【個人による3枚】ベストディスク2014

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2010年代を生きる「俺たちの歌」がようやく出てきた気がする。

【総評】2010年代も中盤に差し掛かる中、個人的には上京・就職をしたということもあるが、今年は音楽の聴き方が変わった年だったように思います。仕事によりライブに行く回数は減ったものの、なぜか交友範囲は広がった。輪の拡散という面では東京のフットワークの軽さと、誰でもウェルカムという温かさを感じております。一方でやはり忙しいので意識を持って情報収集やアルバムを聴くようにもなりました。音楽シーンとしては筆者含め今の20代にとって「俺たちの歌」と思わせてくれる力をもった、リアルタイムに感情移入出来る作品がようやく生まれ始めたような気がします。誰もが太鼓判を押す大名盤と呼べるものは少なかったが、粒ぞろいでどんどん楽しくなっていった感触があります。

その中でも3作品に絞れというのは酷な依頼だが、それならば好き/嫌い、良い/悪いだけではない何かを感じ取れるものでなければいけない。ここでの3作品はそんなエンターテイメントとして我々に“感情移入”をさせてくれる作品を選びました。そんな同世代の素敵な音楽たちに報いることが出来る今しかできない活動を来年はしたいと考えております。(峯 大貴

Yogee New Waves『PARAISO』

Yogee New Waves『PARAISO』

Yogee New Waves
PARAISO
bayon production / hmc, 2014年
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日々不安を抱えながらも夜に現る“楽園”に束の間の快楽を求める、新宿に生きる若者。煌びやかな東京の街をその裏に潜むモヤモヤも含めて描き出す、「シティポップ」を再定義した1stにして金字塔。エモーショナルとロマンティックのブレンド比率や演奏力など、これからまだまだ洗練されていく部分や、時代を引き受ける覚悟さえ見えるギラついた目を含めて、次の世界を見せてくれそうなところにも期待している

吉田ヨウヘイgroup『Smart Citizen』

吉田ヨウヘイgroup『Smart Citizen』

吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen
P-VINE RECORDS, 2014年
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編成も8人に固まり、今年は東京インディーシーンの急先鋒として存在感を示した2nd。クラシック、ミニマル音楽、プログレ、ジャズ、全ての音楽をひっくるめてジャパニーズ・ロックに落とし込む知的でスキルフルな部分、一方で完璧な演奏や理想の様式美を情熱的に追い求める肉体的な部分。両方兼ね備えて音楽を作ることは複雑でストイックな作業であり意外と出来ているバンドは少ない。これをさらりとやってのける彼らもまた複雑でストイックな人間に違いない。総合格闘技的に何でも出来ちゃう彼らの鳴らすロックには“芯のあるたくましさ”があり、絶対的な指揮者である吉田ヨウヘイ(Vo, G, Sax)の頭の中にある音の設計図をどんどん読み解きたくなるのだ。先日ファゴットの内藤彩が脱退。まだまだ吉田の理想を追い求める旅は続いていく。

tofubeats『First Album』

tofubeats: First Album

tofubeats
First Album (初回完全限定生産盤)
ワーナーミュージック・ジャパン, 2014年
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メジャー・デビューを「就職活動の甲斐があって内定が取れた」と例えた彼。就職という道を選ばなかった彼はその後ろめたさとこれまで格闘してきたはずだ。しかし今間違いなくJ-POPシーンの中心にいる関学出身の彼は、同世代の就職を選んだ20代の私たちにとって今唯一の希望となっている。数々のアーティストとのコラボはもちろん、最後に収められた「20140803」の“てゆか毎日どうでもいいことばっかり気にしていれるのが幸せ”というリリックにやられた。モラトリアム期間を抜け出した彼の、生きるために全力で音楽と遊んでいくという覚悟が見える。

混沌とした時代だからこその原点回帰-ロックンロール・ルネサンス期を生き抜いた3組

【総評】今、どうしてロックンロール? 2014年現在の音楽シーンは玉石混交。ロックンロールは、現在の主流といえる音楽ではないけれども、わかりやすくて耳当たりの良い、ノリの良い音楽。混沌としている時代だからこそ、わかりやすいものを求められていたり、やり場のない思いを発散させたり、楽しさに昇華させたりするロックンロールは求められているのではないだろうか。個人的には2000年代、ロックンロール・ルネサンスと言われていた時代が音楽への入り口だったこともあり、2014年の3枚は、原点回帰をテーマに選んでみた。(杢谷 栄里

