For Tracy Hyde: in fear of love e.p.

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For Tracy Hyde: in fear of love e.p.

For Tracy Hyde
in fear of love e.p.
自主制作, 2014年
配布先: File Under: Youthwave: The Best Things In Life Come For Free…

夏の夜の泡沫。10代の恋は氷のようにはかない。アイスクリームが溶けて彼女の白く細い腕にしたたる。ブルースを感じる声は聴く者を濡らしそっと包み込み、鋭く冷たく切り刻むギター・カッティングに重く確かなビート。煌びやかなバンド・サウンドは、ネオ・アコースティックがアシッド・ハウス、シューゲイザーに精神性を受け継がれ、更に90年代渋谷系ミュージシャンを通して日本へ紹介され、独自の進化を遂げていった様を駆け足で再現する。東京拠点で英ガーディアンのような海外メディアにも取り上げられるツイン・ギターの4人組ロック・バンドFor Tracy Hydeが、《Maltine》からリリースする10代のSSWラブリーサマーちゃんをヴォーカルに迎え、5人編成として初の音源をリリースした。

王道J-POPの文脈のようでどこか歪つでしっくりこない、足元をすくわれる感覚に襲われる。君と僕の箱庭世界を歌う「First Regrets」から、唯一ラブリーサマーちゃんのペンによる2曲目のエレクトロ・ファンク「笑い話」、3曲目の大瀧詠一リスペクトなインスト「さらばアトランティス鉄道」を挟み、“君を取り巻くすべてが杞憂でありますように”と歌う「SnoWish; Lemonade」で終わる全4曲。杞憂とは中国の故事で杞の国の人が「空が落ちてこないか」とありもしない心配をしたという話に由来する。しかし“311”後の世界で青春時代を過ごす彼らにとって全く杞憂ではない。ある日突然、故郷が死の灰に覆われても不思議ではない時代なのだ。

彼女はFor Tracy Hydeの音楽を完成させる最後のピースだったのかもしれない。ラブリーサマーちゃんは本名“愛夏”を英語読みしてアーティスト名にしたというが、終曲で自らの恋を「7月に降る雪」に例え、それを見て君が微笑んでくれたらと願う。その雪は彼女自身であり希望そのもの。未来の世界に降り注ぐ「不吉なイメージ」を上書きし浄化していく。