現在関西音楽帖【第13回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~

EVISBEATS『ムスヒ』
Disc Review
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「フットワーク軽く、定期的に、リアルタイムで関西の音楽作品をレビューしよう。」というコンセプトで始まった「現在関西音楽帖~PICK UP NEW DISC REVIEW~」。第13回目となる今回は、EVISBEATS『ムスヒ』、フライデイフライデー『S.F.O.』、リクオ『永遠のロックンロール / 海さくら』、宵待『honne/1992』、Homecomings『Songbirds』の5作品をピックアップ!

EVISBEATS『ムスヒ』

EVISBEATS『ムスヒ』
EVISBEATS
ムスヒ
AMIDA STUDIO, 2018年5月2日
BUY: HMV&BOOKS, TOWER RECORDS, Amazon CD
LISTEN:Apple Music

奈良出身和歌山県在住のEVISBEATSが6年ぶりとなる3作目『ムスヒ』をリリースした。本作は、PUNCH & MIGHTYや前田和彦などと共に制作された。代表曲の一つ「ゆれる」でお馴染みの田我流を迎えた「夢の続き」や鎮座DOPENESSとの「作ってあそぼ」、アコギが印象的な「お家へ帰ろう」など彼のピースフルなマインドの楽曲が収録されている。

そんな本作の核となる楽曲が「NEW YOKU」だと思う。タイトルからして“入浴”とHIP HOPの聖地ブロンクスがあるアメリカ東海岸の都市“ニューヨーク”で韻を踏んでいるだけでなく、オーソドックスなビートに湯舟に肩まで浸かり体の芯まで温めることで開かれる極楽への扉をテーマにした彼のライムは、お風呂カルチャーを再認識させてくれる。ビデオチーム《最後の手段》が手掛けたこの曲のMVでは、冒頭の「ニューヨーク湯」なる銭湯で湯舟に浸かる自由の女神像、銭湯の桶の定番ケロリン桶への暗喩を思わせるカエルのキャラクター、立ち込める湯煙を大和絵のすやり霞の手法を用いてシーンの繋ぎに使うなど楽曲だけでなく視覚的にも古今東西がマッシュアップされていて面白い。古今東西のカルチャーをマッシュアップするというこの楽曲のアイデアは以前彼がsoundcloudにアップしていたフジテレビ系アニメのサザエさんで使われている「波平のテーマ2」とJAY-Z「Success」のアカペラをマッシュアップした「波平とJAY-Z」などにもみられており、彼の面白さを体現した楽曲になっている。(杉山 慧)


フライデイフライデー『S.F.O.』

フライデイフライデー『S.F.O.』
フライデイフライデー
S.F.O.
自主制作, 2018年3月29日
BUY: HOLIDAY! RECORDS

今から1年半前だ。ki-ftでも何度も紹介しているEasycomeの企画を、観に行った時のことである。大阪で初めてライヴする、と言っていたそのバンドは初々しく煌びやかで私の心を強く引き付けた。バンドの名前はフライデイフライデー。京都のバンドだ。昨年、1stミニ・アルバム『フライデイフライデー』をリリースし、現在4人で活動している。“現在”と書いたのは実は何度かのメンバーチェンジがあり、私が初めに観た頃のメンバーとはだいぶん違っているし、バンドの出で立ちも「初々しさや煌びやかさ」よりも「スタイリッシュで大人びたバンド」へと変化しているからだ。

そんな彼らがシングル3部作の第1弾として会場限定で発売された『S.F.O.』は3部作すべてをパッケージできるZINE形式も魅力的だが、「Seeking Fantasia Orchestra 」という、これからの彼らのアンセムになるであろう楽曲が最大の魅力である。ceroの名前の由来「contemporary exotica rock orchestra」を想起させるこの楽曲は、インディー・ロック、カリプソ、AORなどを咀嚼し、さらにはノスタルジーのエッセンスを少々。「いま、ここ。」ではない「ここではない、どこか。」を彼らは歌う。もしプレイリストを作るならザ・なつやすみバンドの「サマーゾンビ」やceroの「Contemporary Tokyo Cruise」の間に入れて良いだろう。また本作はメンバー脱退、加入などの1年半を経た今、フライデイフライデーをSeeking Fantasia Orchestra と定義させる作品であり、そう考えれば『S.F.O.』は今後の彼らのマイルストーンになるべき作品と言っても過言ではないはずだ。(マーガレット安井)


リクオ『永遠のロックンロール / 海さくら』

リクオ『永遠のロックンロール / 海さくら』
リクオ
永遠のロックンロール / 海さくら
Hello Records, 2018年5月18日
BUY: オフィシャルサイト特設ページ

年中全国行脚のピアノマン、リクオの姿勢は28年経っても変わらない。むしろコラボ・イベントHOBO CONNECTIONの開催や、自主レーベルHello Recordsの設立など、年々フットワークは軽くなり、行く先々で出会った人との繋がりこそが創作のパッションと言わんばかり。特に2016年のアルバム『Hello!』はそんな“繋がり”をサウンドで表現、先人からのオマージュを散りばめ、次世代にバトンを渡すような仕上がりであった(直近のライヴ定番曲「オマージュ-ブルーハーツが聴こえる」もその最たるものだ)。昨年10月には藤沢市鵠沼海岸から地元・京都に拠点を移すという大きな変化を経て発表されたのが本シングルとなる。

