【総力特集】Especia第2章へ…。第1章総括の全作品レビュー

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2016年1月17日。新木場STUDIO COASTで行われた5人組大阪堀江系ガールズ・グループEspeciaのフルバンド編成ツアーファイナルワンマン。昨年メジャーデビューを果たし、全国ロングランツアーも開催。飛躍的な活動を見せた2015年の集大成を見ることが出来る場であるとぺシスト・ぺシスタ(ファンの総称)は誰もがそう思い、キャリア最大級の会場、新木場へかけつけた。そんな中アンコールで発表された重大事項とは3月以降の活動拠点を大阪から東京に移すこと、伴って三ノ宮ちか・三瀬ちひろ・脇田もなりの卒業であった。その後披露された最も盛り上がるはずの「We are Especia~泣きながらダンシング~」にも会場は衝撃に打ちひしがれるのみ。こんなに終演後の空気が悪いライヴは初めてで、まるでSMAPに便乗した悪い冗談かと実感の沸かぬまま幕を閉じた。

卒業発表後の1か月間はメジャー初のフルアルバム『CARTA』のレコ発インストアイベントやNegiccoとのユニットNegipeciaでのライヴなどで再び全国を回り、残り少ない5人での活動を駆け抜けた。

そして2月28日恵比寿ガーデンホールで1日2回に分けて行われた東京での最終公演“Hotel Estrella -Check out-”。驚くべきは1部と2部で同じ曲はなく、これまで発表してきた全てである45曲を、MCを挟むことなくノンストップDJスタイルで披露したことだ(※企画シングル「Our SP!CE」とNegipeciaの楽曲を除く)。2時間超給水も取らずただひたすら限られた時間内で全ての曲を披露し切る。その中でも残る冨永悠香と森絵莉加は先を見据えながらも離れる3人を明るく送り出そうと振る舞う。離れる三ノ宮ちかと三瀬ちひろは過度に卒業を思わせることもなくいつも通りのパフォーマンスをこなす。そしてもう一人の卒業メンバー脇田もなりはグループを離れるさみしさと悔しさが身に染み、この先の不安と迷いも顔に滲ませながら複雑そうに最後の花を咲かせていた。

今回の3人の卒業、残る2人の上京、アルバム『CARTA』発売で、第1章が完結と銘打っている。今後の活動はわからないが、今一度このタイミングでこれまでを振り返っておきたい。南堀江という大阪の小さな区域で2012年に産声をあげ、3年9か月を駆け抜けてきたEspecia。結成時はすでにアイドルブームも円熟期、日本のポップス全体としても長らくソウル・ディーバ不在が続く中、立派に補完していた存在として。またシティポップ・A.O.Rなどの80’sサウンドの再評価・再構築のトレンドの中、アイドル界からその潮流を体現していた存在として。後世まで語り続けなければいけないという使命感でもって、ここに第1章全ての音源作品を振り返るテキストを残したいと思う。(峯大貴)

つばさレコーズ期(インディーズ)

1st EP『DULCE』

Especia『DULCE』

Especia
DULCE
つばさレコーズ, 2012年11月28日
BUY: タワーレコード,iTunesで見る

2012年6月に結成、9月には会場限定販売とiTunes配信で先行リリースされており超特急で作られたであろうデビュー盤。つばさレコーズの先輩BiSが頭角を示していた時期であり、サウンドプロデューサーにはBiSの代表曲「nerve」「My Ixxx」の編曲も手掛けていたSCRAMBLES のSchtein & Longerを招集。BiSがエモーショナルなロックサウンドでセンセーショナルな活動を展開していた中で、相対するように心斎橋アメリカ村界隈で鳴っているような80’sディスコ・ブギーやジャム&ルイスが手掛けた世界観を基調とし、合わせてSoundCloud普及の中でリミックス文化とも共鳴するようなサウンド、という現在まで一貫するコンセプトを策定。しかし10名で結成したもののすぐに3名が活動辞退、冨永悠香、三ノ宮ちか、杉本暁音、三瀬ちひろ、脇田もなり、森絵莉加、井立田優香の7名でのリリースとなった。またこの後脱退する井立田在籍時唯一の作品。

