現在関西音楽帖【第11回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: Bacon, FIVE NEW OLD, YOOKs, ふゆふきうどん

「フットワーク軽く、定期的に、リアルタイムで関西の音楽作品をレビューしよう。」というコンセプトで始まった「現在関西音楽帖~PICK UP NEW DISC REVIEW~」。第11回目となる今回はYOOKs『Dawn』、Bacon『ポラロイドカメラ』 、ふゆふきうどん『NO DRUG』、FIVE NEW OLD『Too Much Is Never Enough』の4作品をピックアップ!!
YOOKs『Dawn』

Dawn
Eggs, 2017年12月24日
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YOOKsといえば京都出身で自らの音楽を「ニュータウンポップ」と掲げて活動するバンドだ。そんな彼らの2作目となるミニアルバム『Dawn』は、前作『Newtownage』における「hanashi」や「Sunday Tripper」にあったAORやR&B、ネオ・ソウルに重きを置いたサウンドではなく、「leaving summer」が持っていたビートルズやザ・フーなどの1960年代のUKロック的なサウンドを軸にしている。そのため音だけを取れば、前作よりも筒抜け良く、明るい印象を受けるのだが、それとは裏腹に歌詞は実に物悲しい。
例えば「iiwake」は不穏な空気流れる恋人との喧嘩、「orange」は彼女と別れた後の心情、「monologue」は〈この世界は僕のものじゃない〉と思い街中を独り歩く。つまり明と暗、二つのコントラストを映画の対位法のごとく1曲にまとめる事で、単に「物悲しさ」だけではない、印象に残るような曲へと仕上がっている。そのように考えれば、本作が明るさを持つ音楽へとシフトしたことは意義のある決断だったのではないだろうか。(マーガレット安井)
Bacon『ポラロイドカメラ』

ポラロイドカメラ
elevatormusic, 2017年12月6日
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パワーポップ・バンドBaconがついに帰ってきた。6年半ぶりとなるアルバム作品『ポラロイドカメラ』は彼らの原点回帰を象徴する作品だ。特に「恋してるベートーベン」(M-2)は曲を聴けば一発でわかる通り、初期の秀作「未来日記」を思い起こさせる疾走感あふれる瑞瑞しいパワーポップを奏でている。しかし、ここまでの清々しさを取り戻すまでには紆余曲折があり、それを語るには、2011年まで時を戻さないといけない。
2011年の前作『月が朝日に変わるまで』の段階でBaconはサウンドに祭囃子を取り入れたり、フォーキーへ傾倒したり、と試行錯誤の真っただ中にいた。そしてそれは2011年以降も続き、フォーキーなサウンドにモータウン・ビートを取り入れてみたり(M-4「旅の空から」)、サンバを取り入れてみたり(M-5「カミンテール」)、さらにはアカペラまでも手を出したり(M-1「ポラロイドカメラ」)していた。つまり本作はこれら6年半にわたる試行錯誤の過程と結論を集約させた、まさにメルクマークともいえるべき作品ということだ。
『ポラロイドカメラ』は単なる大阪のインディーズバンドが作った、バラエティ豊かな作品ではない。活動19年目になるBeconの人生そのものである。(マーガレット安井)
ふゆふきうどん『NO DRUG』

NO DRUG
自主制作, 2018年2月14日
BUY: Official Store
今朝youtubeで見つけた『邪悪な国』のMV。下着姿でボウリングのピンにもたれ緑に発行するテープを見に纏い、夜空に向かって歌う彼女の歌はおぼこく、妖気的。気づけば東京で唯一扱っている高円寺の円盤に自転車ころがし購入→連続で聴くこと8回目→イマココ。いやはや痛烈な印象を残すシンガーだ。
大阪から昨年上京してきたというギター弾き語り“ふゆふきうどん”による2作目。整った顔立ちに、YUKIにも通じるまろやかかつスコーンと突き抜ける声はキャッチーだ。しかしはらわたの底にドロドロしている愛すべき有象無象をわめき散らす姿はJ-POPとアングラ・フォークの間を乱舞している。中でも「ロマンチック」は歌が続く中で、左右から喋りをまくし立てていく。TOMOVSKYの宅録スタイルを思わせる言葉のエクストリームなグルーヴが心地よい。歌のメッセージなんか追い抜いて言葉の響きが攻めてくる新たなフィメイル・トーキング・ブルースだ。また「邪悪な国」の達観しながら都会を描写する視点、前後に山手線のアナウンス音も入れながら邪悪な国=東京を描いていく。友部正人が名古屋から上阪した時のことを歌った「大阪へやって来た」(1972年)の現代版と言えるヒリヒリとした質感が立ち込めている。
全編に渡って彼女の歌には男と女の存在がある。全てが自らの経験から生まれているかのように生々しい。音楽があるから生きていける?アホか。彼女は自分の歌のために日々を刺激的に生きるのだ。(峯 大貴)
FIVE NEW OLD『Too Much Is Never Enough』

Too Much Is Never Enough
トイズ・ファクトリー, 2018年1月31日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス
ラウドなポップ・パンク・バンドとして2010年に結成された神戸出身の彼らが2016年の『Ghost In My Place』以降、3作かけて徐々にファンク、R&B、アシッド・ジャズに傾倒したポップスになっていく過程それ自体は、ここ数年の日本全体のロック・バンドのトレンドともいえるだろう。しかしその大半が日本海に張り巡らされたシティポップという名の定置網の中に捉えられたのに対し、今のモードの到達点を迎えたメジャー1stフルアムバムである本作は、そんな潮流とは真反対に太平洋を悠々と回遊し自分たちのポップスを醸成してきたことを見せつけるような作品だ。
谷本大河(SANABAGUN.)がサックスを吹く「Ghost In My Place」、MONJOE(DATS/yahyel)がプロデューサーを務める「Gold Plate」、さらにはタイの国民的スター、スタンプを迎えるという離れ業の「Good Life」まで、既存のバンド・コミューンを解放した集合知による爽快なポップ・チューン満載。特に踊Foot Worksを客演としヒップホップ・グルーヴを取り入れた「Liberty」の発想はケンドリック・ラマー、フューチャー、エイサップ・ロッキーを召還した昨年のマルーン5『レッド・ピル・ブルース』との近接が見える。
Suchmosのような兄(あん)ちゃんの成り上がり物語でも、King Gnuやyahyelの近未来的な色気ともまた違う。神戸港町のハーバーライトを思わせるとことん酔えるラグジュアリーなバンドサウンドってのが今の日本に足りなさすぎるんだよ!(峯 大貴)