置いて演奏しているイメージでピアノを弾いていると思います。ピアノの先生が小さいころに『この上の旋律はなんの音やと思う?』「この音はフルートやと思います。」『そうなんや。じゃあ下の奴は?』「これはチェロかな…。」とか言って全部の音を分離して考える、というやり方でずっと教えてもらってて。だから曲を作る時は、全部の音が分離してあって。音はピアノ1個なんですけど、私の中ではオーケストラみたいなイメージをもって曲を作っています。だからバンドに近いんだと思うんです。
──楽曲制作、とくにアレンジに関して戸渡ジョニーさんにイメージを伝えたりしますか?
大槻:ジョニーさんのドラムは自分のイメージに合ったように叩いてもらう事が多くて、『MIND』の時はあまり言う事はなかったですが、今回はメチャクチャ言いましたね。まずこの曲が出来た理由みたいなものを話して、出来るだけ頭の中のイメージを伝えました。例えば『SOUND』の「言葉の兵隊」という曲に出てくる兵隊は5cmくらいの小人がトコトコ歩いているイメージがあったので、「最初はドラムロールで歩いている感じを表現してください」とか。凄くロックなドラムの叩き方だったんで「一番最後のところはオーケストラみたいにドラムをたたいて下さい」って言ったり(笑)。
どこにも居場所が無いと思った
──前回の『MIND』は「孤独であること」というのが軸に置かれているように感じましたが、本作『SOUND』は『MIND』の意思は引き継ぎながらも、よりポジティブな作品に仕上がったイメージがあると思っていて。
大槻:『MIND』の時は今よりも若いし、ちょうど色々あって精神が落ち込んでいた時期で。でも今回は純粋に心の中がポジティブになっていたと思います。そういう性格なんですよ。凄く鬱々としたり、「急に何でもできる!」と思ってしまったり。たまたまこのアルバムを作る時期にずっと交錯してて、だからそうなったのかなって。
──本作の「電波ジャック」や「宇宙」で感じたのは、“誰かとつながりたい”という事をテーマにしているのかな、と思いました。
大槻:「電波ジャック」ですけど、この歌は一番特殊に曲を作っていて。元々は、少年が主人公なんですけど、少年が住む街はみんな考えることを放棄して、うまく機能していないんですね。それを「何とかしたい!」と思って、少年が自分で送信機を作ってテレビで電波を流す、という話で。これを作った時、私は音楽を作りながら、みんな悩んどることとかも忘れてパッパラパーになっているような気がして、「何とかしたい。私の歌を聴いてくれ!」って感じで曲を作っていたんですね。でも、そこから半年ぐらいたって「なんか違うな」と思って。その人たちが本当に考えることを放棄してるか分からないし、少年の独りよがりで電波を流しているわけじゃないですか。若い時って皆に対して「なんかしたい!」っていう気持ちが凄く強く働くけど、「それってどうなんやろう?」と思って。だからその人達はその人たちなりに生活をしていて、少年がいろいろ言っても、結局この人たちには届かないって歌にしようと思ったんです。
──なるほど。「誰かとつながりたい」とは真逆ですね(笑)。
大槻:そうですね(笑)。「宇宙」という曲も凄くポジティブな歌だと思うじゃないですか。「宇宙」はこの女の子が独りぼっちなんですけど、自分が凄く好きだと思った人に出会ったんですね。でも、その人は地球に住んでいなくて、この人はここにおったら独りのままだから、地球を飛び出してその人に会いに行くって歌なんですけど、この曲を作った時、私すごく極限状態で。どこにも居場所が無くて「もう無理だな…」と感じてて。だから自分の作る歌くらいハッピーエンドにしようと思って作りました。歌の中では幸せになってほしいという気持ちで。自分が出来ないことを音楽の中の人は出来るというか、「電波ジャック」も自分が少年の立場になる事もあるし、第三者になる事もあるし、凄く客観的に作った歌だと思ってて。だから特に明るくなった訳ではないように感じます。ただ前回は諦めが多かったけど、今回のアルバムは願いみたいなのが多かったしれないですし、1曲1曲に凄く愛着は生まれたかもしれません。全部、自分の中から生まれたけど、自分じゃない生き物がいっぱいいる感じで。
音楽作らないと自分の思っていることがわからない
──『MIND』と違い、コーラスが独立した動きを見せているところ、語り口調で楽曲を進めるところ、韻の踏み方など前回には見なかった変化が表れているように感じました。今回の作品を作るにあたり参照した音源とか、またはアーティスト等はありますか?
