杉山慧、明日はどうなるのか。〜その3〜
- By: 杉山 慧
- カテゴリー: Column, Disc Review
- Tags: DISCLOSURE, グウェン・マクレー, フォー・フレッシュメン

神戸在住、普段はCDショップ店員として働く杉山による連載企画の第三回。タイトルは神戸在住の音楽ライター安田謙一さん「神戸、書いてどうなるのか」のオマージュです。

コーラスを取り入れた新機軸
この楽曲は、フォー・フレッシュメン「Fools Rush In」(1961年)のアカペラ音源を全面にフィーチャーしてディスクロージャーの十八番であるUKガラージに再構築している。
フォー・フレッシュメンとは、ビーチボーイズのメインソングライターであるブライアン・ウィルソンがお手本にしたというアメリカを代表するコーラス・グループである。原曲の「Fools Rush In」は、ギター1本にメンバーの声がきれいに重なったシンプルかつとてもスローなバラード。歌詞は、“恋は人を馬鹿にするかも知れないがそれは人生の始まりでもある”という主旨の恋愛賛歌である。ギターを2ステップのビートに差し替えることでBPMを上げ、ディスクロージャー節のダンスミュージックに仕上げている。これまでも、サム・スミス、ウィークエンド、グレゴリー・ポーターなど屈指のボーカリストとコラボしてきた彼らだが、コーラスワークを全面に押し出した楽曲は制作してこなかった。
この50年以上前のアカペラ音源を軸に、さらにストリングスのアレンジを付け加えることで、これまでの硬質なイメージとは少し違った緩やかな印象を与えてくれる。ライヴなどで、他の曲と交じった時、この曲がアクセントとなり僕たちをチルアウトさせてくれるだろう。

一連のプロジェクトは活動休止中の息抜きである説
クールなサウンドにホットなボーカルを乗っけるバランス感覚がオーディエンスを熱狂させてきた彼ら。一時的な活動休止を挟んでいたが、今年に入り「Ultimatum」を皮切りに既に6曲をリリースしている。6曲全てに共通しているのは、コラボではなくサンプリングの形をとっていることだ。どの曲もダンスミュージックとしての路線は変わらないが、リミックスとしてのニュアンスが強いため、一連の作品では、これまでの彼らのクールで硬質なイメージのサウンドというよりは、ダンスクラシックらしいホットなサウンドが基調となっている。それを最も顕著に表しているのが、「Funky Sensation」である。ポルトガルのエディット職人アルカリノが1981年のディスコクラシックであるグウェン・マクレーの同名作のBPMを早め、クラブ向けダンスミュージックへとリワークしたものが直接的な影響元になっており、それをディスクロージャーがリミックスした形をとっている。
クレジットを見ると、5月にリリースされた「Ultimatum」を除き、8月にリリースされた5曲に関しては、ハワード(兄)の名前は無く、プロデュースなどがガイ(弟)の名義となっていること。そして何よりも、アートワークがいつもとは違う点である。ディスクロージャーと言えば、誰もが学生時代に歴史の教科書で経験したであろうホワイトペンによる落書きアートだが、8月の作品にはジャケットに光線のモチーフを使用している。それらを踏まえると、特に8月の5曲は、ガイが活動休止中の息抜きとしての喜々としてビートジャック的に作っていったニュアンスが強いのではないか。なので、本格的な始動もまだ先なのではないでしょうか。知らんけど。
最近の6曲とサンプリングされた6曲を順番に並べてプレイリストを作ってみましたので、こちらもご一緒にどうぞ。この他にも「Love Can Be So Hard」では、アレキサンダー・オニールなどの80’sポップが影響源となっているそうですし、アカペラグループにもハマっているとか、このあたりを聴いて新作に備えるのも面白いのではないでしょうか。