【1位】The Vines『Wicked Nature』

The Vines『Wicked Nature』

The Vines
Wicked Nature
Wicked Nature Music, 2014年
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2001年のデビュー以来、2〜3年のスパンで作品をリリースしているオーストラリア・シドニーのガレージ・バンド。中心人物のクレイグの体調が心配だったが、2011年にリリースがあり安心した。ところが、クレイグ(Vo, G)以外のメンバーが脱退。本作は新メンバーが加入して、3人組体制となった。それでも、疾走感あふれるギター、美しいメロディライン、重たいサウンド、クレイグのシャウトは健在。デビュー時からなにも変わらないガレージ・ロックを2枚組というボリュームで鳴らしている。感情をむき出しにするシャウトや疾走感の中にもしっとりと歌う曲もある。13年間、何があっても音的には何も変えずにコンスタントに活動し続ける、クレイグの心意気に勇気をもらった。

【2位】Mando Diao『Aelita』

Mando Diao『Aelita』

Mando Diao
Aelita
ユニバーサル・ミュージック, 2014年
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いったい何があったか? という変貌っぷりを見せている彼ら。ジャケットはもちろん、『The Band』(2002年)に代表されるガレージ・サウンドはいずこへ……? というくらいの大幅な変化だ。ギターは息潜め、サウンドの軸となっているのは打ち込みシンセ。抑え気味のボーカルは部分的に変声をかけ、70〜80年代のディスコ・サウンドを彷彿とさせるようなピコピコな電子音と、どこか切ないシンセは近未来的な金属音。ああ、これは同郷のABBAのそれと似て、より重たくした感じである。時折入るコーラスは黒人女性だからか、ものすごく声が太い。前々作収録の「ダンス・ウィズ・サムバディ」(2009年)の合いの手シンセから、ガレージ・サウンドに潜む70〜80年代のディスコ・サウンドが聞き取れていたが、それをアップデートしてきたのだ。リスナーからの評価に関係なく、彼らにとって必要な変化は厭わないのだ。

【3位】Karen O『Crush Songs』

Karen O『Crush Songs』

Karen O
Crush Songs
Cult Records, 2014年
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ヤー・ヤー・ヤーズのボーカル、カレン・Oのソロ作。スパイク・ジョーンズ監督作品映画『her/世界でひとつの彼女』(2013年公開。日本は2014年)の主題歌「ザ・ムーン・ソング」を歌っていることも記憶に新しい。本作で見せる、全編ギターの弾き語りでやさしく、時に力強く静かに歌い上げる様は、バンドで見せる叫ぶような激しいヴォーカルとは異なる(ただ、『フィーヴァー・トゥ・テル』(2003年)の「MAPS」や、『It’s Blitz』(2008年)にはアコースティック・ヴァージョンが収録されている)。乾いたエフェクトをかけることで、2014年のデジタル作品というよりも、録音状態が悪かった時代(1950〜60年代)のアナログ・レコードを聞いているかのようだ。“ここではないどこか”を醸し出すことで、今にも消えていなくなってしまいそうな儚さと、清算した過去のものということを表現している。ジャケットや歌詞に見られる「ラヴ」。外装も音も歌も歌詞もすべて「ラヴ」を表現するためのもの。破天荒な印象が強いカレン・O。しかし、彼女の本質は、こういう「ラヴ」を歌い上げることなのだ。「ラヴ」の苦しさにもがき、戦おうとするがために破滅的になる様を表現するヤー・ヤー・ヤーズ、「ラヴ」の苦しさに押しつぶされそうな弱さを表現したソロ作。そう、両者の本質は同じなのだ。ジュリアン・カサブランカス(ザ・ストロークス)主宰、Cult Recordsからのリリース。00年代前半にデビューしたミュージシャンが、今も活動しているということを象徴しているかようだ。

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関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
関西を拠点とした音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」は音楽ライター講座in京都を通して生まれました。音楽を伝えるためのメディアとして、アルバムレビューを中心に更新。複数人によるクロスレビュー、コラムなども書いています。
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