大槻:アルゼンチンのファナ・モリーナをよく聴きました。コーラスとか音をルーパー使って、どんどん足していくんですよ。展開も多くて、そこから色々と学んだ気がします。あとアルゼンチンの言葉ってさっぱりわからなかったのに、その音楽を聴いたら語感が凄く良くて。音楽と言葉が凄く合っているというか、意味が分からないんですが面白いと思って。はじめて、「歌詞ってそういうことも必要なんだ」って思ったかもしれないです。
──そういうのが『SOUND』には投影されたと。
大槻:そうですね。ただ基本はその時に思っていたことを歌って録音して覚えるって感じで。「電波ジャック」も自分の思っていたことを喋っていたら出来ていて、その後に良くないなと思うところは直していったんですね。ただ前の時よりは考えていた、とは思うんですけど…。この「とは思うんですけど」って理由は、あんまり曲を作ってた時のことを思い出せないんですよ。なんか、こうやって喋らないと気付けないんですね。正直『SOUND』は『MIND』の頃より自分の気持ちがわからなくなったアルバムだなって。普段よくわからないまま曲を作って、曲が出来た時に自分が何に悩んでいたかがわかるってことが結構多くって。だから音楽作らないと自分の思っていることがわからないんですよ。それの繰り返しで。
──それは音楽が自分を見つめる鏡のような存在ってことですか?
大槻:そうですね。私、自分のことをシンガー・ソング・ライターとか歌手という感覚があまりなくて。なんか自分が生きるために生活の循環としてあるだけで、「伝える」というよりかは「自分に必要」だから作っているという感じですね。だから自分がわかりたいがために音楽を作っているのですが、それが自分が思わなかった反応をされることもあって。例えば「宇宙」という曲は「自分の居場所が無くて自分の居場所が見つかったら良いな」と思って作った歌なんですけど、8月にワンマンしたときにその曲を聴いて凄く号泣されていた女の方がいて。その人に後で、「亡くした子どものことを思い出して、涙が止まらなくなってしまった」と話しかけられて。その時に自分は自分を知るために曲を作っているけど、その作った曲を他の人が聴いた時に私と全然違う角度からその人の人生と重なる物があって、それに感動してくれたりするってことや勝手に感じ取ってくれる人がいることは不思議でありがたいと思いました。安井さんも前に『MIND』のレビュー書いてくれていたじゃないですか。あれで最後の曲「オト」で終わることを「時間が経てば傷は癒える日にち薬だ」って書いていたじゃないですか。あれを読んだ時に「あぁ、そうなんだ。」って思いました。
──まあ、あれも『MIND』の1つの見方ですけどね。
大槻:あれでうちの親から電話があって「あんたのアルバムって、そういうことやったんや」って言われましたよ(笑)。
聴けば聴くほど世界に入っていける音楽にしたい
──絵本付きCDを作成された意図は?

大槻:絵と音楽の可能性を凄く感じたんですよ。前回「伽藍堂」のMVを製作してもらったんですけど、音楽だけだと伝わらない部分に絵が入ると、立体的になる可能性を感じて。今回の7曲もどれもすごく私の中で登場人物がはっきりしているし、愛着の湧いた音楽たちだったから、それをみんなに見てもらいたかったですね。こんなキャラクターなんだよって。
──それはリスナーにイメージしてもらうよりかは自分のイメージを完全に伝えたいということですか?
大槻:好きに感じ取ってもらいたい気持ちもありますが、でも絵を見てもらうことによってその世界に入ってもらいやすくなったらいいなと思ってて。以前、お客さんに「大槻さんの音楽は凄くいいんだろうけど、一元様お断りみたいな感じだから、もう1回聴きたいよ」って言われたことがあって。もう1回聴きたいと言ってくれているのは嬉しいけど、私の音楽ってわかりにくいんだって思って。わかりやすくしたかったんですよね。
──なるほど。確かに絵が入ることでわかりやすくはなりますよね。
大槻:それに最近はCDを買わなくてもApple MusicやSpotifyとかサブスクリプションで聴ける時代じゃないですか。私も『MIND』はサブスクでも聴けるように登録してて、今回のアルバムも登録しようとは考えているんです。でも「実物を手に取って、聴いてもらいたい!」という思いも強くって。昔ってCDを買って開封して、CDプレーヤーに入れて歌詞を見ながら聴くってことが当たり前だったんですけど、最近はスマホやパソコンですぐダウンロードして、歌詞もよくわからないけど聴いて、という人が増えてるような気がしてて。私も登録しているんですけど、CDプレーヤーで聴く時は何周も聴いていた音楽が、サブスクになった途端、1回聴いたら「あ、次のアルバム探そう♪」みたいな感じで。それで絵本にしたら、それに興味をもって世界に入ってくれるじゃないかなと。聴けば聴くほど世界に入っていける音楽ってあるじゃないですか、そんな音楽にしたいなと思ったかもしれません。
──アルバムのジャケットが今回はオレンジということで、この色について何かこだわりみたいなものはありますか?
大槻:私の知り合いで「人に色が見える人」がいて。その人に「大槻さん紫とオレンジと緑だわ。その3色がお腹のあたりでとぐろを巻いてるように見える」って言われたから「私、その3色で出来ているのなら、その3色のアルバム作ろ」って思って。その時に『MIND』『SOUND』『WORLD』というタイトルが前々から頭の中にあって『MIND』が紫、『SOUND』がオレンジ、『WORLD』が緑だな、思って。だから生きとる間には、絶対3枚は出そうとは思っています。
【作品情報】
01. 電波ジャック 購入:大槻美奈オフィシャルホームページ, 下北沢モナレコード |