【ライヴレビュー】スカート『サイダーの庭』レコ発ライヴ: at 大阪中津HOSHI-JIRUSHI
- By: 稲垣 有希
- カテゴリー: Live Review
- Tags: スカート


スカート『サイダーの庭』レコ発ライヴ: at 大阪中津HOSHI-JIRUSHI
澤部渡のソロプロジェクト、スカートの4thアルバム『サイダーの庭』。大阪でのレコ発ライヴは中津にある「ハワイレコード」が主催だ。会場は今作のジャケットで描かれる儚くも懐かしさを感じる雰囲気をそのまま持ってきたかのように、水色を基調に繊細な装飾がなされている。バーでは今作にちなんだドリンクが販売されていた。普段ならビールといきたいところだが、「庭」と名付けられたノンアルコールドリンクをゴクリ。甘い炭酸が口の中で弾ける。
サポートメンバーを加えたバンド編成でのライヴも好評のスカートだが、今回はアコースティック・ギター1本での弾き語り。シンプルだが、澤部のまあるい手で紡ぐギターはリズミカルでシャープだ。炭酸が血流を促進させるように会場が徐々に興奮していくのを肌で感じた。1stアルバムから「ハル」、そしてスカート流ダンスナンバー「返信」では歓喜の声もあがり、見守るように聞いていた観客も自由に体を揺らしながら、ラテン音楽のように弾けるビートと歌声に酔いしれ始めた。

エス・オー・エス(四刷)
カチュカ・サウンズ, 2013年
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この日、彼の持つ情報量の多い歌声はスカートの魅力の1つであると改めて感じた。それは今作から披露した「はなればなれ」、「都市の呪文」で特に顕著で、切なさに吸い込まれそうになる曲の中で、彼の声はエモーショナルにも響くし、後悔と淡い願望を滲ませるような歌声で曲の情景をより身近に想像することもできる。
そして、カヴァーも数曲。彼が披露するそれは他とは少し違う。若いリスナーが聴かないような渋い選曲。古き良き日本の歌謡曲への愛情とリスペクトがキラキラと見えるところが良い。この日も、大好きだと公言するCHAGE and ASKAの「SAY YES」とムーンライダースの「9月の海はクラゲの海」を嬉しそうに演奏する彼の額に大粒の汗が光る。音楽に夢中なその姿は純粋な高校球児のように見る者を清々しい気分にさせる。幅広い年齢層が集まった会場を音楽が循環していくのを見た。

サイダーの庭
カチュカ・サウンズ, 2014年
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彼は「いやぁ楽しいですな」と、笑顔でステージを終えた。その笑顔は音楽そのものに救われて いる者が見せる最高の笑顔だった。そんな彼の音楽は、ノンアルコールでも憂鬱な月曜の夜を救えることを証明した。