コールドプレイ: ゴースト・ストーリーズ
- By: 杉山 慧
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: Coldplay


Ghost Stories
Parlophone/ワーナーミュージック・ジャパン, 2014年
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「Always In My Head」で弾かれているギターのアルペジオや「Ink」でのアコースティックギターの使い方、「O」で魅せる寂しげなピアノの旋律など、彼ららしい音の断片が至る所に顔を覗かせる。しかし、ここで鳴らされているサウンドは、前2作までの彼らとは似て非なるものだ。その根幹となっているのがドラムだ。本作では時に電子ドラムを用い、ミニマルなものへ変化している。彼らは意識的にダイナミズムを削りつつも、「Magic」など全体の音のバランスとして、これまでに無い程ドラムを強調することで、メリハリのあるサウンドを獲得した。それは、本作のプロデューサーであるポール・エプワースが手がけてきた音像を想起させる。その脳裏に焼きつく乾いたペタペタと鳴るドラムを軸に、ギターやシンセで彩りを加えていく。その様は夜空に浮かび上がる星のようである。
そんなコールドプレイ3年ぶり6作目のアルバムは、ブライアン・イーノと共に制作した『美しき生命』で確立した、足し算の美学からの脱却を果たしたと言える。アヴィーチーとの「A Sky Full Of Stars」という例外を除けば、本作は引き算の美学に裏打ちされた一枚だ。
http://youtu.be/0uwFtyvW49o
それを最も体現しているのが「Midnight」である。本楽曲は、ジョン・ホプキンスの未リリース音源「Amphora」を元にコールドプレイの4人が作り上げたため、異色とも言える構成になっている。使っている楽器から違う。レーザー光線を遮ることで音を出す“レーザーハープ”、タッチスクリーンの円卓に置いてあるオブジェを移動させることで音を奏でる“リアクテーブル”という新たな機材を使用。それにより宇宙空間にいるような不安定で無機質な感覚を漂わせる、どこか近未来なサウンドを手に入れた。それは、一見ライヴを度返したようにも見受けられるほど地味な音である。しかし、本作のリリースに際し、世界中からアクセスできることを念頭に置いたライヴ・パフォーマンスを行っていることは、一考に価する。会場全体をプラネタリウムのように装飾したAlcalineでのライヴは、パフォーマンスありきの本作のコンセプトを現している。その光と音が織り成すスペクタクルは、これまでとは違う形でアートロックの可能性を示した。そんな本作を聴いていると、小さな丘の上で恋人同士が肩を並べ、星空を見上げているような気分にさせてくれる。どれだけ規模が大きくなろうとも、私とあなたという、彼らの変わらないスタンスがそこから垣間見ることができる。