「永遠のロックンロール」はゲストギターにウルフルケイスケを迎えたストレートなロックンロール・ナンバー。佐野元春への敬意が色濃い前作収録「永遠のダウンタウンボーイ」から発展し、円熟した青さを携えたピースフルなリクオ・サウンドの中には先人の遺伝子が血肉になっていることを実感できる。その歌やグルーヴには忌野清志郎が、藤井裕が、石田長生が確かに存在しているのだ。一方で「海さくら」は10年に渡って住んでいた藤沢の海の風景が描かれた置き土産の様な作品。ラストの一節“続いてくサイクル 生かされている”にそよぐライク・ア・ローリング・ストーンの精神が海風のように心地よい。「希望のテンダネス」も原発反対のデモに参加する中でミュージシャンとしては主義主張を超えた理想と希望を歌い続ける決意と力強いピアノビートに胸掴まれる。53歳にして新章開始、若い頃から好きなものが全く変わっていなかったというリクオの第3次思春期宣言にふさわしい3曲だ。(峯大貴)


宵待『honne/1992』

宵待『honne/1992』
宵待
honne/1992
自主制作, 2018年5月6日
BUY: HOLIDAY! RECORDS

フロム神戸元町アンダーグラウンド、宵待。Ano(t)raksのタイトルを思わせるインディーかつアーバン・サウンドと、バンドでありながらtofubeatsの影響を感じるラップと歌の行間で魅せていくプッシュ(MC)のフロウ・スタイルを真ん中に据え、昨年の初音源『Neon/フタリ』から徐々に話題を呼んでいる。本作は紅一点サラ(Key)がいつの間にか加わり6人のクルーで作られた2枚目のシングル。ぐっと熱を抑えたネオソウル・グルーヴの「honne」はプッシュと交互に登場しコーラスパートを取るタンタン(G)の物憂げな声がこの曲の淡いカラーを決定づけている。一方で「1992」は彼らの生まれた年(ユウダイ(Dr)のみ1994年生)であり、結成した24歳から今年26歳となる現時点までを記した備忘録のようだ。周りの多くは社会人4年目。〈とりあえず3年〉も過ぎ、仲間と音楽で遊び、切磋琢磨していたコミュニティは仕事、家族、社会によってシャッフルされる。同世代がライヴハウスやクラブから減っていく。音楽が人生の天秤に乗せられ虚しく宙を浮く。

tofubeatsは2013年のメジャーデビュー決定を就職活動における〈内定〉という言葉を使って同世代と自分を対比し、翌年の楽曲「20140803」ではやりたいことだけをやっていくということを再認識するように歌った。「1992」にも“相も変わらず夢見るまだもう少し”という一節を始め共通の覚悟を感じるリリックとなっている。人生の椅子取りゲームには加わらず、音楽で前に進むことを彼らは宣言しているのだ。宵待よ、散り散りになってしまった同世代の想いも背負いながらこの時代を、この土地を、レペゼンしていけ。(峯大貴(born in1991))


Homecomings『Songbirds』

Homecomings『Songbirds』
Homecomings
Songbirds
SECOND ROYAL RECORDS, 2018年4月25日
BUY (7inch): HOLIDAY! RECORDS, JETSET
BUY (CD): TOWER RECORDS, Amazon CD

今はやっていないのだけど、大学のころ日記をつけるのが日課であった。その時の日記をいま読み返すと、初めての一人暮らしに戸惑う自分の心情、大学で初めてできた友達の話、そんな友達と一緒に旅行に行ったりしたこと。などもう10年以上、会ってはいない友人たちの思い出がつらつらと書かれてて懐かしいやら、気恥ずかしいやら。人は出会いと別れを繰り返す。そして時に大切な記憶は日記などに書き留めていく。この瞬間を一生忘れないように、と思いをこめて。たぶん『Songbirds』はそんな曲のような気がする。

映画『リズと青い鳥』の主題歌となったHomecomingsの本作。彼らの特徴は些細な歌詞の変化で景色を変えてしまうところだ。この曲を例にして言えば、〈Fell asleep in a shelter,〉から始まる1番の内容は風に舞うビニール袋のように独りぼっちで彷徨っていた私があなたと出会ったことを刻み込み、そして〈The two lines come close and then get away〉から始まる2番であなたと私の関係を、簡単に出来ていたあやとりが上手くいかなかったりする、というように歌うことでいつかは来る別れを予感させる。1番も2番も冒頭の7行しか変えていないし、その他は歌詞もメロディーも、さしたる変化はない。しかし、この7行の変化で“出会いの記憶”と“別れの記憶”という違う世界を私たちに見せてくれる。大切な人との思い出を刻むための『Songbirds』。私もまた大切な誰かのために日記を書いてみたくなる、そんな曲だ。(マーガレット安井)

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関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
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関西を拠点とした音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」は音楽ライター講座in京都を通して生まれました。音楽を伝えるためのメディアとして、アルバムレビューを中心に更新。複数人によるクロスレビュー、コラムなども書いています。
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