【個人による3枚】ベストディスク2014
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【個人による3枚】ベストディスク2014
【個人による3枚】ベストディスク2014

【ki-ftレビュアーによる】関西音楽ベストディスク2014」に続き、「【個人による3枚】ベストディスク2014」を発表します。邦洋メジャーインディー問わず、2014年にリリースされた中から、印象に残ったおすすめのアルバム3枚を選んでもらいました。

音楽鎖国の中で出会った、ガラパゴスの島でDIYを築く「世界基準サウンド」ベスト3

【総評】10年代の幕開けに、トム・ヨークがメジャーレコード会社を「沈みかけの船」と例え、若手の実力派ミュージシャンらにそんな船には乗るんじゃないぞ、と警告をしていましたが、ここ日本にもじわじわとその兆候が明るみに出た2014年。誰もが知る大物アーティストらが「CDが売れない」と頭を抱えている様子をメディア上でよく目にしました。私自身は、震災以降のここ3年は意識的に国内の音楽を聴くようにしています。その結果、いわゆる「J-POPチャート」を賑やかすアーティストとは一線を画す、現代ポップカルチャーのコミュニティーは10年代の音楽界をとても楽しませてくれています。そこには仄暗い社会的地位の格差の強い風当たりを受けつつも、表現者たちの音楽はユニークに富み、鮮やかなのです。私が選んだ3枚の作品も、精巧で綿密に創り上げられたDIYサウンドであり、日本語詞でありながらも、万国の気鋭アーティストらと負けず劣らずの実力なのは聴けば納得のはずです。「血迷っても沈没船には乗らないで!」と、トムに変わりエールを贈ります。まぁ、そんな心配は杞憂に終わると思いますが。(白原 美佳

【1位】トリプルファイヤー『スキルアップ』

トリプルファイヤー『スキルアップ』
トリプルファイヤー
スキルアップ
アクティブの会, 2014年
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「行け!稲中卓球部」から飛び出したような4人の佇まいとは裏腹に、ギリギリまで音数を削ぎ落としたハードコアなリフをせっせとループする楽器隊が脇を固め、そこに外しすぎない程度に外した吉田の絶妙な間の取り方は、日本語でないと伝わらないコミカルなパンチ力がある。高速サウンドと脱力ヴォーカルの綿密な構成は秀逸すぎて、悲しいかな目まぐるしい世界情勢と、1日を生きるので精一杯の若者の姿が重なる。特に「カモン」の人間サンプラーはライヴを重ねる度に精度が増しているのか、CDよりキレがあるので必見。

【2位】YankaNoi『Neuma』

YankaNoi『Neuma』
YankaNoi
Neuma
P-VINE RECORDS, 2014年
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マルチ・プレイヤーのユミコが、ソロ・プロジェクト「meso meso」の活動休止の沈黙を破り、現在のトクマルシューゴバンドでおなじみのメンバーと念願のバンド体制で今作を製作。彼女は多くの音楽家と共に演奏を届けるために世界中を旅する、まさに現代のジプシー。そんな彼女が辿り着いた港がYankaNoiだ。浮世離れなオーガニック・ミュージックでありながら、アコーディオンを手に凛とした姿で中央で歌い、そこへ優しく寄り添うな演奏に、初めてライヴを観た時は思わず背筋を正した。

【3位】RED SNEAKERS『DIVE』

RED SNEAKERS『DIVE』
RED SNEAKERS
DIVE
至福千年音盤, 2014年
BUY: タワーレコード

地元の奈良に在住しながら、今年は2度目のアメリカツアーをやり遂げた世界を攻めるギターロックバンド。偶然にもKING BROTHERS、少年ナイフと関西のバンドが同時期にメンフィスのベニューを周っていたという。何の制約にも縛られない2人は世界へ簡単に飛ぶ。海外の観衆の熱を肌で受け止め、曲に還元させ、再びステージへ上がる。もっとも健全で、着実にロックの本質を手にしている。本作も最少単位で音数をガツンと鳴らした90年代USインディー直系で、誤魔化しの効かないストレートさが時代に逆行していて良い。

浮いていることは把握しているがだからこその極個人的ベスト

【総評】年間ベストとか馬鹿馬鹿しいと思っていた(!)が、このサイトにいらした方の中には新鮮なものもあるかもしれない、もしかしたら興味が沸くかもしれない、という微かな期待もありお目汚しを。折角の機会なので少しは面白味が欲しかったんですが、残念な結果に。