収められた4曲はある種“バブル”“アーバン”“80年代ディスコ”が血肉となっているとまでは言えず、模索していたゆえに記号的なアプローチが目立つものの、それによって現在までライヴでも重要な役割を担うアッパーな楽曲が揃う。「ナイトライダー」のワウギターとシンセサウンド、「FunkyRock」で全面的に展開されているスティービー・ワンダー印のヴィブラフォン、「きらめきシーサイド」の振り付けにも取り入れられた煌びやかなカッティングギターとサックスソロ、ライヴ冒頭でよく披露され全楽曲の中でも随一の爆発力である「Twinkle Emotion」のパーカッション、と全てにおいてA.O.RやNJSをお手本とした過剰なまでにラグジュアリーなサウンドが展開されている。

肝心の本人たちの歌唱は拙い部分が多いがこの後脱退する井立田優香のけだるさ入り混じるハスキーな声が、この時点の7人で最も楽曲との相性がよい点は特筆すべき。AKB全盛期でももクロ、でんぱ組、BiSのブレイク前後、またさらにNegiccoなどのローカルアイドルに注目が集まり出した時期。誰もが青い芝生を探していた状況の中、当時まだシーンと呼ぶほどローカルアイドルが成熟していなかった大阪から、いわゆる「楽曲派」の最右翼を生み出す狙いは見事で、本人たちを置いてきぼりにするほどにお題目に忠実な洗練された楽曲で鮮やかにシーンに名乗りを上げた。

2nd EP『AMARGA-Tarde-,-Noche-』

Especia『AMARGA -Tarde-』

Especia
AMARGA -Tarde-
つばさレコーズ, 2013年5月22日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, iTunesで見る

Especia『AMARGA -Noche-』

Especia
AMARGA -Noche-
つばさレコーズ, 2013年5月22日
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収録曲が2曲違いの夕方盤と夜盤2タイプでの発売となった2nd EP。複数買いの誘発ではなく描かれる場景が2枚で見事に違い、それぞれの時間帯のベイサイドが描かれたジャケットも相乗効果となって鈴木英人や永井博の世界観を演出している。それに伴ってサウンド面も『DULCE』で打ち出したアッパーな“バブル”色は後退し、ムーディなA.O.R・シティポップにより深化。中でも「ステレオ・ハイウェイ」(Norch収録)は演奏とボーカルの調が異なるというドナルド・フェイゲンにも見られるアプローチをアイドルポップスに昇華した実験作だ。また山下達郎2005年『Sonorite』収録の「MIDAS TOUCH」のカバー(Norch収録)も過剰なアレンジは加えずEspeciaの目指すべきスタイルへの説得力を与えている。リード曲「パーラメント」もまさしくPファンクを支えたバーニー・ウォーレルばりのスペイシーなシンセフレーズにスクラッチがフィーチャーされており、初のMVではメンバーの80’sトレンディ風のちゃちすぎる演技も見ることが出来る。

洗練された楽曲に対して本人たちの歌唱・ダンスはまだ素人感が抜け切れない。しかし井立田脱退の中そのパートを埋めることとなった線の細い正統派な冨永と、金属製の甲高いファンクネスボイスを持った脇田が台頭。特に「センシュアルゲーム」「パーラメント」「オレンジ・ファストレーン」など複雑なメロディラインのサビ前パートをキュートな声で軽やかに運ぶ脇田は以降のボーカルの主軸を担うこととなる。国内ロックシーンもceroを始め“シティポップ”リバイバルが囁かれ出した時期と共鳴し、アイドルファン以外にもその良質ポップグループとしての名声が一気に広がった作品。

1st Single『ミッドナイトConfusion』

Especia『ミッドナイトConfusion』

Especia
ミッドナイトConfusion
つばさレコーズ, 2013年9月11日
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初のシングルとなった本作は作詞作曲にシンガーソングライターSAWAを迎え、『AMARGA』で打ち出したシティポップ路線から舵を切り、派手な打ち込みやシンコペーションが生み出すグルーヴィーな譜割りによってポップな面を極限までブースト。サウンドも石井明美や森川由加里、BaBe、中山美穂(角松敏生プロデュース時代)といった80年代バブル時代を象徴するアイドルディスコ歌謡のど真ん中で、これまでの楽曲は一般的な8ビートのものが少なくアイドルソング特有のケチャが入れにくいものであったが、サビのキラーフレーズ“Eyes on Me!”や、ラストサビでの転調などの王道の構成によりライヴでも屈指の盛り上がりを見せる代表曲となった。また最年少の森絵莉加にサビ前のパートが与えられ、その天真爛漫な声は楽曲の陽の部分を体現している。

