平井堅: グロテスク feat. 安室奈美恵

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平井堅: グロテスク feat. 安室奈美恵

平井堅
グロテスク feat. 安室奈美恵
アリオラジャパン, 2014年
Amazon CD+DVD, iTunes

ポップ・ミュージックは時代を映す鏡として機能する。携帯電話、インターネット等の科学技術は僕らの魔法であり夢の武器となるはずだった。お互いの理解を深め、遠くに住む友人たちを結びつけ、世界はサード・サマー・オブ・ラヴを迎えるだろうと半ば本気で信じられていた。しかし実際には出会いの安易化から、インターネットだけでなく、実社会の一部においても使い捨ての人間関係が蔓延することになる。安室奈美恵とデュエットしたこの曲で、平井堅はそんな時代の闇を痛切に歌う。

王道バラードであろうという大方の予想に反して、EDM全盛の時流を意識したフロア仕様の打ち込みダンス・チューン。安室との息もつかせぬかけ合い、矢継ぎ早に繰り出される激しいメッセージといい、まるでビースティー・ボーイズのラップのようだ。現代の空虚な人間関係を平井はえぐり出す。《「す」の一文字を入力すれば「すいません」と予測変換 心無い指先の謝罪》。口先ですらない。対面しないでiPhoneの画面に指を走らすだけ。ローリング・ストーンズの曲名「黒く塗れ」をさりげなく歌詞に挿し込み、タイトル通り自分の中の「グロテスク」な感情を宙へ放り投げ、壁に叩きつけ、蹴りこみ、粉々に粉砕するかのようだ。音源配信技術の発展でメジャー/インディーの垣根がますます曖昧になる昨今、平井の歌から私はパンク・スピリットを感じる。

彼の故郷、三重県名張市「桔梗が丘」の名を冠した2曲目のバラードでは一転して家族や恋人との密な人間関係を歌い、人を傷つけてしまう弱さを悔いる。3曲目「青空傘下」はかつて彼がカヴァーした「大きな古時計」を彷彿とさせる佳曲だ。幼いころの孤独、差し出された好意を歌い、広い青空の下、全てのひとに感謝を捧げる。この3曲入りシングルを通して平井は、かつて受けた恩を想い、利便性を最優先するなかで失われつつある大切な人間関係を守ろうとしている。