【インタビュー】岸田 “ニキ” 剛が語る、Post Modern Teamが時代と共鳴する理由
- By: マーガレット 安井
- カテゴリー: Interview
- Tags: POST MODERN TEAM.


思えば2012年頃の事だったか。Ano(t)raksやDead Funny Recordsといったインターネット上にネットレーベルが出来上がり、関西ではHomecomingsやNOKIES! といった日本語詞ではなく、英語で自分が影響を受けた音楽をダイレクトに反映させるバンドが増え始めた。「これからのインディー・シーンはますます面白くなるぞ」、私はそんな期待に胸を弾ませていたが、そんな渦の中にいたバンドの一つがPost Modern Teamであった。
NINGENCLUBのフロントマンとして活動していた岸田 “ニキ” 剛のソロ・プロジェクトとして2012年に誕生したPost Modern Teamは当時の関西におけるインディー・シーンと呼応したインディー・ポップなサウンド、またAno(t)raksから『NITE LIFE LOUNGE. EP』をフリー・ダウンロードで発表したことから考えても、インディーというものを体現するバンドであった。そんなPost Modern Teamが12月13日に3rdアルバム『COME ON OVER NOW』をHOLIDAY! RECORDSからリリースする。今回はそのPost Modern Teamの岸田 “ニキ” 剛に音楽のルーツや結成当時のインディー・シーン、そして新しいアルバムの事など話していただいた。
こういうシーンがあるなら僕も一人で作ることをやってみようかな。
──最初にルーツのあたりからお聞きしたいのですが、そもそも岸田さんが音楽をはじめられたのはいつ頃で、その当時はどのような音楽が好きだったのですか?
岸田:元々、XとLUNA SEAが好きで。
──え、ヴィジュアル系ですか?
岸田:ヴィジュアル系がめちゃくちゃ好きで。ちょうど中学校の頃にLUNA SEAの「ROSIER」って曲があるんですけど、それがリリースされたくらいでギターをはじめたんです。
──では、本格的に音楽をやろうと思ったのはいつくらいですか?
岸田:やろうとしたのは結構遅くて、大学を卒業してからなので2004年くらいなんですけどね。もう大学も卒業して普通に働いている時に、今あんまりないかと思うのですが、楽器屋さんにメンバー募集の張り紙があって短冊形でメールアドレスが書いたのをピッと破って連絡して。それでバンドメンバーと知り合って。
──それで結成したのがNINGENCLUBだと。
岸田:そうですね。
──ちょっとNINGENCLUB時代の話もしたいのですが、当時のライヴを観ているとエモーショナルで矢継ぎ早に曲を進める感じがあって。その当時「ティーンエイジ・ファンクラブ meets ラモーンズ」とも称されてもいましたが、この頃に目標としていたバンドとかありましたか?
岸田:当時はザ・ストロークスやザ・リバティーンズがめちゃくちゃ好きで。それと同時にダムドのような初期パンクが好きでした。だから作る曲も短くて速いのをどんどんやるみたいな感じでしたね。
──NINGENCLUBではフロントマンとしても活動されており、多くの曲も手掛けていたように感じます。でも敢えて、Post Modern Teamというソロ・プロジェクトをやろうと思ったのは何故でしょうか?
岸田:その時にNINGENCLUBがちょうど煮詰まっていて。音源をリリースしても別に反響がある訳でもなく、今以上に何をやっても箸にも棒にもかからない感じで、活動する上で行き詰っていました。そこでサイドプロジェクトとしてPost Modern Teamをやるんですけど、そのきっかけというのがSoleil Soleilで。
──大阪を拠点とするトラックメイカーで岸田さんとはTalkingCity1994というバンドでメンバー同士でしたね。
岸田:Soleil Soleilは元々LADY FLASHでキーボードもやっていて。LADY FLASH辞めた後、普通に遊んでいた時に「辞めてから何してるん?」と聞いたら「一人で曲作ってやっています。ネットに曲を上げて活動するっていうやり方あるんですよ。岸田さんもどうですか?」と薦められて。「こういうシーンがあるなら僕も一人で作ることをやってみようかな。」と思って始めたのがPost Modern Teamです。
──一人でやられると言われましたがギターもベース、ドラムもですか?
