現在関西音楽帖【第7回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~

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台風クラブ『初期の台風クラブ』

台風クラブ
初期の台風クラブ
Mastard Records, 2017年8月23日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は久しぶりの更新になります。今回はダイバーキリン『海でもいい』、影野若葉『別れの夏へ』、バレーボウイズ『なつやすみ』、花柄ランタン『まともな愛のま、まほうの愛のま。』、台風クラブ『初期の台風クラブ』を取り上げます。

ダイバーキリン『海でもいい』

ダイバーキリン『海でもいい』

ダイバーキリン
海でもいい
自主制作, 2017年5月31日
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初めにわがままを言うが“ダイバーキリンが次にクル!”なんて言いたくない。各々が聴いて“これは俺の歌だ”と思ったならばこっそり大事にしてほしい。そんな自分の経験や生活と共に味わうべき曲群だ。

今年のりんご音楽祭にもオーディションから出演を決めた、大阪にて2013年結成の3ピース。フロントマンが男性、ベース・ドラムのリズム隊が女性という編成。フロントマン山中尚之(Vo,G)が中学・高校時代を過ごしたのは筆者と同じく2000年代後半。アジカン・くるり、遡ってサニーデイ、ブッチャーズと音楽にのめり込んでいった。この世代における日本のロックからの影響の受け方として王道だろう。今回の収録曲「手帳」の歌詞でも明らかにサニーデイ・サービス「旅の手帖」の世界を引き継いだアプローチも見受けられる。そんなド直球で無駄のないオルタナティブ・日本語・ロックが貫かれているところが痛快だ。ここでは1曲目「リバーサイド」を特筆しておこう。歌詞からは淀川が立ち上ってくる。少しどんとを思わせる山中の声と相まってローザ・ルクセンブルグの「橋の下」と同じ場所じゃないかと想像が広がるが、なんでもない河川敷の風景の<兵どもが夢のあと>な哀愁がぐっとくる。また歪みきったコードストロークには同世代メシアと人人への目配せも感じた。全編で声を上げる山中のこってりした歌心も一興だが、バンドのマスコット的存在でもあるモリアンヌ(Dr,Cho)のシーブリーズのようなコーラスが彼らの印象をキャッチーかつ甘酸っぱくしているのも重要。歪な編成ならではのバランスの良さを感じさせる。

埃のかぶりきったケースからかつての愛器のギターを何となく出してみた時のような、ノスタルジーよりもっと微弱な感情の動きを含ませた描写・サウンドが愛おしい。心のベストテンに飛び込んできたバンドだ。(峯 大貴

影野若葉『別れの夏へ』

影野若葉『別れの夏へ』

影野若葉
別れの夏へ
サザナミレーベル, 2017年7月5日
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昭和歌謡、フォーク、ジプシー・スウィングにシャンソン、タンゴと様々な要素を含むマージナルな歌だ。尼崎のシンガー“影野若葉”、としては初のアルバム。だがそのキャリアは2011年から“とかげのわかば”名義で大阪を中心に弾き語りを始め、途中“影野わかば”に改め東京移住。創作集団を率いたり朗読作品を作ったり活動を広げ、そして今年関西にカムバックし現名義へ。それを機にアコースティックギターからフラメンコギターに持ち替えたのだが、そのことが飛躍的に表現の幅を広げていることが本作から伝わってくる。透き通ったダミ声とでも言おうか、じんわり悲哀が滲みだす声はとにかく強烈。「君は罪人」、「ままごと遊び」、「鱗」といったシンプルな弾き語りチューンでは友川カズキばりのむき出しの表現で胸に迫ってくるが、ナイロン弦のアルペジオによりトゲを包み込むような優しい響きで聴こえてくるのが新鮮だ。一方で「狂気のフォルクローレ」「夢など見ないさ」といったサポートを迎えたバンド編成の醸す雰囲気はさながら大道芸人のデカダンス。チャラン・ポ・ランタンやソウル・フラワー・ユニオンにも共鳴する日本の闇鍋音楽の新星と言いたい。

彼女を含め折坂悠太や黒岩あすかなど、フラメンコ/クラシック・ギター弾きのシンガー・ソング・ライターが続々頭角を表しているぞ。(峯 大貴

バレーボウイズ『なつやすみ』

バレーボウイズ『なつやすみ』

バレーボウイズ
なつやすみ
バレーボウイズクラブ, 2017年7月21日
BUY: ライヴ会場ほか

青春パンクという言葉がある。2000年代前半に流行ったジャンルで一言でいえば青春をモチーフにしたパンク・ロックなのだけど、その定義でバレーボウイズを見た場合、彼らは2010年代における新たな青春パンクの形ではないだろうか。

「昭和歌謡とアイドルサウンズの融合」を掲げるバレーボウイズは2016年に京都で結成された7人組バンド。今年の7月のフジロックフェスティバルでROOKIE A GO-GOに選ばれた事からもこれからを期待される関西のバンドの1組であることは間違いない。そんな彼らの1st EPとなる『なつやすみ』であるが、サウンドを聴くと正直なところ粗さが目立つし歌声も不安定である。しかし粗さ、不安定さ=悪評価というのは大きな間違いだ。彼らにとって粗さと不安定さこそ、最大の武器でもあるのだから。

