葉山久瑠実: イストワール
- By: 安井 豊喜
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: 葉山久瑠実


イストワール
自主制作, 2014年
BUY: 葉山久瑠実 公式サイトにて郵送販売
ある日、パソコンでKANA-BOONやHAPPY等を輩出した音楽コンテスト『eo Music Try』のホームページを見ていた。様々な音源に耳を傾ける中、あるアーティストの唄に思わず体が硬直した。コミカルとシニカルが融合した歌詞に熱のこもるピアノ演奏。しかし、その歌声はビリー・ホリデイのような、どこか暗く虚無感に満ちあふれ、私の耳を惹きつけて離さない。気がつけばそのアーティストの音源を何度も繰り返し聴いていた。これが葉山久瑠実との出会いである。
2011年春からピアノの弾き語りにて活動。現在は大阪中心にライヴ活動を行っており、今年7月にはライブサーキットイベント『見放題2014』にも出演が決まっている。1年ぶりに彼女のホームページ内で発売された4曲入りミニアルバム『イストワール』。フランス語で“物語”と名付けられた本作は彼女のピアノと歌声合わせて、主人公たちがそれぞれの物語を紡ぎだしている。
彼女の力強くソウルフルな歌声・ピアノサウンドが楽しめる「日曜日は貴方と」。愛し合う事を許されなかった恋人を叙情的に歌いあげた「藤の花」。結婚というゴールに不安を抱いてしまった女性の気持ちの揺れを表現した「夢を見られない女」。とあるが、中でも特筆すべき物語としては「空っぽのライブハウス」である。売れないギター弾きの少年を題材にカントリー・ミュージックを意識したピアノサウンドに「機材使用費 チケットノルマ今月も無一文さ」といった売れないミュージシャンの実情を生々しくシニカルに描いた歌詞が光る。そして自分が思う事や解決策を提示し押し付けるのではなく、一歩引いて、あくまで物語のなかで動かす形で聴き手に考えてもらう構成も見事である。この歌はミュージシャンだけでなく理想と現実のはざまで苦しむ人間すべてに聴いていただきたい珠玉のナンバーだ。
彼女の魅力がたくさん詰め込まれている4つの“物語”という名のミニアルバム。今後、彼女がどのようなイストワールを紡いでいくのかを含め、期待を感じさせる作品である。