【レビュー】ナイショから世界へ | From Here To Another Place

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Helga Press『From Here To Another Place』

Helga Press(岡村詩野)
From Here To Another Place
Helga Press, 2016年
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京都三条会商店街の自転車屋店内奥に、こっそりと営業している喫茶店がある。その名もナイショ。そこに自家製ケーキを卸しているのがマルヤマさんという男性で、彼は勤め人をしつつ、自主レーベルからフォーク・シンガー安藤明子さんの7インチレコードを出している。安藤さんがマイマイズの東くん、ムーズムズの小西くんと主催している不定期イベント「具なし焼きそばナイト」が、7月某日、浄土寺の軽食屋みなみで開かれた。今は閉店したみなみの店長をしていたのが風の又サニーのギター今成哲夫で、風の又サニーは来る10月、木屋町アバンギルドでボニー・プリンス・ビリーと共演を果たす。風の又サニーのパーカッションが、本作『From Here To Another Place』の一曲目に収録されているシャラポア野口だ。

かくも奇怪な数珠つなぎが、最深部で無限に続く。それが京都の音楽シーンだ。もとをただせば学生の町という土地柄のおかげなのか、地方都市としては類を見ない豊潤な音楽史を有している。そんな京都のミュージシャンを集めたコンピレーションである本作が今年の7月にHelga Pressから発表された。プロジェクトを立ち上げたのは音楽ライター岡村詩野。各地のローカル・シーンに精通した彼女が、改めて京都に住み始めて数年、何を感じたのか。

おそらく、大都市と比較したときに浮き彫りになる京都の不甲斐なさではないだろうか。訴求力がない。商業ベースに乗せる気がない。友人周りだけで楽しんで終わってしまう。他の音楽シーンをよく知る岡村詩野ならなおのこと、この状況を歯がゆく思ったはずだ。そこに一石を投じるべく発表されたのが本作というわけだ。

収録されているミュージシャンは、発作のような弾き語りのシャラポア野口に続いて、変態チックな仮装プログレ・バンドUn Jardin Brun、懐かしいビートロックを聞かせる台風クラブなどなど。タイプは違えど、膨大なバック・グラウンドを感じさせる京都らしいミュージシャンばかり。つまり、京都の最深部をコンピレーションという形で可視化することで、数珠つなぎに新たな展開をもたらそうとしている。その大いなる可能性を、「ここから別の場所へ」という作品タイトルが端的に示している。

Author Profile

二宮 大輔新聞社アルバイター
1981年愛媛県生まれ、京都育ち。大学卒業後、ローマに留学。帰国後、イタリア音楽専門誌MusicaVitaItaliaでコラム執筆。京都ドーナッツクラブで映画字幕を制作。フラフープスでバンド活動。