岸田:そうですね。元をただすと、NINGENCLUBの時もレコーディングはメンバーなんですけど、曲を作る時はもう今のPost Modern Teamと同じ形で全部一人でデモを作ってそれを覚えてもらうようにやっていたので。
あんまり儲けたいとかそういうのは無かったので。曲を全部上げることに抵抗がなかった
──Post Modern Teamを結成されて以降、今まで岸田さんは英語で歌っていますよね。NINGENCLUBの頃は日本語詞でもやっていたのに、なぜ英語詞にこだわっているのですか?
岸田:NINGENCLUBが煮詰まった理由の一つに、色々やりすぎて焦点が絞れてなかったというのがあって。Post Modern Teamを始めるとき、まだNINGENCLUBと並行してやっていたので“幅を狭めて何かに特化したもの”をしようと思っていました。だからPost Modern Teamは英語って縛りは最初から決めていました。
──なるほど。そういえば以前、Twitterで「#私を構成する9枚」を岸田さんがやっているのを拝見したのですがPost Modern Teamが結成されたときに言われたアノラックの系統の作品、例えばパステルズやアズテック・カメラといったのが無くて驚きました。(岸田 “ニキ” 剛の選んだ「#私を構成する9枚」)
岸田:まあ時代に寄せていった部分はありますね。NINGENCLUBをやっていたときは全然そういうの関係なく自分の好きなことをやっていたのですが、Post Modern Teamを結成した2012年に同じ大阪のWallflowerとか東京のBoyishが話題になったこともあって、その時に流行っているものと自分が共感できる所というのでアノラックを選んでやったんですね。そしたらNINGENCLUBの時より割と目に見えて反響があって。
それにネットという事もあって、日本よりどっちかというと海外の反響のほうが大きかったので、英語でやり続けようと。
──海外での反響といいますと、以前Post Modern TeamはギリシャのMelotron Recordingsよりカセット「Today Forever」 をリリースされていますよね。
岸田:僕も出せてびっくりしましたけどね(笑)。ただ当時は海外のレーベルからアナログを出すことは多くて、Wallflowerもそうだし、名古屋のOLD LACY BEDもイギリスのレーベルから出していたし。
──ネットの話が出たのでお伺いしたかった事があるのですが、私は最初、Ano(t)raks のサイトでPost Modern Teamを知ったんですけど、当時バンドがBandcampやSoundCloudで全音源を出す、しかもフリー・ダウンロードというのは斬新な印象がありました。Ano(t)raksでやろうとした経緯と、やり方に不安はありませんでしたか?
岸田:まずAno(t)raks に関してですが、Post Modern Teamが2012年にSoundCloudに自分で曲をあげて、初めてメールで連絡があったのが Ano(t)raksの小笠原大さんで。「コンピに参加しませんか?」と声かけてもらったのがきっかけだったのですが、リリ-スまではメールだけのやり取りで実際お会いした事がなくて。
フリー・ダウンロードに関してはあんまり儲けたいとか無かったので、曲を全部上げることの抵抗はなかったですね。音楽とちょっと違うんですけど当時「ブラックジャックによろしく」っていう漫画がネットで無料で読めるようになったのに、売り上げが上がったみたいな話があって。
──それで全部上げようと。
岸田:そうですね。それで気にいってもらえたら好きな人は買うと思うし。
ライヴするシステムがまず違うと思うんですよ
──あとPost Modern Teamが結成してネット配信を行っていた2012年頃って関西で急激にインディー・ポップが盛んになった印象があって。
岸田:2012年からホンマに色んなバンドが出てきて、メチャクチャ楽しいなと思いました。それまでは英語で歌っているバンド、UKの洋楽っぽいバンドがいなくって。そんな中でNOKIES! や、Wallflowerの前身となったPastel Blueってバンドが出てきてから「ちょっと面白くなってきたなー。」と感じていたら、2012年にPAELLASやHomecomingsも出てきてワクワクしましたね。
──あと同じ関西でも例えばKANA-BOONとかTHE ORAL CIGARETTES、キュウソネコカミといったバンドも2012年に入って関西全体が勢いあったという印象で。
岸田:僕自身、その時はKANA-BOONとかも知らなくて。同じ界隈だとナードマグネットはいたと思うんですよ。NINGENCLUBの頃から知り合いで好きなのですけど、Post Modern Teamやり出してからは音楽性でも一緒になることはあんまりなさそうやなって。
──なるほど。でも、なぜ交わらなかったんですかね。
岸田:なんとなくライヴするシステムがまず違うと思うんですよ。普通はブッキングがあってライヴハウスに出るという形なんですけど。僕らがやっていたのは、まずDJが主宰するイベントにゲストバンドとして出演するという形が多くて。
──じゃあDJさん、ありきなのですか。
岸田:はい、今は結構無くなったんですけど例えば〈Kyoto Indie Village〉とか、京都メトロでやっていた〈LONDON CALLING〉とか。あと大阪だと〈MAP〉っていうイベントもありましたね。だから下手すると、カフェだったり、普通のイベントスペースといったでっかい音は出せるけどライヴハウスみたいにちゃんと設備が整っていない所でやることも結構ありました。
──なるほど。でも岸田さんならブッキングで出てくださいと言われるような事もあったのでは?