さて、面白味とここで言うのは節操のなさ。有り体に言えば、節操なく聴くのが楽しいと思うのです。なので、ジャンルがバラけたらそんな話もできるかと思っていたのですが、微妙な結果でした。次点はRoyal Blood(『S.T.』)だけれど、結局、インディ等々にあまり惹かれなかった年だったような。そんな気分に気付けただけでも、ベスト企画に乗った意味があるってもんですね。ここは開き直って、メロデスなりプログメタルなりをプッシュしておこう。となれば年明け早々、Djent(ジェント)シーンの大看板Peripheryの新譜が出ます。まずはそれを是非(特にFallujahが気になった方。Fallujahより圧倒的に聴きやすいです)。言うてますけども、今年純粋に聴いた回数が多かったのは以前ご紹介したNothing Moreだったり。色んな要素モリモリなのに凄まじくキャッチーで、憂鬱な通勤中に重宝しました。こちらもこれからのバンドなので是非に。(増澤 祥子

【1位】Insomnium『Shadows Of The Dying Sun』

Insomnium『Shadows Of The Dying Sun』
Insomnium
Shadows of The Dying Sun
Century Media, 2014年
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フィンランドのメロディック・デス・メタル・バンドの6th。“浸れるメロデス”の王者が自己記録を更新してきた。そもそも北欧メロデスには「哀愁の」とか「慟哭の」とかいう形容詞がつきがちだが、彼らの叙情ダダ漏れっぷりは群を抜いている。郷愁を誘うとにかく美しいメロディに悶絶。何かを目立たさせるのではなく、ヴォーカルも楽器も全てを丁寧に編み込んで、壮大な絵巻物を織り上げたよう。アグレッションもプログレッシヴな展開もあるとはいえ、基本的にアルバム通して同じテイスト。にもかかわらず中弛みさせない捨て曲の無さ。先輩アモルフィスの土着的な雰囲気を濃厚に保ちつつも、どこかシュッとしているのも彼らの特徴。ドワーフの中でもトーリン、な(中つ国帰りですみません)。それを上手く反映させたジャケットも秀逸。

【2位】Fallujah『The Flesh Prevails』

Fallujah『The Flesh Prevails』
Fallujah
The Flesh Prevails
Unique Leader, 2014年
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サンフランシスコの“アトモスフェリック・デス・メタル・バンド”の2nd。ぐうの音も出ないプログレ・デスに進化した。神秘的なサウンドスケープを前面に押し出しながら、テクニカルかつ獰猛に攻める、その振り幅の大きさとバランス感が特筆すべき点。グイグイくる変則的なギターフレーズや複雑なリズムパターンが印象的だけれども、空間の美しさはあくまで崩さない。曲展開の中で静/動に振れるのは当然として、緩く美しいシンセのメロディやクリーントーンの泣きの(もう少しでクサメロな)ギターの背後で、同時にドラムが爆走し続けていたり、更に容赦ないグロウルが乗っていたりもする。それが違和感どころか、合わせ技で強引に気分を高揚させるという攻撃力の高さ。これからも目が離せない。

【3位】Slipknot『.5: The Grey Chapter』

Slipknot『.5: The Grey Chapter』
Slipknot
.5: The Grey Chapter
ワーナーミュージック・ジャパン, 2014年
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今作の出来は賞賛よりもほぼ感謝に近い。楽曲製作の肝だったポール・グレイ(B)、ジョーイ・ジョーディソン(Dr)を失い、バンドの継続すら危ぶまれていた中で生み出された快作。ギタリスト(ジム・ルート)が主に作曲したからか華のあるギターリフが冴え、コリィ・テイラー(Vo)の曲ごとに歌唱法を器用に変える巧さにも脱帽。各楽器の音が鮮明な印象だが、特に目立つのはバンドの特徴でもあるパーカッションとサンプラー。異様に扇情的だ。スリップノットの強みは結局、負の感情(今回は痛みや悲哀が主)を撒き散らしつつ、それを身体性に訴えるキャッチーさで大衆的に仕上げるところだと思う。そういう意味で間違いなく成功しているアルバム。それにしても毎度吹き荒れる賛否両論。つくづく、多くの人に愛されている。

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