キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワー「学校では教わらなかった音楽」
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Live Review
- Tags: dry river strings, Ropes, THA BLUE HERB, キツネの嫁入り, テニスコーツ, 金佑龍


photo by 井上嘉和
2014年4月13日に京都木屋町の元・立誠小学校で開催された、キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワー「学校では教わらなかった音楽」のクロスレビュー(複数名によるライヴレビュー)を掲載します。以下、イベントの詳細です。
日時:2014年4月13日 13時オープン、14時スタート
場所:京都木屋町 元・立誠小学校
出演:THA BLUE HERB、テニスコーツ、Ropes、キツネの嫁入り、金 佑龍(キム ウリョン)、dry river string
Food:木屋町アバンギルド
出店:岡村詩野、100000tアローントコ、3みっつ、狐ノ嫁入自由市場

photo by tutty
知識による先入観を抜きにして童心の気持ちに帰れた一日 (杉山 慧)
京都の中心地にある現在は廃校となった立誠小学校を舞台に行われているDIYフェスであるスキマアワー。今回で4回目の開催となった。キツネの嫁入りのマドナシが自らアポイントメントから運営まで手がけることでも注目を集めている同フェス。今回の出演者は、デス・キャブ・フォー・キューティーなど初期のエモを思わせるdry river strings。シューゲイズ的なギターに歌心ある女性ボーカルという男女ユニットRopes。シンプルなアコギと矢野顕子的な透明感のある歌声が魅力的な男女デュオのテニスコーツ。ギター1本だけにも関わらず、打楽器としてのリズムと弦楽器としてのメロディーをループ使用することで両立させた金 佑龍。社会に対する憤りなど自らの感情を吐き捨てるように、ヒップホップマナーで歌う様は向井秀徳を思わせるマドナシのボーカルが印象的だったキツネの嫁入り。そして、主催者が出演を渇望した、00年代の日本を代表するヒップホップ・グループTHA BLUE HERBがオオトリを務めた。
私のキーワードとなった言葉は、「エモーショナル」であった。演者の誰もがいい意味でリラックスをし、熱量のあるプレイをしていた。オーディエンスもそれに応えるかのようにどっぷりとその世界観に浸っていた。その象徴的なステージが金 佑龍であったように思う。エフェクターを使いループさせた音色とブルージーで力強い歌声が交じり合う見事なパフォーマンスに観客も煽られ自発的な手拍子が起こるなどヒートアップすると、突然「売れたい!」というココロの叫びを口にしたのが象徴的だった。
だが、そんなステージを遠い過去のモノにしてしまったのがTHA BLUE HERBだ。彼らの登場はこれまでの家族連れが休日の午後を楽しんでいるかのようなゆったりした雰囲気を一変させた。畑違いとも言えるラインナップであっただけに、始め会場には固く少しぎこちない空気が流れていた。そんな中DJ DYEが登場し映画のプロローグを思わせるように始まった。そして、BOSS THE MCが登場すると一気に加速していく。説法と呼ばれる彼の語りかけてくるストレートな言葉に、シニカルな思考は停止し雑音が消えていく様を感じた。彼らの起承転結のあるステージは一本のロードムービーを思わせた。このアクトで、さらに小学校で開かれたことが、専門化する前の学級のような雰囲気をかもし出していた。知識による先入観を抜きにしてシンプルに音楽を聴くことの楽しさを実感できた一日となった。

photo by 井上嘉和
心のスキマにしっかりと焼きつく、音がみせてくれた風景 (乾 和代)
2011年にはじまったスキマアワーも今回で4回目を迎えた。会場となった元・立誠小学校の木造の校舎に足を踏みいれると、職員室には1回目からこのイベントに協力している木屋町UrBANGUILDが出店するカレーの香りが漂う。3みっつでは手作りアクセサリーがならび、音楽ライター岡村詩野のブースではレコードが回り、100000tアローントコでは中古CDを懸命に選ぶお客さんがいて、文化祭のような賑いだ。
今回は和室と講堂を交互に使うツーステージ。2007年に京都で結成された dry river stringは、ライブが2年ぶりなどと感じさせない5人の息があった演奏で、新曲も披露。心地よい音色が和室に響きわたりイベントの幕が開けた。
次は講堂に場所を移し、Ropes。 (((さらうんど)))のゲストボーカルなどでも知られているアチコとART-SCHOOLのギタリスト戸高賢史のユニット。荒井由実の「卒業写真」をアチコが歌いだすと、戸高がノイジーなギターで伴奏を添える。この場所にぴったりなこの歌を皮切りに、彼らの音の世界にぐっと引き寄せられた。
和室のゆったりとした空気を一変させたのが金 佑龍。ギター片手にループマシーンで即座に音を重ねていくパフォーマンスは素晴らしく、客席からの手拍子も絶えなかった。
次に登場したのは主催者のマドナシがボーカルをつとめるキツネの嫁入りの4人。このイベントの趣旨を強く感じた1曲が「BGM」だ。今日ここにある音楽はすべて「BGMにならない音楽」とライブでも伝えてくれた気がした。
5組目は東京からテニスコーツ。和室の真ん中に置かれた長机をはさみ対面でギター弾いていた植野が途中、歌うさやの後ろに回り込み自由に演奏を続けていたのが印象的。
トリを飾ったのは北海道のヒップホップグループTHA BLUE HERB。DJ DYEの回すトラックにのってBOSS THE MCが放つ力強い言葉。応えるように伸びあがる手、思い思いにリズムをとる人々。ここが講堂であることを忘れてしまうくらい、圧巻の90分だった。
思い出にも残らないほどライブイベントが乱立し、音楽が消費される昨今。私は2度目のイベント参加となったが、今回も前回と同様に場所と歌がリンクし、その情景がしっかりと目に焼きついている。誰もが懐かしくなる学校という場所とそこに流れる意志を持つ音楽は、ちゃんと忘れられない思い出として心に残るのだろう。これからもこの場所で、彼らの届けたい音楽を私たちの心のスキマに届けてほしい。

photo by tutty

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