2016年関西のヴィジュアル系シーンを紐解く | 〈KANSAI ROCK SUMMIT 2016〉でのTHE BLACK SWANとグリーヴァについて

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KANSAI ROCK SUMMIT 2016

KANSAI ROCK SUMMIT 2016

「ロクサミ」という略称でV系ファンの間で親しまれている、関西最大級のV系サーキットイベント〈KANSAI ROCK SUMMIT EXPLOSION CIRCUIT〉が、今年も5月15日に大阪で開催されました。心斎橋にある6つのライヴハウス (心斎橋Fanjtwice、CLAPPER、DROP、AtlantiQs、OSAKA MUSE、club JANUS)にて行われたこのイベントには、関西だけでなく、全国から56組の主にインディーズで活動するV系バンドが集結した、現在のV系インディーズシーンの有り様が広く見渡せるイベントです。

過去最高の動員を記録した〈KANSAI ROCK SUMMIT 2016〉

特に、今年のラインナップは若手バンドが目立ちました。昨年までは、凛やJupiterといった、キャリアもあり、知名度も高いメンバーを擁したバンドもいくつか出演していましたが、今年は完全に若手がメインで、まさにV系の今後を担うバンドが、大阪ミナミにひしめき合っていました。

また、イベント主宰者である京都のV系レーベルCROW MUSICの代表、TATSUYA氏のツイッターによれば、3度目の開催となった今年は、過去最高の動員を記録し、チケットはついにソールドアウトしたそうです。この若手メインのラインナップでもって、今年のロクサミが過去最高の動員を記録したというのは、若手に期待をよせているファンも多いということでしょうし、V系というシーン自体に親しみを持っているファンが多いということでもあるのでしょう。更に、このようなインディーズバンドばかりが出演するイベントでも、外国人のお客さんを何組か見かけました。相変わらず海外での人気も高そうです。

特に目に留まった横モッシュ

さて、そんな今年のロクサミですが、各会場から聴こえてくる音楽には、メタル、ハードコア、ゴス、エレクトロ、ヒップホップなど雑多な音楽が混じり合っています。そもそも、さまざまな音楽性が入り乱れるのがV系の特徴で、それがV系のおもしろさのひとつです。しかし、雑多な中でも一定の傾向は伺えます。

いくつか挙げてみると、まず、見た目もカラフルで、曲調もポップで、間口が広い歌ものに力を入れるバンドが近年増えている印象を受けました。V系というと、真っ黒な衣装でヘドバンしまくる様子を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、ダンスミュージックを取り入れるバンドや、4つ打ちの曲も多く耳にしましたし、この辺りは今のJ-ROCKシーンとリンクしていると捉えることもできます。あるいは、V系の中でも、2000年代中期以降のシドやアンティック-珈琲店-、アリス九號.(現A9)などに影響を受けたキッズたちが今の若手バンドに多いのかもしれません。

そして、今回特に目に留まったのが、横モッシュです。これはオーディエンスが、フロアの上手へ下手へと一斉に移動するノリ方で、オーディエンス側から自発的に起こる場合もあれば、バンド側が扇動する場合もあります。

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音楽性はさまざまであれ、ほとんどのバンドがこの横モッシュを取り入れており、もっと言うと、それありきの曲作りになっているのではないかと思うほどでした。つまり、それだけバンド側はオーディエンスが楽しめることを第一に考えて、オーディエンスをのせることを重視していると感じました。

しかしながら、この日観たアクトの中でも、オーディエンスに対する姿勢が他とは少し異なるバンドがいました。THE BLACK SWANとグリーヴァです。ともに東京を拠点に活動していますが、THE BLACK SWANの儿(Vo)とRENA(B)は、以前、大阪のレーベルUNDERCODE PRODUCTIONに所属しており、関西にも所縁のあるバンドです。この日OSAKA MUSEに登場したこの2バンドのステージは、オーディエンスを盛り上げることや楽しませることよりも、もっと別のところに重きを置いているように見えました。そこでここからは、この2バンドについてより具体的にレポートします。

あまりに激しくダークで、ずっしりと重い余韻が残るTHE BLACK SWANのライヴ

まず、THE BLACK SWANは、登場するなり薄い布のような物を頭から被って顔を隠した儿(Vo)が、他者をまったく寄せ付けないオーラを放ち、終始ステージとフロアの間にヒリヒリとした緊張感を生んでいました。その姿勢は、オーディエンスを盛り上げるどころか、むしろ少し距離を置いているように見えます。

曲調はメタルコアを軸とし、どれも徹底的にヘヴィです。とはいえ、ヘヴィネス一辺倒ではなく、サビの叙情的な美しいメロディや、情念のこもったギターソロなど、1曲のなかに展開も多く聴きどころがたくさんあります。加えて、演奏力も表現力も高く、ほとんどのバンドがシンセなどで作った音を同期させて、演奏に厚みを出していたところ、彼らは必要以上にそこに頼ることなく、あくまで5人で鳴らす音でオーディエンスを威嚇していました。

