現在関西音楽帖【第8回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: ナードマグネット, ムノーノ=モーゼス, 中川敬, 浪漫革命, 黒岩あすか


晩安
ギューンカセット, 2017年9月25日
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“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は8回目の更新になります。今回はムノーノ=モーゼス『シーブリーズ』、浪漫革命『夏マデ』、ナードマグネット『MISS YOU』、黒岩あすか『晩安』、中川敬『豊穣なる闇のバラッド』を取り上げます。
ムノーノ=モーゼス『シーブリーズ』

シーブリーズ
フミツキレコード, 2017年6月10日
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2015年に大学の同級生で結成、神戸を中心に活動する4人組が6月にリリースした3曲入りの1stシングル。今年夏の〈RO JACK〉では初出場ながら表題曲「シーブリーズ」で入賞を果たし、タワーレコード梅田NU茶屋町店の未流通作品コーナー“タワクル”でも今なお頻繁にチャートインし続けている。
“夏の権化、夢の中シティーパンクバンド”をコピーに掲げる通り疾走感あふれるパンクサウンドを土台としつつも、ギターの歪みの太さやリード・ギターのトロピカルなリバーブは、never young beach以降ならではの空気感を持つ。時に朗々と声を張り、時にドスの利いた巻き舌を交えつつも、言葉尻に初恋の嵐の西山達郎のようなナイーブな揺らぎをたたえる若月雄佑(Vo)の歌い回しも魅力的だ。さらに特筆すべきは若月のソングライティングで、一通り聴いたあとに歌詞カードを見ると、聴いて感じたよりずっと叙情的な詞が乗せられていたことに気づいて驚く。たとえば“男たちは見えないふりをする/顔を覆う影は敢闘”(「シーブリーズ」)、“空気に色を塗って 逆立つ波を焼き付ける”(「MUNO」)など。文学的な歌詞でもライヴハウスをブチ上げるパンク・ナンバーとしての情熱が全く損なわれていないのは、演奏はもちろん若月の語感に敏感なフレーズ選びの賜物でもあるだろう。そう考えれば表題曲の“青いコインロッカー”、「FUAN TEI !!!!」の“不安定な気分さ”など、この言葉でなければここまでバチッと嵌まらないであろう単語もたくさん見つかるのだ。表題曲や今作には収録されていない名曲「夢見るふたりんごジュース」の歌謡曲じみたメロディラインからしても、パンク・バンドを名乗りつつ並々ならぬポップソング魂を持ち合わせたバンドであることは間違いない。
初ライヴからはまだ1年ちょっとだという彼ら、そのスピーディーな成長からしても今後から目が離せない。11月30日には太陽と虎で自主企画を控えているそうなので、ぜひ参戦してみては。(吉田 紗柚季)
浪漫革命『夏マデ』

夏マデ
自主制作, 2017年5月27日
BUY: HOLIDAYS RECORDS
結成3カ月で〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉、〈SUMMER SONIC〉に出演した京都出身5人組のバンドがいる、って話を聞いて自転車とばしてライヴハウスへ行ったら、まあ驚いた。ステージにミラーボール的な機材を置いて、短パン履いてるメンバー、スカジャンを着ているメンバー、ボーカルは真っ赤なYシャツにグラサン。「うぁ、チャラい大学生かよ。」なんて思って演奏を聴くと、ソウルも、サイケも、ヒップ・ホップも、歌謡曲も、なんなら演歌ですら詰めこんで「まあ! 自由で素敵!!」なんて思い、彼らの2曲入りの1stデモである『夏マデ』を買った。さすがに2曲なので彼らの“自由さ”を余すことなく詰め込まれてはいない、だがこの2曲でも彼らの本質は見えてくる。
レイドバックされたメロディとブルージーなギターを聴かせる「午後の珈琲」は“難しいことは抜きにして珈琲を飲もうよ”と語り掛け、洒落たギター・リフにJ-RAPがミックスされた「サマタイム」ではローファイながらも筒抜けの良いサウンドのなか“永遠にこんな夏休みが続けば”と歌う。つまりはここで歌われるのはモラトリアムであり、先ほどの“チャラい大学生感”と加味して考えると、浪漫革命の本質は映画だとリチャード・リンクレイターの『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』、別の音楽に例えるとスチャダラパーの「サマージャム’95」が持っている”無限の可能性の前で浮足立つ、何者でもない自分”である。辛い現実は必要ない。大好きな仲間、期待と可能性に満ちた永遠と思えるような時間。彼らの音楽にはそんな青春の根本が詰め込まれている。(マーガレット安井)
ナードマグネット『MISS YOU』

