ハンバートハンバート: むかしぼくはみじめだった
- By: 峯 大貴
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: ハンバートハンバート


むかしぼくはみじめだった
ユニバーサルミュージック, 2014年
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彼ら4年ぶりのフルアルバム。その間COOL WISE MANとのコラボ盤発売、NHK子供番組への楽曲提供、佐野遊穂の産休&出産といった刺激を受け、ライブで鍛え上げられた12曲は、喜怒哀楽の先にある人間の本質を奏で始める。浮気をした男の末路「ぶらんぶらん」、得を追い求めて損を被る「ホンマツテントウ虫」、地獄に送られる「くもの糸」…毒はあるがアイロニカルではない。具体的なメッセージ性を野暮と切り捨てるかの如く、粋な余韻を残す。不合理でも思わずやってしまう人間の行動を“業”というが、そんな人間の業にこそ文化が生まれる、と肯定するような描写である。
「何も考えない」、「オーイオイ」の2曲は長らく春一番コンサートを主催し、西岡恭蔵やソー・バット・レビュー、大西ユカリらのマネージメント・プロデュースを手掛けた大阪の重鎮、故あべのぼるのカバー。業の肯定を常に体現してきたあべの楽曲の魂を彼らが受け継いだ瞬間を目の当たりにした心地だ。同じく春一番の常連出演者、友部正人の「はじめぼくはひとりだった」を引用したようなタイトルからも、日本の音楽を作り上げた先人に対する粋なリスペクトが読める。
演奏面ではナッシュビルで録音、グラミー受賞経験もあるマルチアコースティック奏者ティム・オブライエンら名うてのカントリー/ブルーグラスミュージシャンを迎えアメリカの風が吹く。だが厳選された音数で“粋”・“業の肯定”といった言語変換できない日本の価値観の表現に重心を置いたティムの仕事は、素朴な彼らのポップスとしての一面を底上げしている。
“落語は業の肯定”と残したのは立川談志だ。見栄張りたい、金欲しい、酒飲みたい、欲に正直な粗忽者の噺。“歌でメシ食おうなんていう、恐ろしい考えをするヤツはみな不良や”と残したのは前述のあべ。ええ声を、ええ演奏を届け続ける彼ら、音楽やくざ。音楽だって業の肯定じゃないか。そう気づかされるハンバートの音楽は、名実ともに日本のスタンダードミュージックへ。