現在関西音楽帖【第10回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: DENIMS, Transit My Youth, プププランド, ホームカミングス, 平賀さち枝, 愛はズボーン

フットワーク軽く、定期的に、リアルタイムで関西の音楽作品をレビューしようというコンセプトで始まった「現在関西音楽帖~PICK UP NEW DISC REVIEW~」も気がつけば第10回を迎えることになりました。これからもki-ft編集部は「関西の今」を届けていきたいと思いますので、皆様よろしくお願いいたします。さて今回は愛はズボーン『どれじんてえぜ』、プププランド『CRY!CRY!CRY!』、DENIMS『DENIMS』、平賀さち枝とホームカミングス『カントリーロード/ヴィレッジ・ファーマシー』、Transit My Youth『FUN CLUB』の5作品を取り上げます。
愛はズボーン『どれじんてえぜ』

どれじんてえぜ
TOUGH&GUY RECORDS, 2017年11月15日
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大阪は心斎橋のアメリカ村を拠点に活動する四人組バンド、愛はズボーンは一見したら“何でもあり”なバンドのように見える。彼らが出した初の1stフル・アルバム『どれじんてえぜ』でもそれは色濃く反映されており、ロックンロール・リヴァイバル、ブリットポップを軸にしているかと思えば、岡崎体育が共演している「adult swim-friends岡崎体育-」で急にハウス・ミュージックをやり出すし、さらに1曲目の「どれじんてえぜ」では《「人生にみそボンはありません」と教頭先生がsay!》と無意識で書かれたと思わせる歌詞に、4分近くの楽曲に6回メロが展開するという情報圧縮っぷりだ。
と、ここまで書けば、愛はズボーンは無茶苦茶なバンドのようにも見えてしまう。しかしそれはあくまで表層であり、「オマージュ」という点においては、まるでフリッパーズ・ギターのような、芯の強さを感じるバンドだと言ってもいいだろう。
例えば「adult swim-friends岡崎体育-」のタイトルを見れば、普通ならば「featuring」であるはずのところに「friends」と書いているのだが、これは岡崎体育とはその昔“いざゆかんとす!”というグループをやっており、この曲にも編曲として関わるほどの大の親友であるからだ。また1曲目の「どれじんてえぜ」の情報圧縮っぷりは、自身のYouTubeチャンネル[1]で語られているのだが、ザ・ビートルズの『アビイ・ロード』における「ゴールデン・スランバー」以降の流れが好きで、それを圧縮したような楽曲を作りたいと思ったことが影響している。そして本作では、同郷で愛はズボーンが敬愛するバンドLADY FLASHの「Strawberry Mind」をカヴァーしているが、そのLADY FLASHもまた無意識から出たような歌詞で歌うバンドである。
と、このようなバックボーンが見えてくると“何でもあり”な彼らの音楽が、実は“好きなものに対しての愛情表現”であることがわかり、この『どれじんてえぜ』というアルバムが愛情の集積により出来たエモーショナルな作品、だともいえる。そして好きなものを包み隠さず作品へ提示をしていく姿勢は、常に自分達が愛した楽曲をサンプリング、マッシュアップして楽曲に取り込み、提示してきたフリッパーズ・ギターと同じ精神を持ってるともいえる。だとしたら『どれじんてえぜ』は『CAMERA TALK』や『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』と並んで語られるべき作品なのかもしれない。(マーガレット安井)
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プププランド『CRY!CRY!CRY!』

