キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワー「学校では教わらなかった音楽」
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Live Review
- Tags: dry river strings, Ropes, THA BLUE HERB, キツネの嫁入り, テニスコーツ, 金佑龍


photo by 井上嘉和
キツネの嫁入りpresents 第四回スキマアワー「学校では教わらなかった音楽」 (光吉 香奈子)
第四回スキマアワーは、“学校では教わらなかった音楽”というサブタイトルがつけられている。会場となったのは、廃校となった小学校、元・立誠小学校である。そこでは、さまざまなイベントが行われているとあって、古いけれど古臭くなく、懐かしさを感じさせる佇まいである。第四回スキマアワーは、盛況で、ふと時空を超えて小学生が騒がしくしている景色を思い浮かべる場面が何度かあった。それは、Ropesの芯のある美しくも力強い歌声を聴きながらふと外の運動場で子供たちが走りまわっているのを見たとき。またテニスコーツが、作法室として使われていた和室の会場の中心に座って、そのまわりを観客が座って囲んでいるのを見たとき。昔の子供たちも、こんな風に先生の話に興味深く耳を傾けていたのではないか。
さまざまなジャンルのアーティストが同じイベントに出るのは、新鮮で見る側にとっては、新たな音楽を知る機会になる。出演アーティストのセレクトは、イベント主催者である「キツネの嫁入り」マドナシが、ジャンル問わず出て欲しいアーティストに依頼をしているそうだ。一人の人の好きな音楽は、ジャンルで分けられるのではなく、その人自身の感覚にひっかかるものすべてであると思う。だからこそ、一見共通項がなさそうなアーティストが、マドナシの感覚にひっかかったという共通項の元、集まった。
人が良いと思うものを知りたいし、また自分が良いと思う大切なものを伝えたい。そういった考えの元にイベントが企画されているのかな、と感じた。よって、観客も誰か特定の人を目的に来たというよりも、「何か良い音楽ないかな」という感じに自由な雰囲気を楽しんでいたように思う。
私は、音楽に力をもらう事がよくあるのだが、アーティストも、1リスナーである。金 佑龍がフィッシュマンズのナイト・クルージングを聴いて、地震後に救われたと言っていた。そういう個人的に影響を受けた大切な曲は、どんな人にもあるのだろうが、知る機会は少ない。だから、その大切に思っている曲を、アーティスト自身の言葉と共に聴けたことは、特に印象深かった。金 佑龍のアレンジは、最後の狂ったようなギターが、とてもかっこよくて彼らしさが出ていた。「楽しいけどダサい、けど楽しい!」と終わった時に彼は言っていたが、アーティストも観客も、そういった気持ちになる事は、素晴らしいと思う。誰かの大切なものは人からすればちっぽけなものかもしれない。だけど、大切なものを共有できた時、温かく楽しい時間が流れる。様々な人が、そこに集まって音を楽しむ。時に懐かしくなったり、ダサくなったり、激しかったり…。小学校という場も、思い出が詰まった大切な場所であろう。そこを会場にしたことも、大切なものを伝えたいという思いを伝えるのに、うってつけの場だったと思う。今も昔もここで耳を傾けて、何かを感じていたのだと思う。これから先の企画にも期待していきたい。

photo by 井上嘉和
自分にとっての音楽を確認する時間 (小川 あかね)
自分にとって音楽がどういうものだったか、そんなことに改めて気付かされるイベントだった。スキマアワーは、京都に活動拠点をおくバンド、キツネの嫁入りが主催するイベントで、ブッキングから運営、イベントを行うための何から何までを自らが行う、正真正銘のDIYイベント。今回で4回目の開催だ。「学校で教わらなかった音楽」をテーマに、この日は6アーティストが、現在は廃校の元・立誠小学校に集まり、講堂と和室の2ステージで演奏した。アコースティックのバンドセットでthe HIATUSとも呼応するようなメランコリックな情景を描いたdry river strings、戸高賢史(G)のエフェクトをかけたひんやりとしたギターに、アチコ(Vo)の温かみのある声がマーブルに溶け合うRopes、ループマシンを駆使したアコギの弾き語りスタイルで、力強い歌を聴かせた金 佑龍、変拍子のバンドサウンドに、マドナシ(Vo&G)が独自の視点で切り取った言葉をラップのように乗せるキツネの嫁入り、まるで絵本の読み聞かせたかのように、和室の真ん中に座り込んで優しい音を響かせていたアコースティック・デュオ、テニスコーツ、そしてラストに登場したTHA BLUE HARBは、その場の空気を瞬時に察知し、鮮度の高い言葉を投げかけ、常連だろうが初めましてだろうが、とにかくここにいるオーディエンス全員の心をノックするという姿勢を貫く。そこにはヒップホップ・グループとしての気高さを感じた。
印象に残ったシーンがある。Ropesのヴォーカル、アチコの「ギタリストとデュオを組んだら絶対に7インチレコードを出したいと思ってた」の言葉と、金 佑龍が「この曲に支えられた」と言って披露したフィッシュマンズの「ナイトクルージング」、そして主宰のマドナシが「ブルーハーブを呼ぶために開催した」などと、しきりに口にしていた、THA BLUE HARBへの思い入れ言葉。それぞれが、自分を導いてくれた音楽への思い入れを、いつかの自分の姿を思い浮かべながら呟いていた。そのシーンを見て思った。本来、音楽というのは、それぞれの感じ方があって、それぞれに思い入れがあるものなのだ。同じライヴをみて、誰かは楽しくて踊りだし、誰かは悲しくて涙する、それでいいのだ、それが音楽なのだと、このスキマアワーは教えてくれる。目の前でパフォーマンスしているアーティストとだけではなく、自分自身とも向き合えるような、お客さんが各々のやり方で、自由に音楽を楽しめる余白がたくさん用意されたイベントだった。
帰り道、入場口で配られたフライヤーにじっくりと目を通すと、こんな言葉が添えられていた。「カセットを、LPを、CDを、店頭で買って、自分だけの大事な物、大事な時間のために音楽が存在していた頃とは随分変わってしまった現在。(中略)この情報が溢れすぎる毎日に、時には「あの頃」のように音楽に身を置く時間があってもいいのではないでしょうか」
主催者であるキツネの嫁入りのマドナシの言葉だ。思えば、自分の心のスキマに寄り添ってくれるものって、私には音楽しか無かった。そんなことを思い出した。まさに、自分だけの大切な物、大切な想いを取り戻すことのできた時間だった。

photo by 井上嘉和

photo by 井上嘉和

キツネの嫁入り&フレデリックpresents
スキマ産業vol.38
『吉田ヨウヘイgroupレコ発編』
open 17:00/start 17:30
adv ¥2,500 door/¥3,000
出演:吉田ヨウヘイgroup、キツネの嫁入り、Turntable films、middle9、DJ 田中亮太、DJ 岡村詩野