MISS YOU
THISTIME RECORDS, 2017年
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彼らの音楽は常に過剰すぎるリスペクトから生まれる。本作で言えば フレンズの三浦太郎と共作となった「MISS YOU」ではギター・フレーズや終盤でアンセムの如く叫ぶのは彼らが影響をうけたバンドであるウィーザーの「Perfect Situation」の引用であろうし、「DUMB SONG」はそんな三浦太郎が以前に結成し、ナードマグネットも敬愛していたバンドHOLIDAYS OF SEVENTEENの「Is This Love?」に対するアンサーソングとして作られた楽曲である。また「海辺のルーシー」はボーカル須田亮太の好きな恋愛映画「50回目のファースト・キス」から影響を受けていたりもする。つまり彼らの楽曲は影響を受けた音楽や映画がダイレクトに反映されている訳なのだ。
ちなみに須田はこのようなオマージュの元ネタをインタビューで割りとためらいなく言ったりする。それはこの曲を聴くみんなと自分達の体験を分かち合いたいという気持ちの表れであるだろうし、だからこそ彼らの音楽を聴くとまるでナードマグネットというバンドに触れられている気持ちになるのだ。去年、10年目にして出来た初のフル・アルバム『Crazy, Stupid, Love』をリリースし、梅田シャングリラでのワンマンを経て『MISS YOU』で更に加速をする彼ら。このあふれる愛と情熱が詰め込まれている本作を聴いても彼らに対して何も思わないのであれば私はこんな言葉を贈る。
あなたにロックが好きだと言わせない。(マーガレット安井)
黒岩あすか『晩安』

晩安
ギューンカセット, 2017年9月25日
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須原敬三が主宰する大阪の名レーベル・ギューンカセットからアルバム・デビューする若き女性シンガーソングライター。という状況は白波多カミンの登場時と共通しているが、苗字に真逆の“黒”を含んだ21歳大阪生まれの彼女の弾き語りは反対どころか異次元。ガット・ギターのやわらかい響きと、ウィスパーな囁き声による歌。全編に渡ってそのたった2色しかないはずなのに、描かれる景色が底なしのブラックホールのように深く広がっていくようだ。
感情を描写する歌詞は皆無。知覚・感覚を受けた映像を写実的に描くような言葉は極めて薄化粧だ。しかし終曲「白い朝」は8分を超える大作だが長めの前奏から、死者への餞のように思える歌詞を歌う声に少しだけ感情の揺れが滲む様には特に胸が掴まれる。また曲間に挟まれた電車や雨、シンクに落ちる水道の滴など自然音のトラックは、どれも誰かといれば気に留めることのない言わば孤独な音だ。楽曲を補足する役割ではなく並列に置かれた本作の構造は、彼女の歌もひとりぼっちであることを悟らせる。また歌も人から放たれた森羅万象の中の自然音の1つであるかのような響きを携え、ずぶずぶと引き込まれていく不思議な感覚がたまらない。
現実の有象無象が深刻になるにつれ、ひとりぼっちの時間が愛おしく美しくなる歌だ。21歳にしてとんでもない逸材が飛び出した。(峯 大貴)
中川敬『豊穣なる闇のバラッド』

豊穣なる闇のバラッド
ブレスト音楽出版, 2017年10月4日
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『街頭筋の着地しないブルース』(2011年)から本格化した中川敬名義のソロ作も本作で早くも4作目。ここ数年のソウル・フラワー・ユニオン(以下SFU)本体は阿部光一郎(Ba, 2014年加入)、Jah-Rah(Dr, 2017年加入)の加入もあり結成20年を超え何度目かの曲がり角を迎えながらビルドアップを図っている最中。中川はそんなSFUでのツアーの間をびっしり埋めるように常に弾き語りで全国行脚、もはやロックバンドのフロントマンによるサイドワークスではなく完全に両輪ありきのライフスタイルにシフトしている。
自称していた“大型新人フォーク歌手”としてはそろそろ「新人」が取れる中、全14曲収録された本作前半のオリジナル曲群を聴いて驚くのは、中川が目にしたある人々の感情や生き様をもはやルポタージュと言えるほどにこれまでになく具体的に描いている点だ。「あばよ青春の光」では“丘の上の議事堂で 法案が可決する”と国会デモの風景を織り込んでいたり、「虹の原っぱ」では“労働の対価で 子分に奢るのが楽しみ”と生活の香りがぶあっと立ち込める歌詞は中川が10代後半に出会った在日朝鮮人についての記述で、その他被差別部落やLGBTのある友人について捧げられている。後半にセルフ・カバーで収められたニューエスト・モデル時代の楽曲「報道機関が優しく君を包む」(1992年)が含んだアイロニーとも、冒頭から“あの戦争をやめさせろ”という歌詞を掲げた「極東戦線異状なし!?」」(2004年)で爆発させた怒りとも違う、民衆の姿を物語として丁寧に拾い上げる形で社会を描いている点が、新鮮かつ優しく響いている。
一方で後半では前述の「報道機関が優しく君を包む」を含むカバー曲が並ぶ。中でもオリジナル・ラヴ「接吻」では肩の力抜いてソフトにストレートなラヴソングを歌い上げる珍しい中川が堪能できる。
そんな歌や詞の変化に自然と耳を惹かれたが、今回ドラム・パーカッションやベース、また鍵盤も排されたアコースティックな竿もののみ、最小限の音で録音されていることも重要だ。フットワーク軽く音楽の要素・位相を変化させることで、聴く者は自然に歌の背景を読み解き、音楽を深く味わう行動へと駆り立てられる。同性の大先輩、中川五郎「トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース」と双璧を成す、今年のフォーク最重要盤だ。(峯 大貴)