【レビュー】新たな居場所を求めて | 花柄ランタン『またねっきり来ん、あの春の日よ。』

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花柄ランタン『またねっきり来ん、あの春の日よ。』

花柄ランタン
またねっきり来ん、あの春の日よ。
自主制作, 2015年
BUY: ライヴ会場など

セーラー服を着た女子高生が神社の鳥居の上に腰かけ町を見下ろしている絵。その町にはもくもくと雲が立ちこめていて、一見ファンタジックな世界に見えるが、よく見るとそれは雲ではなく工場の煙という、どこか二重構造を示唆するようなジャケット写真。そのパッケージを開封すると中にはA4サイズ一枚仕様の歌詞カードが入っており、それを取り出して驚いた。なんと裏面が住民票を模したものになっているのだ。そしてそこには“トワノ森町”と記されている。トワノ森町とはいったいなんなのか? この住民票にはどういう意図があるのだろう?

花柄ランタンは、2011年大阪の堺市で結成し、現在は京都に拠点を移して活動している。“うたとギター”の村上真平と、“うたと小物”の中田ぷきの2人だけという超ミニマムな編成のフォーク・デュオで、セカンド・アルバムである本作も、聴こえてくる音は、歌とギターと、時折鍵盤ハーモニカや鉄琴だけでとてもシンプル。まどろむようなアコギで始まる「空想の町」の“浅い夢を見た”という一節で物語は幕を開け、ラスト「永久ノ森」の“夢を見たよ”で閉じられる。一聴すると、どの曲もほのぼのとした印象で、“空想の町”で起こるほんわかとした出来事が綴られているかのように思える。が、じっくり聴きながら歌詞カードを読んでみると、非常に洞察にとんでいることがわかる。

まず、タイトルの『またねっきりこん、あの春の日よ。』(またねっきりこん=またね、それきり来ない)から想像できるように、本作では、青春時代の風景がとてもリアルに描かれている。しかも、“失う”ことが大きなテーマとなっているようだ。例えば、女子高生にインタビューをして、それをもとに作ったという「女子高生と春の焼失」では、“焼いて落ちるように/はらりと散る春/何をすればいい?/夢なんてないよ”と、まるで、10代の眩しい季節の中に潜む、虚しさや儚さを射抜くような言葉が並んでいる。更に、佐野元春の「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」を意識したであろう、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ夢」では“僕を置いて君は泳ぐ/太陽の照らす水面へ”、 アメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説「長いお別れ」を彷彿させる「ロンググッドバイ」では、“どこに行くの?/私をひとりにしないでよね。”と歌っており、歌詞の端々から、何かを失う感覚、取り残される感覚などの孤独性を感じとることができる。

想像するに、おそらくこれは、全曲の作詞作曲をしている村上の、青春時代の原風景や心象風景なのだろう。花柄ランタン公式HPにある、“村上の2015年はじめの手記”によると、地元の堺にいた頃、花柄ランタンの活動と並行させて、ロック・バンドを組んでいたそうだ。堺といえばこのところ、ライブハウス三国ヶ丘FUZZを中心に、 KANA-BOONやヤバイTシャツ屋さんなど若手バンドの活躍が目覚ましい土地で、村上もかつて、KANA-BOONらとともに、三国ヶ丘FUZZに出演していた。その手記には、破竹の勢いで人気者になったKANA-BOONを横目にしていた当時の心境を“心の底から羨ましく思った”と記されている。まさに彼が10代の眩しい青春を過ごしたその季節に、ひっそりと抱いていた孤独感みたいなものが、本作の歌詞に反映されているように思える。

でも、そういう取り残される孤独感とか、漠然とした焦りや喪失感というのは、若さという輝かしさの裏で、誰もが抱いているものだ。だから本作は、ほのぼのとしているのに、どこか生々しくて、胸が締め付けられるような感覚になる。村上が、自分の青春を歌うのに、空想の町(=トワノ森町)という前置きを必要としたのは、これを空想の町と仮定することで、聴き手が自分の物語として受け取れるようにしたいという思惑があったのだろう。更に、歌詞カードの裏面にある住民票についても考えてみると、花柄ランタンは2015年2月、住み慣れた堺の町、10代の頃の思い出の詰まった町からあえて離れて、京都へ移った。それは、どこか新しい居場所を求めてのことかもしれないし、トワノ森町住民票は、そんな彼らが、自分たちの“町”を手にしたいという意志のあらわれのようにも感じられる。前作のファースト・アルバム『ボトリと野垂れ、落ちる暮らしよ。』が、“今”ここにある暮らしについて歌っていたのに対し、本作では“過去”と対峙していることからも、本作は彼らにとって何か区切りをつけるための作品なのかもしれない。住民票も、佐野元春やレイモンド・チャドラーの作品からの引用も、彼らにとってはちょっとした遊び心なのかもしれないけれど、その遊びにこそ、真意が隠されているような気がするのだ。いずれにせよ、本作は、過去の日々を歌いながらも、その中に未来への想いを宿した決意の1枚と言えるだろう。

10月12日(月・祝)には、大阪のラジオ局FM802が主催するサーキットイベント、〈ミナミホイール〉への出演も決まった花柄ランタン。昨年も出演する予定だったのが、台風のためイベント自体が中止になり、幻となってしまったミナホのステージに、今年はついに立つそうだ。リベンジのミナホも含め、これからの活躍が楽しみだ。