現在関西音楽帖【第12回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~

青木拓人『球状するダンス』
Disc Review
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「フットワーク軽く、定期的に、リアルタイムで関西の音楽作品をレビューしよう。」というコンセプトで始まった「現在関西音楽帖~PICK UP NEW DISC REVIEW~」。第12回目となる今回は、青木拓人『球状するダンス』、『CHATMONCHY Tribute 〜My CHATMONCHY〜』(ペペッターズ「こころとあたま」)、清水煩悩『ひろしゅえりょうこ』、さとうもか『Lukewarm』、一行あけて『夢をみていた』の5作品をピックアップ!!

青木拓人『球状するダンス』

青木拓人『球状するダンス』
青木拓人
球状するダンス
ヤマテノカゼ, 2018年3月7日
BUY: TOWER RECORDS, Amazon CD, 楽天ブックス

ニュータウンに陽が沈む。春分の降雪以降、日に日に足りなくなってくる夜を充填してくれるような放蕩の歌。千里のジャック・ジョンソン、はたまた七尾旅人とでも言おうか、吹田在住の歌い手、青木拓人。約7年ぶりの2ndアルバムはアコギ弾き語りのオーガニックな質感は保ちつつ、手の届く範囲内で最大限に遊ぶことを題目としたような作品だ。

冒頭「流れ者」で日本のソウル・スタンダード小坂忠「ほうろう」への目配せ感じる快活なサウンドから幕が開け、前半部分は野暮ったくも軽やかな声を活かしたフォーキーなグルーヴが続く。位相が変わるのは「銀夜」から。最小限の音数のトラックととびっきりメロウで甘い空気が夜を満たしていくフロア・アンセムだ。七尾旅人のキャリア分岐点といえる「Rollin’ Rollin’」や「どんどん季節は流れて」に通じるポップネスを感じるが、アティチュードや時代を背負って立つ気概は皆無。後に続くダヴ民謡「しゃっくり節」、ラップも披露している「僕など」、大阪弁イントネーションのポエトリーリーディングの終曲「outro(遠い子守唄)」など、新鮮なアプローチ満載ながらに通底する“こんなんもやってみましてん”という肩の力抜けた軽さが心地よい。

同じ関西出身ならば金佑龍やリーテソンに通じるウィスキーにばっちりな歌。また土井正臣の新作『針のない画鋲』とも“2018年大阪傘差しアルバム”として描いている世界を共有できる。緩やかに全国に広がっていってほしい才人だ。(峯 大貴)


『CHATMONCHY Tribute 〜My CHATMONCHY〜』(ペペッターズ「こころとあたま」)

『CHATMONCHY Tribute 〜My CHATMONCHY〜』
Various Artists
CHATMONCHY Tribute 〜My CHATMONCHY〜
ペペッターズ「こころとあたま」)
Ki/oon Music, 2018年3月28日
BUY: TOWER RECORDS, Amazon CD, 楽天ブックス

「関西音楽帖なのに、なぜチャットモンチー?」と思われそうだが、このアルバムに注目の関西インディーズ・バンドが参加している。神戸出身のバンド、ペペッターズである。関西音楽帖では以前に『andP』を取り上げたが、彼らと言えばポスト・ロックを軸にして、音数が多く、変拍子も入り交ぜながらも、交通整備が行き届いたポップネスな楽曲アレンジが魅力の一つである。そして、そのアレンジ能力が高く評価され、本作のトリビュート参加アーティストオーディションで最優秀賞を受賞。本作で「こころとあたま」を収録する運びとなった。

さてチャットモンチーの「こころとあたま」といえば、下村亮介(Key,Pf,G)と恒岡章(Dr)をサポートに迎えた初の作品であり、恒岡がドラムである事からもわかる通り、パンク的な脈動感が溢れる楽曲である。対して、ペペッターズのトリビュートはエモーショナルを抑え、反復するビートにジャム・セッションのようなクールで自由に動くギター、ベースが冴える仕上がりである。そしてそれは、同時に初期のチャットモンチーの作品群を想起させてくれる。チャットモンチーは、高橋久美子(Dr)がいた時代は変拍子やテンポの緩急を自在に変えながらも、楽曲そのものをシンプルに見せるバンドであった。それはポスト・ロックのフォーマットをポップ・ソングの形で行っていたバンドとも言い換えていいし、その精神はペペッターズにも引き継がれているように思える。だとしたら、ペペッターズの「こころとあたま」は高橋久美子が脱退せずに続けていた場合の、つまりあり得た未来の「こころとあたま」なのかもしれない。(マーガレット安井


清水煩悩『ひろしゅえりょうこ』

清水煩悩『ひろしゅえりょうこ』
清水煩悩
ひろしゅえりょうこ
SNEEKER BLUES RECORDS, 2018年4月18日
BUY: TOWER RECORDS, Amazon CD, 楽天ブックス

京都生まれ、和歌山育ち、大阪在住のガットギター弾き語りシンガーソングライター。コムアイ(水曜日のカンパネラ)や奇妙礼太郎らも賞賛寄せる逸材、8曲入りの2枚目である。“煩悩”(=人の苦しみの元となる心の汚れ)を名としているが、その歌に欲や苦しみは皆無。煩悩あれば菩提ありと言わんばかりに悟りきっているし、彼の哲学はむしろそこから解放された〈涅槃(ねはん)〉の中を回遊している。