CRY!CRY!CRY!
EXXENTRIC RECORDS, 2017年12月6日
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神戸出身の4人組バンド、プププランドの3作目のフル・アルバムになる本作には、彼らを表す2つのスタンスが見られる。1つは「君の春になれたら」や「サンゴーズダウン」でみられるアコースティック・ギターを鳴らしながら、ボーカル西村竜哉がエモーショナルに、時に優しく訴えかけるように歌うフォーク・ソング的な部分。もう1つは「スローなブギ」にみられる、シンプルなコード進行で衝動が赴くままにやんちゃに歌う、ロックンロール的な部分だ。
この2つは一見、両極端に感じるかもしれないが、彼らのルーツが吉田拓郎や高田渡。そしてザ・リバティーンズ、ザ・ストロークスといった事から考えると、楽曲で常にオマージュを捧げていると言ってもいいだろう。また、この2つのスタンスは元来から持ち合わせており、1stフル・アルバム『BYE!BYE!BYE!』や、その次に発売されたミニ・アルバム『いつでも夢を』は、これらのスタンスが色濃く反映されていた作品であった。ところが『Wake Up & The Light My Fire』はそうではなかった。
前作『Wake Up & The Light My Fire』は2つのスタンスのうちのロックンロール的なスタンスが全面に出た作品であった。それは新しいドラマーの加入や各メンバーが楽曲を作成したこともあり、プププランドにとっては新しい一面を見せる気概に満ちた作品ではあった。その反面、釣り合っていた2つのスタンスが崩れたことで1stアルバムを出す前から彼らのライヴを観ていた私のような人間からしたら、プププランドらしくない作品でもあった。
そう考えると、『CRY!CRY!CRY!』に関しては先程も語ったがフォーク・ソング的な部分も、ロックンロール的な部分も、両義的に存在する。つまりそれは原点回帰と言ってもいいかもしれないし、自分たちのルーツに向き合った作品であるようにも感じる。また本作から自分たちのサウンドに“ヤングフォーク”と呼称をつけたことを考えれば、これからの方向性を位置づける意欲に満ちた作品だと言っても過言ではない。そういう意味では『CRY!CRY!CRY!』はプププランドの現在の型を明確に提示した、まさに結論というべき作品なのかもしれない。(マーガレット安井)
DENIMS『DENIMS』

DENIMS
OSAMI studio., 2017年12月13日
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DENIMSが5年目にして出した初のフル・アルバム『DENIMS』は持続より、変化を求めたアルバムだ。そもそもDENIMSといえばカントリーやブルースといった音楽に、ファンクやヒップ・ホップといったエッセンスを足してできたサウンドで、小気味よく、思わずビール片手に踊り出したくなる様な楽曲群ばかりである。ところが本作に関しては「ゆるりゆらり」ではディアンジェロの『ヴー・ドゥー』でJ・ディラが採用した酩酊感のあるヨレたビートを取り入れ、「Ben & Robin」では、オカユハツコイの名でソロ活動するおかゆ(Gt)がDENIMSでは初めて作詞とメイン・ヴォーカルをとったりと、それまでの彼らとは違ったアプローチを求めた作品集となっている。
そこで思い出すのはDENIMSは会場へ来るファンを大事にするバンドであることだ。彼らは会場限定でシングル曲を販売する事がとにかく多い。過去に会場限定だと6枚のデモと1枚のシングル、計7枚の会場でしか買えないCDを販売していた。それはライヴに来たお客さんへ「いまの自分たちを知ってほしい。」という気持ちの表れでもあるし、その甲斐もあってか、彼らのライヴへ行くと固定のファンがついている。ただ最近の活動を俯瞰すると、フジロックやVIVA LA ROCKと大型フェスへの露出も多くなり、今年には東名阪そして福岡でワンマンツアーを行う。そう考えると本作は、従来のDENIMSとは一面を見せることで、既存のファンだけでなく、新しいリスナーも呼び込む気概を感じさせる作品でもある。今以上に愛されるバンドでいるために、新たに踏み出した一歩となる作品、それが『DENIMS』である。(マーガレット安井)
平賀さち枝とホームカミングス『カントリーロード/ヴィレッジ・ファーマシー』

