

本秀康デザインのフライヤー
「君のやることで何も変えられないと、もし言われたとしたって、僕は歌うのをやめない」。ビッグイシューを広めるイベント『りんりんふぇす』のステージでGotchこと後藤正文は宣言する。ギターを休めハーモニカを取り出しながら「一人で作ると女の子の曲ばかりになっちゃう。バンドでは少年性を開放してるから、独りだと、ほら、ハーモニカも上手くはめられなかったり」とも。ビッグイシューはホームレス支援だけでなく、障害者、自閉症、LGBTといった社会的弱者、マイノリティーについて考える記事も豊富だ。ジェンダーや手先の器用さ、バンドに居ることの安心感について後藤が言及したのはそれを意識して? とは考えすぎか。

その後藤が絶賛するSSW三輪二郎は、アコギのリズム・カッティングと歌、それだけでほぼ初見な300人の観衆を制した。特に「すけろくさん」での一人同時、唄、ハーモニカ、マラカスの曲芸はその日の瞬間最大風速な拍手を巻き起こす。あだち麗三郎クワルテッットの「富士山」の合唱では会場全体があたたかい雰囲気に包まれたし、路上生活経験者によるダンス集団ソケリッサも素晴らしかった。心の奥底に眠る幼い頃の思い出を呼び起こされるようなパフォーマンス。そして持ち時間を超過してなお叩き続けるダウン症ミュージシャン新倉壮朗 (タケオ)のジャンベ即興演奏は観客を総立ちにさせた。

Ⅲ
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終演後も客捌けのBGMにピアノを弾き続けた彼を、主催の寺尾紗穂は「今年はタケオ君が盛り上げてくれて本当に良かった」と笑顔で語った。寺尾は、自身の演奏の合間にビッグイシューについて語って「お金ができてアパートに入ったら、繋がりが切れて、また酒浸りで働かなくなっちゃう人がいる。ホームレスでなくなってもたまに販売を続けてもいいと思うんです」。続けて来年リリースするアルバムのタイトル『楕円の夢』を説明する。「楕円は焦点が二つあって色んな像を結ぶ。正円だと中心は一つで美しいけど広がりがないでしょ? 正解は一つじゃなくていい」。最後の全員セッションにおいても彼女のピアノは、客も出演者も含め、年齢も出自も立場もそれぞれ違う300人を、自然に包み込んでいた。

残照
MIDI, 2010年
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