バイセーシ: 龍
- By: 森 豊和
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: バイセーシ


龍
SPACE SHOWER MUSIC/チマスト・ディスク, 2014年
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ロックで世界がひっくり返る、なんてことはない。マニック・ストリート・プリーチャーズのリッチー・ジェームスがナイフで腕に「4 REAL」と刻もうが、銀杏BOYZがアルバム製作過程で解体してしまおうが、世間様は知ったことではない。多くのミュージシャンがポスト・パンクのそのまた先の地平を求め傷ついていく。しかし、バイセーシはそういった苦行を拒否し、本能の赴くままに叫び演奏する。抑圧を解放していく。ヴォリュームは最大に、メロディーやリズムも乱調のなかに美学を見出す。
本作は、踊ってばかりの国の新作と呼応するかのようにアシッド・フォークな「弾き語りの結婚式」から殺伐と幕を開け、歌謡ヘヴィー・メタルな「ブレストオブファイヤー」、TheSpringSummer同様00年代USインディーからの影響を感じさせる「テニスプレイヤー」、グランジとヒップホップを自在に行き来する「今四天王寺」と続き、多彩というよりごちゃまぜ。フォークからサイケデリック、ハード・ロック、グランジと、ロックの歴史を総ざらいしていく。また、多くのバンドが時代の先端を模索するのに対して、彼らは時代に逆行していくかのよう。細分化したロックのジャンル・ツリーの大元である幹、さらには根っこにまで迫る。そこにあるのは最も原初的なコミュニケーション、つまりノイズと絶叫だ。
「はじめに言葉ありき」とキリスト教ではいうが、「はじめにノイズありき」と彼らならいうだろう。古代、人類は狩猟が日常で危険と隣り合わせだった。一番重要なのは即座に危険を知らせる合図。言葉の内容に重きが置かれるのは農耕がメインになってからだ。そして言葉は「人をだます」ために発展したという説もある。収穫物を人より多くくすねるためにとか。バイセーシは言葉の意味をあまり重視していない。めちゃくちゃな文法のスキマに無意識の欲動がある。それは演奏、絶叫の混じるヴォーカルと呼応して、今夜もライヴハウスを盛大に揺らす。