カントリーロード/ヴィレッジ・ファーマシー
SECOND ROYAL RECORDS, 2018年1月24日
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このコラボ第2章は単なるスペシャルなイベントごとじゃない! お互いにネクストステージへの青写真を鮮やかにするために再会した重要な作品だ。昨年のフジロックにも同名義で出演しており布石はすでにあったが、音源としては『白い光の朝に』(2014年)以来約3年半ぶりの5曲入り。前作以降ホムカミは着実にステップアップし昨年の『SYMPHONY』ではストリングを取り入れた新境地で新たなフェーズへ。一方で平賀さち枝はコラボ以降しばらくリリースが空いていたが、自身の曲に感受性を飲みこまれてしまうかのような迷いの日々を乗り越え、軽快なポップ作品でありながら歌い手としての頑固さを感じる『まっしろな気持ちで会いに行くだけ』を昨年生み出した。
そんな紆余曲折を経た2組による本作の姿勢は冒頭2曲が象徴的。前述『まっしろな~』の冒頭「春の嵐」と同じく平賀さち枝の歌で幕を開ける「カントリーロード」は彼女らしく童謡や歌謡曲をルーツとするシンプルなメロディと構成、という点では「白い光の朝に」と通じている。しかし前回は1番と2番を明確に分けていた畳野彩加(Vo,G)との歌割りがここでは見事に8小節ずつで掛け合っている。また思いつめた迷いの日々を抜け出しカントリーロードへ連れ出していくというポジティブな歌詞は平賀がこれまでの自分に宛てたようにも感じた。「白い光の朝に」では平賀の曲をホムカミがアレンジしてみたら、というある種のコンセプトありきなコラボであったが、ここでは自分を解放したニュー平賀さち枝の一歩をホムカミが頼もしく伴走している。
続く「ヴィレッジ・ファーマシー」は「PAPER TOWN」(2014年)を思わせる、明確なサビを持たず坦々と進み、ラストに大きく盛り上がりながら終わりへ向かうホムカミらしい構成。また詞が福富優樹、曲が畳野彩加と、自身が歌う曲でホムカミが詞曲での主体を取った初めての日本語詞楽曲なのである(本作ラストのアコギ弾き語り曲「おやすみ」も日本語詞・曲共に福富優樹によるもの)。英詞を日本語訳したかのように整った語調と甘酸っぱく余韻を残す表現。もはやホムカミにとって日本語と英語かはとっくにシームレスであるかのような堂々とした畳野の歌唱だ。ここでの平賀はコーラスに徹しながら、末尾の16小節で聖母のように現れ曲を締める。彼女の華でホムカミの日本語詞への取り組みをしっかり下支えしている。
成長した姿で再び出会ったこの幸せな共演は、さらなる飛躍へのロイター板になる。(峯 大貴)
Transit My Youth『FUN CLUB』

FUN CLUB
自主制作, 2017年12月22日
BUY: HOLIDAY! RECORDS
学生時代のいわゆるモラトリアム時期特有ともいえる、暇な時間と自意識だけがあり余った状態からアイデアがスパークしたような初期衝動だ。2016年結成、大阪の男女4人組シンセ・ポップ・バンドによる初ミニアルバム。全編に通じる冷やかなシンセサウンドという点ではラスト・フォー・ユースなど北欧のポップバンドに通じ、また関西においてはJuvenile Juvenile、The fin.など2010年代前半に出てきたバンドの後輩世代としてBalloon at dawnらと共に捉えることが出来るだろう。
インタールードを含む全8曲、taiki morino(Vo,G)とナカヤマポンタ(Vo,Syn)の男女2人のボーカルを中心としたサビでのユニゾンの歌唱が、もどかしいエモーションをジャブジャブ注いでいき、冷やかなサウンドと相対して胸に迫ってくる心地は新鮮だ。特にノーテンキでオルタナティブなシンセフレーズから始まり、軽いポップチューンに乗せて他愛のない日常を大合唱する「Help」の構造は、現代のサニーデイ・サービス「青春狂走曲」とも言えるだろう。しかし伝えたいことが溢れてまとまらず外に飛び出していくサニーデイに対して、「Help」では“本当は何もないさ 僕ら叫ぶだけ”と伝えることがないことをあっけらかんと声高々に歌ってしまう。演奏も歌唱もまだまだ未成熟で、自分自身も周りに対しても冷めた目で客観してしまう視点が通底しており、そんな部分を含め少しこじらせた青春がドリーミーに狂走していく音像が本作を象徴している。
まだ結成1年ばかり、「Help」のMVは360°のVR仕様で制作など早々に新しい見せ方にも取り組んでいる新星。今後メッセージ性を携え演奏も成熟を帯びていく、彼らのそんな大人に成りゆく姿を注視したくなる愛すべきバンドの登場だ。(峯 大貴)