【ライヴレビュー】祝春一番2015

服部緑地野外音楽堂で開催された祝春一番2015
Live Review
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服部緑地野外音楽堂で開催された祝春一番2015
服部緑地野外音楽堂で開催された祝春一番2015

5月3日、朝9時半ごろ、服部緑地野外音楽堂。1971年の初回から数え通算30回目の〈春一番〉が11時より開演されるに先立ち、観客列をなす。先頭付近からは「79年のハルイチが終わる時な、フータ言うててんけど……」とお客さんと共に歩んできたこのイベントの歴史が伺えるような会話もちらほら。お手製の手書きボードで撮影禁止や最後尾の案内をする有志スタッフの声も聞こえる。主催者福岡風太がぽつと言った今回のテーマは「原点」。時代の潮流を気に掛けることはなく彼が“ホンモノの音楽”と認めたものだけを届ける、一本筋の通った野外コンサートであるが、今年は長い歴史だからこそ培われてきた、演者・お客さん・スタッフそして音楽の“縁”を強く感じた。

11時開場と同時に開演。トップバッターはなんと70年代からの大看板、大塚まさじ。長田TACO和承のスライドギターの音色と共にお客さんを迎え入れる。まだ入場出来ていない列後方から驚きと野次が沸き、早く早くと入場ゲートに詰めかける。この後も2日目は三宅伸治、3日目は加川良をトップに据え観客の期待を裏切り続けたが、これもお目当ての人だけ見て帰るのではなくハルイチという作品を見てほしいという思いを込めた、少し意地悪な仕掛け。福岡風太のしてやったりの顔と、大塚の「男らしさってわかるかい」で今年のハルイチはスタートした。

大塚まさじ『遠い昔ぼくは…』
大塚まさじ
遠い昔ぼくは…(紙ジャケット仕様)
GREENWOOD RECORDS, 2012年
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〈春一番〉の主催者だけでなく、ペギー葉山、忌野清志郎、竹内まりや、センチメンタル・シティ・ロマンス、ハンバートハンバートなど数々のアーティスト・ライヴの名物舞台監督として腕を鳴らしてきた風太。次に出演する演者を丁寧に紹介する様子でも伝わるが、長いキャリアの中で築いてきた縁は深く強く、一年の照準をこの日のステージに合わせるという演者も多い。ライヴハウス・ムジカジャポニカの店主であり、フェスRAINBOW HILLを主催している夕凪(5/4出演)は、佐藤良成(ハンバートハンバート)・藤井寿光を迎えた7人編成で登場、故・西岡恭蔵作の本イベントテーマ曲「春一番」を引き継ぎ、現代のヤスガーズ・ファームの風景を描く。今年10回忌を迎える父・高田渡のトリビュートアルバムも記憶に新しい高田漣(5/6出演)はソロ初出演。幼い頃からハルイチは父に連れてこられ、今日も楽屋は親戚のおじさんばかりと話しつつ、渡のカバーを披露。「コーヒーブルース」ではふらっと親戚のおじさん代表、村上律が登場するなど追悼も感傷もなくただただ温かい雰囲気だ。ステージセットの後方には生前渡が愛用していた三輪車が結び付けられている。まるでそこから渡が見ているような心地もしながら、息子によって少し形を変えた数々の名曲が久々に春一番のステージに鳴った。また2日目トリの友部正人(5/4出演)も高田渡の死に際して作った「朝の電話」で会場のアルコール度数をすっと下げる。一方で急遽三宅伸治BANDを呼び込み「ぼくはきみを探しに来たんだ」の大合唱だ。退場しても鳴りやまない歓声に答え、友部・三宅が2人で登場し「一本道」を披露。スッと鋭い眼光と声で会場の空気を掌握してしまう天性の貫録を見せつけた。友部は翌日の息子・小野一穂のステージにも登場。小野が初めて作ったミュージシャンとして原点の歌であるその名も「父さんの唄」を交互に歌い、微笑ましい親子の間柄が見える光景であった。