岸田:NINGENCLUBの時はほとんどブッキングばっかりでしたが、また違った界隈も見てみたいというのもあったので、敢えてブッキングは出ないというところもありましたね。
──あと2012年ごろのPVが古い映像ぽく撮っていたり、あるいは古い映像をそのまま使ったバンドが多くいたなって印象もあって。Post Modern Teamもそれをやっていたという印象があるのですが。
岸田:それも寄せましたね(笑)。
──でも当時、この手の映像が流行っていたのか外側の人間としては謎だった部分もあって。
岸田:そこもインディーズと違う部分だと思うんですよね。あんまりこう「売れるぜ!」って感じではないんで。
──今の話を聞くとPost Modern Teamも、「メチャクチャ売れたい!」という感じではないのですか。
岸田:そうですね。バンド始めたのが遅いというのもあるんですが、Post Modern Team始めた時も年齢が30超えていたので。やる気がないというわけではないんですけど、そのころ音楽で食べていくとか、CDも売れなくなっていた時代なので、はなからそれでお金を稼いでどうしようってことは全く無くて。ただ単純に自分のやりたい事をやるという感じでしたね。
──今のお考えを聞くと凄くインディー的な考え方だと思いますね、純粋に音楽を楽しみたいというのは。
岸田:まあ開き直りですけどね(笑)。NINGENCLUBのときに箸にも棒にもかからなかったので、「もうええわ!」っていう感じだったので。
あんまり時代とか関係なく自分の趣味をそのまま出して作ったらこうなった
──新しいアルバムの話をしたいのですが、今までウェブ上の公開音源をまとめて再録した1stアルバム『POST MODERN TEAM』、Melotron Recordingsより発売された 「Today Forever」とMiles Apart Recordsから発売された 「Time For Romances」をまとめた2ndアルバム『Be Forever Young?』があったのですが、今回の『COME ON OVER NOW』は完全に新作のフル・アルバムだと思います。いつ頃からこのアルバムを制作しようと思いましたか?
岸田:ほとんど今年ですね。はじめに「HOLIDAY! RECORDSからアルバムをリリースさせてください。」っていう話を先にしてから、アルバム制作したので。だから今までのように、曲が集まって出すというやり方とは違いますね。
──『Be Forever Young?』の際に、HOLIDAY! RECORDSのオーナーである植野秀章さんにお願いしてレーベル第1弾としてフィジカルを出した訳じゃないですか。そういう経緯とか聞くと岸田さん積極的に動かれているなと思っていて。
岸田:積極性というより、他のレーベルからお声がかからなかったので(笑)。まあでも今回は秀章と積極的にミーティングをして、アレンジや曲順を一緒に考えましたね。
──なるほど。そうやって出来た『COME ON OVER NOW』なのですが、最初に音源を頂いた時に「Listen To The Music」を聴いてびっくりしたんですよ。「え!? 4分超えてる!」って。
岸田:ははは(笑)。確かにそうですね。
──NINGENCLUBのころからPost Modern Teamに至るまで楽曲は全て長くても4分以内に収まっていたのに、初めて4分超えるようなナンバーが出てきた事に驚きました。
岸田:でも意識はしていなかったですね、なんか出来たら長くなっていたという感じで。でも最初はこの曲をMVにすることも僕個人は考えてなくて。「Listen To The Music」は長いんで少しとっつきにくいんじゃないかと思っていたのですけど、秀章が「これイイ!」って言ったので。
──なるほど。前作の『Be Forever Young?』が個人的にはタヒチ80とかフェニックスといったフレンチ・ポップのエッセンスが随所にちりばめられた作品だと思っていて。本作もその方向にいくのかなと思ったら、今回のアルバムはNINGENCLUBの頃に近いようなサウンドで驚きました。
岸田:まず『Be Forever Young?』に関してですが、先程も言ったのですがPost Modern Teamを始めたころの時代に寄せていったところがあって。それで1stアルバム出してからDJ主催のイベントに出させてもらう事があり、その時にDJの人がかける音楽がバンドとかではなくチル・ウェーブとかシンセサイザーが入っていて、DJさんに「これなんて曲ですか?」って聞いたりしていました。そしたらインディーも2014年あたりからThe fin.とかYkiki beatとかシンセが入っているバンドが凄く増えて、「あ、今はシンセだ。」と。
