【ライヴレビュー】なら音 2014
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Live Review
- Tags: AYNIW TEPO, dandylion, DROP CLOCK, LOSTAGE, RED SNEAKERS, Split end, YORIKIRI ICHIBAN, アルソコニ, 岡崎体育


奈良ネバーランドで開催される夏のイベント〈なら音(ならおん)〉。結成して数ヶ月の新人や、全国で活動しているベテラン勢もごちゃ混ぜの、県内で実力のあるアーティストが集結するこのフェスも2014年で8年目。ライヴハウスと、屋外の小さな特設ステージの2カ所ので行われ、屋台の出店、それらの設営、出演者のコメントムービーに至るまで、100%有志で運営しています。早耳リスナーの皆様には是非チェックしていただきたい地元密着型イベントを、地元在住ki-ftライターの視点から、クロスレビューで紹介します。
〈なら音’14〉DAY1: at 奈良NEVERLAND: 2014年8月23日
奈良に縁のある出演者のみで2007年から『奈良ネバーランド』で行われている〈なら音〉。久しぶりに行こうと調べたら、ブログ等が若々しくて不安になった。学祭の雰囲気に馴染めたことがない人間には、あの狭い空間をサークルノリで迫られたら地獄としか……。恐怖を抱えたまま2DAYSの1日目に赴いた。
ライヴハウス内との2ステージ制の為、敷地内には屋外アコースティックステージが組まれ、更に屋台や飲食・喫煙スペース等も。中高生と思しきスタッフ達の楽しそうな様子から地元の祭っぽさが漂っている。おっとやはり気分が塞いできた。ライヴに集中しよう。
全部で22組、なかなか見応えがあった。幼げかつ憂い含みの声とベースラインが印象的な女子3人組Split end。2ピースのアルソコニは、父になるらしいドラマーのパワフルさに加えエモいヴォーカルとギターが荒々しくて良い。“ありのまま”の姿を見せたYORIKIRI ICHIBANは、風刺なのか馬鹿なのかといったファストコアで盛り上げる。面白くて激しい“盆地テクノ”岡崎体育は、長丁場で疲れた心を温めてくれた。
DROP CLOCKの観客を巻き込む力には驚いた。パンクやエモ/スクリーモを主体とした音楽に即効性があることもあるが、煽り方が上手い。フロント自らピットを作り、サーフし、ステージに客を上げ一気にダイブさせる。楽器隊はそれを熱のこもったプレイで支える。「身内ノリ言うなら身内デカくして<なら音>デカくするぞ!」と息巻いていたが、確かにそれを託せる心強さを感じるものだった。
〈なら音〉は奈良の若手にとって目標で、育つ場で、更に初心に帰る場でもあるようだ。それは良好に継続してきた成果だろう。ただ内輪感があるのも確か。目当てもなく1人でふらっと行く酔狂な奴には、長時間は居づらいところもある。温かく良いイベントなだけに勿体ない。身内に入って行くのはハードルが高いので、ここは単純にどっと外部から動員が増えてほしい。地元的閉鎖性も和らぐのでは。もっとイベントの存在を周知して大きくすると共に、奈良のシーンを外にも知られる、広められる機会として是非継続してもらえればと思う。(レビュアー:増澤 祥子)

早耳リスナーは必見、地方ライヴハウスから鳴る興奮と余韻〈なら音’14〉DAY2: at 奈良NEVERLAND: 2014年8月24日
蒸しかえる気候の中、小さい箱は多くの若者や、バンドマンでごったがえす。午後は突然の集中豪雨に見舞われ、〈なら音〉史上かつて無い悪天候の中の進行だったという。屋外ステージのPAは豪雨の影響で故障し、復旧するまでの間、ステージ下で急遽弾き語りをする出演者も見られた。
雨をしのぐように会場の中へ飛び込むと、AYNIW TEPO(アイニューテポ)が始まっていた。LOSTAGEの盟友「kacica」のメンバーが母体となり結成された、ポストパンクやアンビエントのどっしりとしたグルーヴに、女性ツインヴォーカルと繊細な鍵盤が交わる浮遊感のある残響音に視覚も聴覚も支配される。そんな彼らは9月からREVITALIZED(regaの井出竜二とomaで結成)とツアーを回る。
続いて、本日一番観たいと思っていた、常連のdandylion。深いリヴァーヴがかかるギターが染みる「Mellow Yellow」は、歌詞はヒリヒリと胸に刺さり、酸いも甘いも通過して日常へ帰る大人達のギターロック。「いつまでも10代みたいな40代やけど、今年も〈なら音〉に出演できて感謝している」と本山(Vo)が言う。毎回、変わらずにステージに立てる幸せを噛み締めているようなその姿は、奈良の音楽の土壌を牽引しているロックバンドだった。
RED SNEAKERSはアメリカツアーの武者修行を経てムキムキの爆音を鳴らす。ドラムとギターの最小編成のリズム&リズムでKING BROTHERSやワッツーシゾンビの精神を継承したロックを放つ。その代表格とも言える「ラモーンズ」が相当格好良い。このバンド・サウンドが奈良から発信されるのは頼もしい。そしてこの2人はライヴハウスの空間がよく似合う。初登場の仁丹女とホッピープラザーズも、地元では稀有な大所帯ファンクバンド。11人中3人が上半身裸のごつい兄ちゃんのアジテーションに、浴衣姿やら忍者の格好のホーン隊が先導し掴みはバッチリ。アゲアゲで突っ走り、一気に観客を引き込む。「〈なら音〉いちばん楽しんでいたで賞」は間違いなくこのバンドだ。来年も出演が期待される。
大幅にタイムテーブルが押しており、残念ながら大トリのLOSTAGEは見ることが出来なかったのだが、彼らのライヴを最後まで見届けた人物に後日談を聞くと、素晴らしいライヴを更新していたということはもちろん、五味兄が「奈良には好きな所と嫌いな所がある」とぶっきらぼうに話していたのが印象的だったという。それを聞いて彼ららしい閉め方だな、と安心した。「これで満足しちゃいない、奈良の音楽シーンにはまだまだ可能性がある」ということか。

Guitar
THROAT RECORDS, 2014年
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無名のアーティストが多く、規模も注目度も他のフェスと比較すると小さい。それを逆手に取ると「新人のバンドでも実力、魅力が伴っていれば、観客全員もっていくことは多いに可能」な醍醐味がある。過去にはメジャーデビューを果たしたKIDSやTHE ORAL CIGARETTESも登場している。〈なら音〉には、地方都市ならではの未知なる可能性が潜んでおり、大型フェスと規模は違えど「アーティストとオーディエンスが興奮と余韻を共有できる」普遍性がそこにある故に、長く続けられているイベントなのだと感じた。(レビュアー:白原 美佳)