【レビュー】イージー・ライダーには早すぎる | ギリシャラブ『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』

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ギリシャラブ『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』

ギリシャラブ
イッツ・オンリー・ア・ジョーク
ミロクレコーズ, 2017年
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京都出身のバンド、ギリシャラブ初のフル・アルバムとなる本作。資料に「ティアドロップ・エクスプローズやデーモン・アルバーンのソロ作を日本語ロックとして翻訳する」と書かれていたため、サイケデリックなテイストや現代音楽からの影響を受けた作品になるかと思ってはいたが、とてもメロディアスで愛着のあるポップ・ソング達へと仕上がっており、また不器用ながらも愛らしさを感じるボーカル天川悠雅の歌声はデーモン・アルバーンや ジュリアン・コープよりも『犬は吠えるがキャラバンは進む』の頃の小沢健二の歌声を思い起こさせてくれる。と、本作を一通り聴き終えて、今度は彼らの歌詞を注視しながら改めて聴き直すと驚いた。今まで耳から流れていた音が脳内でヴィジョンとなり映画になったのだ。しかも、それは以前、僕も観たことのある映画だ。豪華絢爛乱な1940年代のハリウッド映画? 違う。フランスのヌーベルバーグ? 違う。この感じは……そうだ、思い出した。アメリカン・ニューシネマだ。

アメリカン・ニューシネマといえば、社会や家族から逃げ出して、何処にも居場所がなくなった男が自分がいるべき場所を探して放浪する、といった映画が多い。それはアメリカのベトナム反戦運動やヒッピー文化の反映であり、本作の表題曲である「イッツ・オンリー・ア・ジョーク」の歌詞に登場するブッチ・キャシディとサンダンス・キッドはそんなアメリカン・ニューシネマの傑作『明日に向って撃て!』の主人公達であるし、「パリ、兵庫」の元ネタであるヴィム・ベンダース監督の『パリ、テキサス』は、そんなニューシネマから影響を受けた映画である。そう考えると、この『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』に登場する、夢ばかり見ていて働かず、しまいには盗みをして彼女と逃避行をする男の姿はまるでニューシネマの主人公そのものである。そして、天川悠雅のぎこちないながらも、無垢で可愛げのあるヴォーカルと合わさった瞬間、この物語に大いなる説得力が生まれてくる。

さて、楽しかった映画もいよいよ終盤に差し掛かったところで、この物語は私の想像もしなかった方向へと姿を変える。アメリカン・ニューシネマのラストと言えば目的地のないまま流離うか、警官隊に打たれて死ぬと相場は決まっているのだが、本作はそうではないのだ。本作の最後の曲「ギリシャより愛をこめて」で彼らはこう歌う。

たったいま列車に乗るところ
死にたいやつはついてこい
ただし死ぬのはやつらだ

本作の中でキーワードとして“舟”という単語が出てくるのだが、彼らは最後で“舟”から“列車”へと乗り換える。

舟といえば舵さえあれば、海を自由に行き来できる乗り物であり、目的なく何処へでも彷徨うことが出来る。しかし、列車だとそうにはいかない。なぜなら線路があって、居場所となる目的地がないと列車は動かないからだ。では、彼らは何処を居場所としたのか。それは「死にたい奴はついてこい」と言って、付いていく彼らを愛した人々であり、この歌を最後まで聴いたあなた自身だ。そんな、あなたのために彼らはローファイでザラッとしたサウンドに託し、ありのまま、包み隠さず思いを歌う。私は誤解していた。本作はアメリカン・ニューシネマを見せているのではない。この映画はギリシャラブの内面的な成長を見せる映画、そうビルドゥングスロマンであったのだ。

最後の一音を聴き終わった瞬間、なんとも心地よい裏切りと大団円な結末に私は清々しい気分であった。本作を通して“成長”というものを見せてくれたギリシャラブに京都を背負って立ってくれそうな期待しかない。これからどんな進化をするのか、今から楽しみだ。