現在関西音楽帖【第6回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~

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“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は今回は2017年一発目、第6回目の更新。ベランダ『Any Luck to You』、Creepy Nuts『助演男優賞』、Balloon at dawn『Out finder』、揺らぎ『night life e.p.』、ミックスナッツハウス『All You Need is Nuts』、Ribet Towns『ショートショート』の6枚を取り上げる。

ベランダ『Any Luck to You』

ベランダ『Any Luck to You』

ベランダ
Any Luck to You
自主制作, 2017年1月17日
BUY: FLAKE RECORDS, HOLIDAY! RECORDS, SECOND ROYAL SHOP

昨年夏の〈RO69JACK 2016〉入賞アーティスト一覧を見ると、英語や造語や文章で出来たバンド名たちの中に、どこの家にもある名詞が一つ混じっている。今作はそんなベランダの1stミニアルバム。関西に卸したどの店舗でもすぐに売り切れてしまった。

流麗なメロディと素直なコードで出来た歌のパーツが、J-POPの法則に沿わないエキセントリックな構成で紡がれていく。静かなスリルを感じる曲達の中で、しかし更に印象的だったのが、M1「早い話」のギターソロやM2「Let’s Summer」のイントロなど、アルバムの随所で現れる太く歪んだギターの音だ。

彼らは影響を受けたアーティストとして、スピッツやくるり、Mr.Childrenなど、90年代にデビューしたロック・バンドを多く挙げる。特にアルペジオの多用やさりげない暗喩を交えた歌詞など、スピッツからの影響は色濃い。リード・ギターの70年代的なフレーズや厚みのある音色は、そんな面々から受けた影響の一つだろう。そしてこういった音は、ここしばらく若手ロック・バンドにはあまり鳴らされてこなかった。インディー・ポップのシーンでは90年代“J-POP”のリバイバルが叫ばれてもう数年経つが、対してベランダの音楽は、いわば、ようやく現れた“J-ROCK”サイドの90年代リバイバルなのだ。更に言うなら、ポップスとロックの境界線上で広く愛される“広義のロック・バンド”を徹底的に参照している。おそらくはそれが、90年代初めに生まれた彼らが育つ間、身近にあった音楽だったからだろう。

“はるか遠くでは 驚くような幻が / ずっと当たり前みたいに / ひとの暮らしに寄りそっている”

M6「海になれたら」という詞はそんな、20年間を彼らと共に生きてきた音楽について書かれているようにも取れる。彼らがこれから、その幻にふたたび形を与えてくれるバンドになることを期待したい。(吉田 紗柚季

ベランダというバンドを知ったのは今から半年くらい前だ。ロッキング・オンが主催するアマチュア・アーティスト・コンテスト〈RO69JACK 2016〉の入賞アーティストの中の一組として彼らがいた。結果、〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016〉のステージには惜しくも立つことは出来なかったが、僕の心の中では優勝であったので、いつかライヴを観たいとそんな事を考えていた。そして、それから数か月後に、彼らのライヴを観た僕は“心地の良い裏切り”を体験し、完全にこのバンドの虜となった。

心地の良い裏切り、それを今年出たミニアルバム『Any Luck to You』で説明するのであれば、例えば1曲目の「早い話」のようにラフでポップな風を吹かせているかと思えば、中間部のギターソロを起点として、ラウドでロックな空間へとドライヴしたり、「Let’s Summer」でポップでさわやかなイントロから〈ワンダーランドの成れの果て愛着はないけど / お別れとなると都合もよく涙が出るんだな〉と自分がかつて愛着があった街を去る描写をアイロニーたっぷりに揶揄するなど、想像していた場所とは違う所へ僕たちを連れていく作品という事だ。

ちなみに、彼らはフェイバリット・アーティストとしてスピッツやペイヴメントといった「型にはまらない」という“オルタナティヴ”という言葉が似合うバンドを挙げており、彼らの一筋縄ではいかないサウンドはこういう所から生まれるのかと合点がいく。これからどんな風に私たちを裏切ってくれるのか、それを考えると私は胸のワクワク抑える事が出来ない。(マーガレット安井