例えばセックス・ピストルズを考えてほしい。サウンドも粗いし、ジョニー・ロットンの歌声は不安定極まりないが、それでも聴き返したくなるのはバンドの伝えるメッセージに嘘がなく、素直でイノセントなサウンドに惹かれてしまうからではないか。バレーボウイズにもそれがある。ローファイなサウンド、少しズレていたり、音程が危うかったりするボーカル4人の歌声。しかし学生時代を切り取ったような歌詞と熱量高くユニゾンで歌われた途端、不安定さはイノセントに変わり、青春と言う名のキラメキが溢れ出す。

ジョニー・ロットンは「パンクが伝えようとしてきたもの、それはただひとつ。自分らしくあれ!」と言ったのだがバレーボウイズは2010年にそれを体現しているバンドであると確信する。2010年代の青春パンクはこの『なつやすみ』から始まる。(マーガレット安井

花柄ランタン『まともな愛のま、まほうの愛のま。』

花柄ランタン『まともな愛のま、まほうの愛のま。』

花柄ランタン
まともな愛のま、まほうの愛のま。
音楽と商店, 2017年8月9日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

花柄ランタンの初の全国流通となる本作のジャケットに描いてあるアナログ時計の針は24時を指している。1日の終わりであり、1日の始まりの時間である24時というのは本作に関係する。つまり本作は花柄ランタンにとっての終わりあり、始まりといえる作品なのだ。

以前、花柄ランタンについて私は「劇的な瞬間ではない日常を描く」と言ったが本作は「キャラバン」や「DOOR」といった日常世界の出来事でなく“ここではないどこか”へ私たちを連れて行ってくれる。また花柄ランタンといえば通常は二人でアコースティックに弾き語るスタイルであるのだが、本作では「キャラバン」や「やわらかパンクス」といったライヴでは二人でやるナンバーをバンド編成でやり、「ナイトフライト」のような楽器すら使用せずに都会の環境音をバックに歌うナンバーがあったりと今まで以上に新しい試みを随所に施している。

彼らはなぜ本作に今までにない事に挑戦するのか。先日、花柄ランタンのライヴで同ユニットの村上真平が本作に対して「本当はアルバム買ってくれる人の顔と名前を一致させたい気持ちはあるが、僕らも一歩前に進みたいと思い全国流通にした。」と語っていた。つまりは本作は今までの花柄ランタンをより一歩に進めるための、新しい世界へと踏み出すために作り出されたのがこの『まともな愛のま、まほうの愛のま。』なのである。花柄ランタンの新たなる始まりを予感させてくれる1枚だ。(マーガレット安井

台風クラブ『初期の台風クラブ』

台風クラブ『初期の台風クラブ』

台風クラブ
初期の台風クラブ
Mastard Records, 2017年8月23日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, 楽天ブックス

私には無数の断片からなる単一の精神がある。と言ったのはポール・ヴァレリーだが僕は台風クラブを観ると、いつもこの言葉が頭をよぎる。彼らのサウンドを解体すればウェストコースト・ロック、モータウン・ビート、ネオ・ソウル、J-POP。バンドで言えば、はっぴいえんど、The ピーズ、サニーデイ・サービスも出てくるかもしれない。しかしこれらは断片であり、それが台風クラブというバンドに集結した途端、土臭いロックンロールに合わせて、確信のない淡い希望を持ち続ける人間の物語が展開される。それはまさに相米信二監督の『台風クラブ』で制服のままで台風が来る事を心待ちにしている高見理恵のようにだ。

その台風クラブがリリースした初のフル・アルバム『初期の台風クラブ』は現時点における集大成でありドキュメントだ。本作は1曲目の「台風銀座」と「ダンスフロアのならず者」以外は過去に発売された楽曲で構成されている。それは今までの活動の総括という意味ではベストアルバム的な印象もあるかもしれないが、本作は以前に収録されたものの寄せ集めでない。今回のためにアレンジや音を変えており、例えば本作のラストを飾る「まつりのあと」を2015年に自主制作で発売された3曲入りシングル『ずる休み』のそれと聴き比べると、音数が減りシンプルでタイトになっていることがわかる。もちろんこれはマスタリングを手掛けた吉川昭二の手腕もあるが、過去から進化した2017年の台風クラブの技術や思考が詰め込まれたドキュメントとして聴く事が出来る。

日本語ロックの西日、台風クラブ。彼らはこれから進化するであろう。その現在の到達点は彼らが好きな人間はもちろん、ロックが好きな人間は見届ける必要性がある。(マーガレット安井

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関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)

関西を拠点とした音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」は音楽ライター講座in京都を通して生まれました。音楽を伝えるためのメディアとして、アルバムレビューを中心に更新。複数人によるクロスレビュー、コラムなども書いています。