またカップリングには、明確なサビもなくメンバーの歌唱はおぼつかないながらも懸命に雰囲気を出そうとしているところが面白いまさかのムードジャズ歌謡「X・O」、ライヴでも登場SEとして流しながらも8分以上登場しなかったり、ステージに上がったら上がったでファッションショーをしたりとBGMとして飛び道具的に使われ、数々のリミックスも生んだEspecia流ウィスパーソング「海辺のサティ」と充実。シングルながらも音楽性の幅をぐっと広げた作品。

2nd Single『YA・ME・TE! / アバンチュールは銀色に』

Especia『YA・ME・TE! / アバンチュールは銀色に』

Especia
YA・ME・TE! / アバンチュールは銀色に
つばさレコーズ, 2014年1月8日
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満を持して作曲にBiSサウンドプロデューサー松隈ケンタを迎え、アレンジはSchtein&LongerというSCRAMBLESの総力を結集したようなソウルファンクナンバー。ブラスとカッティング&ワウギター、ドラム、ベースという最小限編成でのマッチョなサウンドは、生バンドを従えたライヴも行う中で生まれたEspecia流ブラックコンテンポラリーの金字塔。前作「ミッドナイトConfusion」からの流れはまるで男女七人主題歌の「CHA-CHA-CHA」~「SHOW ME」とも相対し、イケイケに調子づいていることがわかる。またマセラッティ渚による「アバンチュールは銀色に」はヴェイパーウェイヴをとりいれHi-Hi whoopeeなどこれまでとは違ったインディペンデントメディア界隈にも飛び火。最新作『CARTA』がピッチフォークに取り上げられた際も本曲由来で“Vaporwave idle”と記述されるなどセンセーショナルな楽曲となった。

また大阪ローカルアイドルとしてもいずこねこ(現ミズタマリ)やクルミクロニクルなども登場、Especiaとの共演も多く、シーンの中心として環境も整ってきた充実期。

1st Album『GUSTO』

Especia『GUSTO』

Especia
GUSTO
つばさレコーズ, 2014年5月28日
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A.O.R、ソウルファンク、シティポップなどの洗練されたサウンドを、アイドルというスタンスからものにしようと奮闘し続けた、彼女たちと制作陣の2年間の足跡を凝縮したようなガールズ・ポップ万華鏡。前EP『AMARGA』よりもグルーヴに意識が置かれるようになったことによるリズムの多様性により全16曲のボリュームにも全く隙も無駄もない。歌詞にも“悲しい色ね”とあり、上田正樹さながらのR&Bソウルナンバー「BayBlues」、インドネシアのバンドikkubaruから提供を受け、先日の恵比寿2部では唯一自然発生的に会場シンガロングとなった「アビス」、先行シングル2作に通じる男女七人夏物語的80’sユーロ・ポップの傑作「No.1 Sweeper」。また三瀬ちひろ作詞による「Mount Up」も今のEspeciaの置かれている状況と向かうべき先を探す様子が等身大の女性の迷いに置き換えられて描かれているジェネレーションソングでアルバムによいアクセントを与えている。

既出のシングル曲も全てリアレンジされており、「アバンチュールは銀色に」ではイントロにデリック・メイ「Strings of Life」のフレーズが加わっていたり、「ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)」がカイリー・ミノーグやバナナラマを輩出したPWL(Pete Waterman Limited)サウンドに、「YA・ME・TE!」はアルバム用に全編歌を取りなおすこだわりようだ。デビュー以来貫いてきたスタイルは楽曲のクオリティ、メンバーのスキル共にここにて一旦高みに達する。この後杉本暁音の脱退により現在の5人編成となり、メジャーデビュー決定と、新天地に向け新たなアプローチを模索する。

Author Profile

峯 大貴音楽ライター兼社会人、京都講座東京特派員
1991年大阪生まれ。2014年3月に京都講座 で制作した「現代関西音楽帖」を編集長として発刊し、同志社大卒業、就職のため上京。 現在もライターとしてQuick Japan,CDジャーナル,BELONGなどに寄稿。落語とフォークをこよなく愛する生粋の大阪人。HITORI JAMBOREE~Mine Daiki Official Tumblr~
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