Creepy Nuts『助演男優賞』

Creepy Nuts『助演男優賞』

Creepy Nuts
助演男優賞
Trigger Records, 2017年2月1日
BUY: Amazon CD&MP3, タワーレコード, 楽天ブックス

大阪堺出身のMC・R-指定と新潟出身のDJ松永によるユニットの2ndミニアルバム。前作『たりないふたり』のスマッシュヒットやR-指定が出演する「フリースタイルダンジョン」の盛り上がりによって、今や彼らはヒップホップシーンの“主役”と言えるだろう。そんな中での“助演男優賞”というタイトルや、全体を包む相変わらずの“童貞感溢れるイケてない俺”の姿勢は内実伴わない危うさを感じていた。しかし冒頭「助演男優賞」での“ロックフェスでのクリーピーナッツ 時として主役を食っちまう”というリリックにあるように、もはや矛先はヒップホップではなくロックを含む音楽シーンに対するワンスアゲインであることを宣言。主役になれない外様精神はそのままだ。続く「どっち」ではヤンキーが溜まるドン・キホーテにも、カジュアルなサブカルたちが群がるヴィレッジヴァンガードにも居場所が無かったと言い、“Yogee New Wavesの100番煎じ”とインディー界隈のトレンドを腐す強烈なパンチラインを放屁する。次のステージを登り視点を広げたところでぶち当たる、また新たな卑屈に火をつけられた言葉が冴えわたっているのだ。

終曲「未来予想図」ではいつか訪れるダンジョン終了後、ブームの終焉、落ち目になった自分を覚悟する。自らも卑下しつつ時流を皮肉りながら、達観的にリリックに落とし込んでいくスタイルは、逆説的に自分たちは今トレンドの界隈にはいるが他のヤツらとは違うんだということを暗示している。やっぱり見事な助演男優っぷりだ。(峯 大貴

Balloon at dawn『Out finder』

Balloon at dawn『Out finder』

Balloon at dawn
Out finder
HOLIDAY! RECORDS, 2016年12月21日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

本連載第3回に紹介したPOST MODERN TEAM.に続くHOLIDAY! RECORDSの第2弾リリースは、2013年結成、平均年齢22歳の大阪3人組による2ndミニアルバム。前作『Inside a dream』でもGalileo Galileiの影響を感じる井口聖也(Vo)の声や叙情的に青春を描いた歌詞、またシンセ・ギターポップサウンドとで静かに注目を集めていたが、メンバーチェンジを経た本作では冒頭「Boys shoot the film」からWashed Outに見紛うチルウェイヴに大展開。小松マサヒロ(Dr)加入によりこれまでドラムレスだったところからビートが肉体化している点も含めてサウンドの規模が広がっていることに驚く。一転「三月」はネオアコギターフレーズが核となる最もこれまでの彼らに近いサウンドだが、俯瞰視点で描かれる歌詞が淡々と歌われる中で、突如ラストにサビが現れエモーショナルに浄化させる構成に引き付けられる。前作で冒頭を飾った「七月」でもラストにサビが畳みかけるが、見事にその9か月後の世界にアップデートしている。

全体のテーマとしては前作までの“青さ”に加えて、チルウェイヴ・ドリームポップに向かったことでモラトリアムやエスケーピズムに傾倒するかと思いきや、「Our Blue」で“ずっとここにはいられないよ わかってるって?”と歌われていることを始め、“逃避からの脱却”が描かれているのは新鮮だ。さらに全7曲のタイトルを並べると椎名林檎に通ずるシンメトリーになっており、全編通して1つの物語であることを強固に伝える。その文字の並びを中央揃えにすると現れる形は限られた時間を刻む砂時計のようだ。終曲「Girls aound the gate」でフランスのエレクトロ・シューゲイザーバンドM83を思わせるシンセフレーズがフェードアウトすると共に限られた時間(=青春時代)の砂が全て落ちきって、少年少女が逃避から現実に向かう。そんな姿を見事に描き切っている。

青春の時代から脱皮しチルウェイヴを取り入れ、次のステージに向かう試みはまるで、ギターロックとエレクトロニカの融合を目指した『Futurama』時のスーパーカーを想起してしまった、驚くべき化け方だ。(峯 大貴

揺らぎ『night life e.p.』

揺らぎ『night life e.p.』

揺らぎ
night life e.p.
自主制作, 2016年12月27日
BUY: 揺らぎ公式通販サイト, HOLIDAY! RECORDS, FLAKE RECORDS

滋賀県出身のバンド、揺らぎの初EP盤となる本作。フィードバック・ノイズが生み出す甘くセンチメンタルでサイケデリックな轟音と可愛らしく囁く少女の歌声。まだ20代前半の少年、少女たちが奏でる音楽はまるで夢でも見ているかのような錯覚を起こさせてくれる。しかし、そんなサウンド以上に惹かれたのは、自分達が影響を受けたアーティスト達にアンサーを返している点だ。

