キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワー「学校では教わらなかった音楽」

キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワー「学校では教わらなかった音楽」
Live Review
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テニスコーツによるスキマアワーでのパフォーマンス
和室全体を使って演奏したテニスコーツ
photo by 井上嘉和

学校であって学校ではない場所 – キツネの嫁入り流・音楽の時間 (杢谷 栄里)

学校で習う音楽は、決められたカリキュラムに沿って決められた音楽を扱い、時間や学習目標という制約があるため、柔軟性に欠ける。しかし、音楽は、授業で習う以上の広がりを見せる。学校という場を離れると、音楽は時と場に応じて変化していく自由で楽しいものであることに気付かされる。まさにスキマアワーは、それを体現していた場であった。

キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワーは、「学校で教わらなかった音楽」をコンセプトに、廃校となった小学校を舞台に行われた。和室と講堂(体育館)の2会場で、交互にライブが演奏される。片方のライブが終わるともう片方でライブが始まるため、観客にとっては、バンド転換で待たされることはない。客層は主に30~40代をメインに、20代前後の学生から50、60代の初老の方まで様々。子連れも数多く見られた。

キツネの嫁入りが授業担当の教員、とすれば、出演者は外部講師、観客は生徒というべきか。

講堂を心地よい女性ボーカルで響かせたRopes。ボーカリスト・アチコとART-SCHOOLのギタリストである戸高賢史による男女2人組ユニット。リズム・マシーン、ギター、そして徐々にアチコのVoが越えていく様は、女神降臨とでもいうべきか。場を圧倒していても、子供の泣き声に笑顔で応えるアチコ。ここはどんな反応をしても許される。

ループを利用して、一人でバンドサウンドを作りだし、和室をライブハウスに変えたのが金 佑龍だ。一人でもバンドはできる、音楽はできる。手拍子で会場全員を一体化させ、ラストは95年に世界的にヒットしたナンバーME&MYの「DUB-I-DUB」をカバー。あの頃、誰しもが歌い、踊っていた。その当時の子供たちが再び、学校に集う様はまるで同窓会。最後に「楽しいけど、ダサいよね」と、吐き捨てた金。一発屋は後から振り返るとそんなものだ。それでも、小学生の時に夢中になったものは忘れることはできない。楽しさを優先させた金。音楽はみんなと一緒に楽しむものだ、演奏者は場の空気を作り、聞き手を導く。

このような多様な出演者を集め、今回の授業の計画を立てたのがキツネの嫁入りだ。アコースティックなサウンドから不気味ともいえるサイケデリックなものまで、多様な音に日常を歌う歌詞を乗せる。彼らが日常を振り返えるものであるならば、大トリのTHA BLUE HERBは日常を生き残るための音楽といったところか。予定時間を大幅に超える90分の演奏。強力なリリックで場を押していた。そして、その演奏する姿に、観客は一体となって聞き入っていた。伝えたいことがたくさんあった。だから講師自ら、大幅に時間を超えて教えた。それでも、(最終撤収時間に間に合えば)許される。ここは学校であって、学校ではないのだから。

THA BLUE HARBのパフォーマンスにスキマアワーもヒートアップ
THA BLUE HARBのパフォーマンスにスキマアワーもヒートアップ。
photo by 井上嘉和

晴れの雨にかけよって虹を見つけ出すような、大事な時間のある場所。 (中村 麻記)

ライブが好きだ、と思ってから11年目だ。私のロックの原体験はライブからだった。だから、私にとって音楽はライブありきだ。ライブって私にとって何だろう? スキマアワーは改めてそこに目をとめさせてくれた。

場所は、祇園四条駅から体感15分。木屋町通り沿いの廃校、元・立誠小学校。手の込んだ造りと白い内装のレトロな風味の校舎で、3Fの和室(板の間の回廊が囲む)と1F外付けの講堂(体育館)の2ステージ制だ。

お酒や煙の演出はカットされていて、シンプルに音楽と過ごす事ができる。企画から宣伝まで全てのマネージメントは主催バンド・キツネの嫁入り自身が行い、自分たちの思いに直通のイベント作りがなされている。それを印象付けるように、集う人達も、どのアクトもまっすぐ見入る人が多かったのは、私が体験したどんなライブとも違った。「私は音楽を聴いている」。その当たり前のような動機と意思の尊重が、気持ちよく根底に通じて満ちている。

スキマアワーが“音楽”イベントを謳っていながら、音響メインに作られているわけじゃない小学校を使うのは、アイロニーにも何かのトリガーにも思える。「教えてもらっている限りわからないものだけど、小学校という場所にいるから感じる感覚で知るものを伝えたい。」そこに、スキマアワーのひとつの核があるのではと思う。

そして呼応するように6色で引き立ちあっていた各アクト。

柔らかくうねり連なるリズムや強弱が、ひとつのメロディとしても絶妙だった5人編成のdry river string。一音一声のゆるい清涼さで、調べがゆるくひいては寄せ返し、投げる表情や息遣いで深呼吸の一時を作ったRopesの2人。そのまどろみを破って、持ち前の歌とギターと自録ループで、その時の自分を全力で表現しきってしまう自由奔放な金 佑龍。宵へ向かうと共に、楽器の軽やかさにひずみや極端に平坦なVoをかけ合わせ、増量した音数と言葉を突き刺すキツネの嫁入り。それをすっとぬくように、ランダムに自然発生する歌声&ギターと透明で有機的な佇まいで場を溶かしたテニスコーツ。悠然としたライブが続いた末に確かな尺とビートで、そのミスマッチも糧にして1日のクライマックスへと強烈にバウンドしたライブを造ったTHA BLUE HERB。アクトを追うごとに、夜が更け周りが見えなくなり、自分の感性だけが裸になって、言葉の増えたライブを見ていると、どんどん自分の輪郭がはっきりしていくようだった。

そんな、自分で見出した宝物の気持ちを大切に持ち帰る。音楽が主役の、主催者もアクトもリスナーも自立したイベント。見聞きしたから教えてもらったからではなく、自分で足を運び、自分で受け取ったニュアンスを楽しむ。その、自の意思で歩み寄ってラブコールしている部分に、私がライブを好きな理由がある。実感させられる。

子供のようにただ好きなだけを信じて、個々のまま出逢い繋がっていく。そのことの良き理解者として、その場所に在ってほしいと思う。

廃校を利用して開催されたスキマアワー
廃校を利用して開催されたスキマアワー。
photo by 井上嘉和
スキマアワーでは物販スペースも設けられた
スキマアワーでは物販と飲食スペースも設けられた。
photo by tutty
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