でも僕の中で「だから、Post Modern Teamにシンセを入れる。」という選択はちょっと安易だなと思って。だからシンセ・ミュージックなんですが敢えてシンセを使わずにアルバムを作ろうと思って作ったのが『Be Forever Young?』だったんですね。
で、『Be Forever Young?』までは時代に寄せようとしていたのですが、2015年以降はオールディーズとか色んなバンドが増えてきたように感じていて。それを見ながら「色んなジャンルやっていいんだな。」っていうのがあって、だったら僕はルーツに帰ってみようかなと。時代とか関係なく自分の趣味をそのまま出して作ったら、こうなった感じです。だから今回はザ・ストロークスやザ・リバティーンズ、アズテック・カメラやオレンジ・ジュースといったのを制作期間中はよく聴いていました。
一人で何でもやってしまう時代にゆくゆくなると僕は思っていて
──あと今回はミキシングやマスタリングも一人で行ったと。
岸田:今回は自分への挑戦ではないんですけど、シンリズムのように結構一人で何でもやってしまう時代にゆくゆくなると思っていて。まあ、もちろん専門的なエンジニアとかと組んで作った方が音はいいんですけど、ミキシングもマスタリングも曲作りの一環だと感じていているので。たとえば音圧だと「この音圧が好き。」というのが自分の中で出来ているので、それなら一人でやろうかなと。
──まあ先程から岸田さんの話を伺っていると一人で何でもするって印象が強いように感じますね。
岸田:何でも自分でやりたくって。本当はできるならMVも自分で撮りたいんですね。今回はジャケットのデザインとMVだけは外部の人に依頼して作ったのですが、自分にそういう技術があるなら多分自分でやるとは思うんで。まああとスケベ心で、単純に何でもできたらカッコいいかなって(笑)。
あと僕の好きなアルバムにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『ラヴレス』があって。あれなんかケヴィン・シールズがほとんど一人で作ったアルバムなので、そういうスタンスに憧れているというのもあります。
──でも、アレでクリエイションは倒産しかかったというね。
岸田:ははは(笑)。まあでも、Post Modern Teamで一人で2012年からずっとやっていたのですが、3年ぐらいしてPost Modern Teamは体裁はバンドなんですけどライヴの時はサポートなので、その反動ってわけじゃないですけど対バンのバンドを見ていたら「あ、バンドやりたいな。」って思って始めたのがGOODNITEです。
──GOODNITEというと去年、岸田さんが結成した日本語ロックバンドですね。
岸田:そうですね。GOODNITEは僕一人じゃなくてメンバーでアレンジとかスタジオで作っていて、物事1つ決めるにしても皆で話し合って決めています。Post Modern Teamは僕の独立国家なので(笑)。
あと音楽的に洋楽と邦楽って言葉の違いじゃなくて、小節というか、拍、リズムが邦楽と洋楽では違うように感じていて。だからPost Modern Teamの曲に無理やり日本語をのせても成立はしないし、逆にいえば日本語のせることが出来るのに、わざわざ英語にしても言葉をいっぱい詰め込んでいるような違和感があって。言葉の違いだけじゃなくて、曲の構造自体も洋楽と邦楽で違うと思うんですよ。そういうのもあってGOODNITEとPost Modern Teamでは別々にやっています。
──最後に今後の展望とかありますか?
岸田:前の2作より、ポップでキャッチーな部分が前面に出たと作品だと思います。日本という場所で英語で歌っても、歌詞の意味とかパッと聞いてわからないですよね。だとしたら自分がアピールできる武器と言えば“ポップさ”と“キャッチーさ”だと考えていて。そんなに洋楽を聴かない人も、聴いてもらえる機会があればと思いますね。

COME ON OVER NOW
HOLIDAY! RECORDS, 2017年
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