フラットに世界を見つめた突拍子もない言葉選びが最高にバカバカしいのだ。彼の中ではブッダは常夏の地にいるし、キリストは富士山にいるし(「ブッダ常夏キリスト富士山」)、清涼飲料水DAKARAについて歌っちゃうし(「DAKARA」)、チンギスハンと赤塚不二夫がモーニングしていれば、レーニンとシュタインがビートルズを聴いている(「シャラボンボン」)。そのさらっと万物の地位を超越した位置から歌ってくる異次元の視点が新鮮だ。また屈託なく甲高い声と愛くるしいメロディも合わされば、一見ユルいが実は意固地な哲学があるポップミュージック、その点は知久寿焼、TOMOVSKY、同世代ではキイチビールに連なっている。
 前作が『みちゅしまひかり』、本作が『ひろしゅえりょうこ』、そのどうかしているアルバムタイトルに漂う胡散臭さも含め、彼の歌はまるで新興宗教。ドツボにハマって違う世界を開けてくれる。(峯 大貴)


さとうもか『Lukewarm』

さとうもか『Lukewarm』
さとうもか
Lukewarm
P-VINE, 2018年3月14日
BUY: TOWER RECORDS, Amazon CD, 楽天ブックス

こんなにも女子のベッドルームに忠実なアルバムがこの頃あっただろうか。岡山在住の23歳・さとうもかの2ndアルバム。近畿圏ではないが、筆者の地元ということでご容赦いただければ。

前作『The wonderful voyage』は、元Scudelia Electroの寺田康彦が手がけた爽やかなスウェディッシュ・ポップ的作品だったが、本作のプロデューサーは東京SSW界の妖しい飛び道具こと入江陽。アレンジの要所に往年のヨーロッパ映画やフィメール・ジャズへの愛を込めつつも、「old young」のピアノや「Wonderful Voyage」のガットギターをはじめ、アルバム全体にさとうの宅録デモの密室感がたっぷりと残されている。「最低な日曜日」のMVからもわかる通り、これは、彼女の好きなものが並べられた寝室を描くコンセプト・アルバムなのだ。

彼女の声の魅力は、1曲の間でもくるくると声色を変えるその変わり身の速さにある。「Hello, Valentine’s day」でチョコを差し出すキュートな少女、「ひみつ」の色香漂うミステリアスな女性、「殺人鬼」で意気揚々と入江とデュエットする陽気な女子。それは、二階堂和美が使い分けるような何人ものキャラクターではなく、等身大の一人の女性が秘めるさまざまな“表情“だ。歌詞には乙女チックな恋のモチーフがたくさん使われているのだが、ナチュラルにうつろうその声色と生活感のにじむサウンドがあるから、曲の中の女の子とリスナーの距離はとても近い。なんなら、聴いた誰もがその部屋の主=“かわいいもの好きの女子“になれてしまうくらい。そんな魔法のコンパクトのような1枚だ。(吉田 紗柚季


一行あけて『夢をみていた』

一行あけて『夢をみていた』
一行あけて
夢をみていた
自主制作, 2018年3月10日

これはもういない神戸の4人組、一行あけての話。3月10日三宮のEvent-hall RATでのライヴで解散した。この2ndミニアルバムはこのラストライヴで販売された、100枚限定、置き手紙のような小品。kubotaworks(Vo,G)による素朴な声が印象に残る歌モノバンドだが、昨年作『二十歳』は「シティーポップ」や「discoくさい」などトレンドを記号的に扱ういたずら心がじわじわくる仕上がりだった。一転今回の6曲はシンプルで普遍的な日本語のポップスであり革新的な試みはない。全編で1つの物語としても捉えられるしみったれた歌詞に漂った、ささやかな終末感が本作の象徴だ。冒頭「夢をみていた」~5曲目「すてねこ」までは出て行った恋人の残像を追いかける。強がり、未練たれ、寂しがり、自らの振る舞いを反省する。しかし誰に向けても歌っていないkubotaworksの坦々とした声が乗るとメンヘラにならず軽さのあるポップスになるから不思議だ。そしてラストの弾き語り「さよならリリィ」は唯一1人称が“僕”になり視点が男側に移る。今も愛しているが、大人になる過程で分かり合えないことを悟り街から出て行く。誰も悪くなくてそれぞれに真実がある、そんな人間模様の描写は2010年代における太田裕美「木綿のハンカチーフ」だ。

 本作も、バンドの解散もまるで青春終焉宣言とばかりにあっけらかんとしている。そりゃまだ全員21歳だもの。今後も上書きされず心の空白の中に何となく残ってたまに思い出してしまいそうだ。“一行あけて”というバンド名も解散した後から徐々に効いてくるなぁ。(峯 大貴)

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関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
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関西を拠点とした音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」は音楽ライター講座in京都を通して生まれました。音楽を伝えるためのメディアとして、アルバムレビューを中心に更新。複数人によるクロスレビュー、コラムなども書いています。
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