例えば彼らのフェイバリット・アーティストでもあるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの代表曲に「soon」というナンバーがある。この曲は〈Wake up, don’t fear〉と冒頭で歌われるのだが、それに対して揺らぎは『night life e.p.』の1曲目に「soon」という同じタイトルの曲を配置し、その中で〈my eyes wide open / we can go far away〉と歌う。また本作の3曲目「A.O」では〈誰も知らない青 / 渦が聞こえるだけ〉と歌い出すのだが、これも、きのこ帝国の名曲「WHIRLPOOL」の中で〈仰いだ青い空が青過ぎて / 瞬きを忘れた / いつか殺した感情が / 渦になる〉と歌った事に対して、青過ぎた空を見た事がない自分たちを歌にしている。

このように自分達が影響を受けたバンドの音楽に習いながら、そんな先輩達へ返答する姿勢に僕はグッと来てしまう。3月でライヴ活動が休止になるようで残念ではあるが、是非、音楽活動は続けて欲しいと願っている。ここで終わるにはあまりにもったいないバンドだから。(マーガレット安井

ミックスナッツハウス『All You Need is Nuts』

ミックスナッツハウス『ALL YOU NEED IS NUTS』

ミックスナッツハウス
All You Need is Nuts
雷音レコード, 2017年1月25日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

「レコスケくん」でお馴染みの漫画家・イラストレーター本秀康が主催する7インチレコード専門レーベル、雷音レコード。これまでnever young beach、大森靖子、台風クラブなどのシングルを手掛けてきたが、本作はそんな7インチという拘りも捨て去るほどの熱を持って制作された、2006年結成男性3人組バンドによる6年ぶり3作目。一時期は大阪・東京それぞれにベースとドラムのメンバーを抱え、大阪出身の林良太(Vo,G)が行き来するという斬新なスタイルをとっていたが、安威俊輔(Ba)の関東移住を機に、高槻在住の野村大史(Dr)と大阪形態の3人で活動している。

全11曲、複雑な音なんて一ミリもない。それこそビートルズやキンクス、ケヴィン・エアーズなどブリティッシュ・ポップのおいしいサウンドをユーモアとセンスで味方につけた、極上のポップが並ぶ。恋の“甘さ”を文字通り砂糖で表現した「三温糖」や、ロボットに乗って地球を守る「アーノルド」、とにかくカッパ連呼の「河童の名探偵」と、突飛な歌詞世界に終始惑わさながらも、奇をてらったアングラな質感にならないのは、あだち麗三郎によるコーラスやホーンセクションアレンジを含めたプロデュースの賜物だろう。60年代を出発点としつつポップかつメルヘンチックに昇華していくスタイルにはローザ・ルクセンブルグ『ローザ・ルクセンブルグII』が背後に浮かぶ。通底する関西人特有のバイブスというものだろうか、クセが強い!(峯 大貴

Ribet Towns『ショートショート』

Ribet Towns『ショートショート』

Ribet Towns
ショートショート
自主制作, 2017年2月5日

冒頭「メトロ」のイントロ。6拍子のビートに乗るトイポップなサウンドには『EXIT』~『Port Entropy』時のトクマルシューゴを思わせる。しかしそこから快活でキュートな女性の歌声が入り、またアコースティック・ギター、マンドリン、ピアニカ、グロッケンといったアイリッシュ・トラッドの楽団的アンサンブル・グルーヴがわいわいと盛り上がりを見せる様は“箱庭的”と言えるトクマルシューゴとは正反対だ。

本作品は2016年結成されたばかりの大所帯バンドによる初音源5曲入りミニアルバム。メンバークレジットにはAmia Calvaのノズエタカヒロ(G)や、昨年解散したブルースバンドThe Foglandsの辻広人(G,マンドリン)の名前も見受けられる男女10人編成。京都の地縁で繋がった若きミュージシャンたちの集合体だ。「Pose」では一転フォークトロニカ的に、「ショートシネマ」は畳み掛けるようなブルーグラス調と、大人数ならではの音数と手数でダイナミックに聴かせる。昨年SEKAI NO OWARIが「Hey Ho」で大胆に取り入れたアイリッシュ・トラッドだが、彼らのアプローチはとことんキャッチーなJ-POPのメソッドで咀嚼していく。またそれを京都インディー界隈で実践しているところが面白い。ライヴハウスから地域・市民イベントまで、どんな場所でも愛されるバンドになる可能性を感じる。(峯 大貴

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関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
関西を拠点とした音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」は音楽ライター講座in京都を通して生まれました。音楽を伝えるためのメディアとして、アルバムレビューを中心に更新。複数人によるクロスレビュー、コラムなども書いています。