更に、特筆すべき点は、彼らのステージが、あまりに激しくダークで、ずっしりと重い余韻が残ったことです。まるで、オーディエンスに「盛り上がった」、「暴れた」という感想だけで終わらせないようにしているような、そんな印象を持ちました。そこで後日、彼らの作品に触れるため、1stフルアルバム『OUSIA』を手に取ったところ、驚くべきことに、そこには歌詞カードがついておらず、本作購入者がワンマンライヴに足を運んだ時に、リリックブックレットがもらえるという仕様になっていました。これは一体どういうことなのか。決して彼らがリスナーに不親切だというわけではなく、それが何を意味するのかを、リスナーに考えさせようとしているのでしょう。歌詞カードをつけないこと自体がひとつのメッセージであり、敢えて簡単に歌詞の情報を与えないことで、この作品についてそれぞれに解釈し、想像することをリスナーに要求しているように思いました。

THE BLACK SWAN『OUSIA』

THE BLACK SWAN
OUSIA
寺子屋, 2016年
BUY: Amazon CD&DVD, タワーレコード, iTunesで見る

例えば、私は本作から、打ちのめされるような絶望を感じました。しかも、自らが抱える闇を、どこか俯瞰的に見ているような冷たい感触もあり、それが本作に独特の怖さを与えています。とはいえ、痛みや、人間の負の部分を表現のテーマにするバンドはいくつかいます。ですが、この作品はそれだけではなく、人間はそんなに単純ではないし、他者の痛みや悲しみは、簡単に理解できるものではない、と言っているようにも感じました。特に、歌詞カードがついていないことが、私に、よりそのメッセージを強く感じさせました。そして、闇に沈むのではなく、闇を見つめているからこそ生まれる、逞しさみたいなものも本作からは感じられます。こんな風に、リスナーの想像力を喚起させるTHE BLACK SWANの姿勢は、お客さんをどれだけ盛り上げられるかに注力しがちな現行のシーンとは全く異なるスタンスに見えます。

THE BLACK SWAN「赫音-justitia-」Music Video

リスナーを自分たちのルーツへと繋ごうとしているグリーヴァ

続いて、もう一組のグリーヴァについてです。

彼らの面白さはなんといってもコンセプトにあります。グリーヴァは自ら「古き良き時代の継承者」と名乗っており、ヴィジュアルも曲調も、90年代に活躍したV系の様式美をそのまま現在に持ち込んだようなスタイルを貫いています。正直私はこれまで彼らに対しては、90年代のV系の焼き直しなのでは? と懐疑的に捉えていましたが、どうやらそうではないと、この日のステージを観て気が付きました。きっかけは「ironic sky」がプレイされた時です。クリーントーンのアルペジオにメロディックな旋律、音数も今のV系ほど多くはないですし、シンプルな構成のミディアム曲で、まさに90年代のV系を彷彿とさせるナンバーですが、この曲がプレイされたとき、多くのオーディエンスは棒立ちでした。もしかすると、5月11日に発売されたばかりの最新アルバム『混沌ノ匣』に収録されている新しい曲なので、そのような反応だったのかもしれませんが、これが90年代のV系に親しんだオーディエンスであれば、自然と身体が反応するほどに馴染みのある、ノリやすい曲なのです。ですが、この日のオーディエンスは、この曲に対してどういう反応をすればいいのか分からないといった様子に私には見えました。おそらく、今のV系に親しんでいるオーディエンスにとっては、新鮮に聴こえたのでしょう。そしてこの光景を見たときにハッとしました。もしかするとグリーヴァは、リスナーを自分たちのルーツへと繋ごうとしているのかもしれないと。

グリーヴァ『混沌ノ匣』

グリーヴァ
混沌ノ匣
Madwink, 2016年
BUY: Amazon CD&DVD, タワーレコード

90年代から20年も経てばやはり世代間のギャップもありますし、もしかすると、今のV系に触れているリスナーの中には、X JAPANやLUNA SEA、黒夢やBUCK-TICKを聴いたことがないという若いリスナーも多いかもしれません。そういうリスナーを、自分たちのルーツである90年代のV系バンドへ繋げ、そしてさらには、90年代のV系のルーツであるデヴィッド・ボウイやバウハウス、ジャパンだったり、あるいはキッスまで辿って、広く聴いてくれればいいなという思いがあり、もしかするとそれこそが、グリーヴァのコンセプトの真の意味なのかもしれません。

グリーヴァ 2016.05.11(水)発売『混沌ノ匣』CM SPOT

音楽そのものをどうやって楽しむかをリスナーに投げかけているTHE BLACK SWANとグリーヴァ

THE BLACK SWANとグリーヴァ、このどちらにも言えるのが、自分たちを通して、より能動的に音楽と接することをリスナーに促していることです。THE BLACK SWANは、簡単に自分たちの手の内を見せずに、リスナーに対して、感じ、考え、想像することを要求していますし、グリーヴァは、ルーツをたどるという音楽のひとつの楽しみ方を提示しています。それは、単にライヴでどれだけ盛り上がるか、楽しめるかだけでなく、音楽そのものをどうやって楽しむかをリスナーに投げかけているようでもあります。オーディエンスに何かを与えよう、楽しい時間を提供しようというバンドが多い中で、THE BLACK SWANやグリーヴァのような、何かを投げかける姿勢というのは、やはり目を引きました。そして、今後のV系シーンにまたひとつ、新しい流れを生み出すような、そんな予感を感じさせるものでした。