【レビュー】FEST VAINQUEUR「ペルソナ傷女」
- By: 小川 あかね
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: FEST VAINQUEUR


ペルソナ傷女
PLUG RECORDS west, 2015年
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ユニークなバンドである。関西発のヴィジュアル系(以下V系)バンドFEST VAINQUEUR(以下FV)は、見目麗しく、妖しい雰囲気もあって、クールで、という従来の王道V系スタイルに、おもしろさと親しみやすさをくっつけたようなバンドだ。
結成は2010年。その後メンバーチェンジを経て2012年から現在のHAL(Vo)、GAKU(G)、I’LL(G)、HIRO(B)、KAZI(Dr)の5人で、大阪を拠点に活動を続けてきたFV。大阪のV系といえば数年前までは、UNDERCODE PRODUCTIONというレーベルがその中心にいた。主宰していたKISAKIは、自身もベーシストとして凛-THE END OF CORRUPTION WORLD-などのバンドでシーンを牽引し続けてきたが、2013年にUNDER CODEが解体。ちょうどその頃にめきめきと頭角を現してきたのがFVだ。彼らのユニークな点は、とにかく徹底した大阪レペゼンと、その方法。関西のV系シーンを盛り上げるべくNANIWA V系連合軍(イベントやコンピレーションをリリース)を発足させたり、これまでリリースしてきた作品には関西限定で“なにわ盤”を作ったり、挙げ句5thシングルとして発表したのは、サンバ調に関西弁の歌詞が乗るお祭りソング、その名も「NANIWA SAMBA」。とにかく、関西のバンドであるというアイデンティティと、関西からV系シーンを盛り上げたいという意志をヒシヒシと感じる。
そして音楽性もなかなかユニーク。本作は彼らの7thシングルだが、そのサウンドは、DIR EN GREY以降のV系に多く見られるメタル・コアを下地にした攻撃的なヘヴィ・ロックに、中森明菜などの歌謡曲を彷彿させる、マイナー調で耳に残るメロディが乗かっている。サンバから一転、ゴリゴリのヘヴィ・ロックに歌謡曲と、その振れ幅もさることながら、演奏のうまさにも驚かされる。そして、いずれの曲も軸には覚えやすい歌とメロディ、それに大衆性があるのが何よりの特徴だ。
https://www.youtube.com/watch?v=JZRS_6pvLXQ
そこで感じるのが、“素直さ”という、このバンドの特性である。いかに人と違うことをするかとか、自分たちのイメージを確立させてそれを打ちだすとかよりも、自分たちがやりたいと思ったことをやる。そういうシンプルな意志がこのバンドの真ん中には通っている。2012年にリリースした1stアルバムには、オリジナル曲に加え、先輩V系バンドPENICILLINの「ロマンス」やGLAYの「彼女のModern…」をはじめ、大黒摩季「熱くなれ」や、エアロスミス「I DON’T WANT TO MISS A THING」などのカバーも収録されている。ざっくばらんな選曲にも思えるが、ここには、自分たちのルーツをカバーしたいという単純な動機があったのだろうし、更に、それをファンと共有したいという開かれたマインドと、“やりたいからやる”というあっけらかんとした、でも強い熱意が感じられる。恐らく彼らの曲が、歌メロに重きが置かれているのも、単に“そういう曲が好きだから”という理由が大きいのではないかと想像するし、関西レペゼンなその姿勢も、UNDERCODE無き関西のV系シーンを盛り上げたいという、ただそれだけの動機が彼らを動かせているように感じるのだ。V系だからミステリアスなイメージを守らなければならないとか、そういうことよりも、素直に思うままに活動するこの軽快さと、関西らしくいい意味で砕けたところに、私は親しみやすさを感じる。
音楽性を示す言葉ではないV系は、しばしば“なんでもあり”と言われるが、その“なんでもあり”という言葉に縛られているフシもあるV系というジャンル。FVはそういうところに風穴をあけるバンドなのではないだろうか。そしてそういうバンドが、長い間KISAKI及びUNDER CODEが土壌を耕してきた関西の地から生まれたことが重要だし、嬉しい。4月19日に梅田クラブ・クアトロで予定されているワンマン・ライヴにも是非足を運んでみたいと思う。
◆小川あかね
セーラームーン&SPEED世代。ヴィジュアル系村の住人。ガンダムはシャア派。モビルスーツはシナンジュ。好きなタイプは空条承太郎。声優沼に腰くらいまで浸かってます。
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Twitter:@akam00n