高田漣『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』
高田漣
コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜
キングレコード, 2015年
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3日目のトリ、ハンバートハンバートは加川良を呼び込み「教訓Ⅰ」~「おなじ話」をコラボ、また故・あべのぼるの楽曲「オーイオイ」で佐野遊穂は息を切らしながらも飛び跳ねっぱなしで観客を煽る。アンコールは夕凪に続いて「春一番」だ、風太が終演後「お見事。こんなに考えてくれてホンマにうれしい」と呟くほど、原点に相応しいステージだった。

ハンバートハンバート: むかしぼくはみじめだった
ハンバートハンバート
むかしぼくはみじめだった
ユニバーサルミュージック, 2014年
BUY: Amazon CD, iTunes

2010年に亡くなったあべのぼるは長らく風太と共に春一番を率いていた人物。山下洋輔、ディランⅡ、ソー・バッド・レビュー、大西ユカリなど数々のマネジメントを務めていた大阪の名物プロデューサーだ。ハンバートだけではなくあべの存在を感じるシーンは数多い。昨年は開催直前に病に倒れた遠藤ミチロウは新バンドTHE END(5/5出演)として復活。爆音の中“大阪の荒野にあべのぼる”と雄叫びをあげるミチロウに、まだあべちゃんとのところには逝けねぇという気概を感じた。あべが初代マネージャーを務めていた山下洋輔(5/6出演)は今回大トリで登場。あべが亡くなった翌年2011年以来の出演であったが、彼とのエピソードを挟みながら1期山下洋輔トリオの名曲「グガン」を披露する。さらにはあべの妻のダンサー、NIMAを呼び込んでの「ボレロ」と即興演奏「春一番」、暮れゆく野音のステージ、今まで酔いどれガヤガヤな客席は驚くほど静かになりただただ2人の頂上決戦を目に焼き付けるしかなかった。インプロビゼーションが最高潮となる中、出演順に名前が貼られていくステージセットに最後、「福岡風太」と「あべのぼる」の名前があがった。あべの死後も春一番を続けてきた風太は“あべちゃん、本当にすごいもんを遺してくれた”と告げ、終焉を迎えた。

多くの人で賑わった祝春一番2015
多くの人で賑わった祝春一番2015

71年の開催当初からの様子を知る人が年々減る中でも、高田漣が高田渡の歌を再構築し、西岡恭蔵の「春一番」は夕凪、ハンバートらが引き継いでいる。4日間中一番の盛り上がりを見せたのは三宅伸治が忌野清志郎に捧げて演奏した「JUMP」だったし、山下洋輔とNIMAがあべのぼるを舞台に降臨させた。これまでハルイチと縁のある人が鳴らしてきたものを、決してアンセムにもナツメロにもせず、今の音楽としてアップデートし続け、残されたオトナが無茶苦茶に遊んでいる。“俺ももうすぐ行くからな”ではなく“悔しかったら化けて戻ってこい”と胸を張って言えるものを作り続けていかなければならないということを、使命感ではなく、それが俺らにとってのクヨウなんだと言わんばかりに、毎年ゴールデンウィークには大阪に〈春一番〉がありつづける。

そんな筆者も東京在住ながら引き寄せられるようにスタッフとして参加して今年で3年目だ、毎年来る常連さんの顔も覚えているし、終演後は「お疲れさん、ほなまた!」と言って帰っていく。福岡在住のブルースマン平田達彦はスタッフも兼任しており、出番が終わるや否や会場見回りに戻って両方の立場から全力でハルイチを味わっている。ベテラン大塚まさじ・中川五郎らは出番がない日も客席でここでしか会えない仲間・音楽を楽しんでいたし、金佑龍・オカザキエミ・リーテソンら比較的若手の演者も客席でワイワイしながらずっと先輩たちのステージを見ている。演者、お客さん、有志スタッフ、みんなにとって、原点を掲げた春一番は年一回の“音楽の戻る場所”なのだ。

祝春一番2015チラシ
祝春一番2015チラシ
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