アパート: 写生帖

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アパート: 写生帖

アパート
写生帖
自主制作, 2014年
BUY: ライヴ会場, 100000tアローントコ

戦後すぐ、当時の俳句について、とんでもない批判がなされた。素人とプロの俳句を数作、無記名で並べたところ、どれがプロの句か判別できなかった。そのような事態が起こるのは、現代俳句が未完成な芸術だからであり、真の芸術とは区分して“第二芸術”と呼ぶべきだ。仏文学者の桑原武夫『第二芸術論』である。

私はポップミュージックも第二芸術だと思う。未完成と言えば聞こえが悪いが、見方を変えれば、無名の素人が大家に比肩できるほど、その芸術分野には未知の可能性があるとも捉えられる。原田和樹ことアパートの『写生帖』を聴いて、この自論は確固たるものに変わった。

原田は大学時代に京都で三人編成のギターロックバンドを結成。解散後もソロで活動を続ける、いわば“無名の素人”ならぬ“無名の音楽家”だ。ソニック・ユースのアルバム名を文字った本人ブログによると“うたにもっと大きな学生街の青春を背負わせてみたくなった”ことから、ユニット名を自分の住居でもあるアパートとする。今年に入り9曲入りのファースト・デモCD『写生帖』を発表したのだが、これがまさにユニット名に背負わせた想いの通り、いなたい青春の作品集となっている。

ゆったりとしたテンポで幕を開けるM1「アパートと憂鬱」。音量の大きすぎるシンバルが、手作りの音楽ならではの温かみを感じさせる。M3「恋の市街列車」は軽快なオルガンが心地よい、サニーデイ・サービスも顔負けの和製ポップス。M6「あじさい」はギターが歪んでいるのに騒がしくなく、ヨ・ラ・テンゴを彷彿とさせる。どの曲も音楽好きらしいアレンジに仕上がっており、聴いていると口元がゆるむ。

歌詞を読むと、“アパート”の他にも“ソメイヨシノの枯れ木道”や“商店街の店先”、“踏切前の軒の縁”などの情景が散りばめられており、原田が京都で過ごしたであろう青春時代が目に浮かぶ。CDジャケットも、通学途中のお気に入りだった桃山御陵を描いたのだとか。

音楽好きの青春謳歌。音質が良いわけでもないし、歌詞には誤字も見られる。それでもアパートの一室からは確かなポップミュージックが聞こえてくる。無名の音楽家による第二芸術に心が震えた。

Author Profile

二宮 大輔新聞社アルバイター
1981年愛媛県生まれ、京都育ち。大学卒業後、ローマに留学。帰国後、イタリア音楽専門誌MusicaVitaItaliaでコラム執筆。京都ドーナッツクラブで映画字幕を制作。フラフープスでバンド活動。