【個人による3枚】ベストディスク2014

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10年代東京インディー、人の耳に心地よく響く3枚

洋楽邦楽の垣根を越えて受け継がれていくであろう作品を選びました。年功序列で順位をつけましたが、私のなかでは同率の3枚です。ミュージシャン本人のコメント(敬称略で失礼します)、私の感想の順で記します。(森 豊和

三輪二郎『Ⅲ』

三輪二郎: Ⅲ

三輪二郎

マイベスト!レコード, 2014年
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「このアルバムは現代の日本で生きる二郎青年のために、個性、世代もバラバラな者達が集まり強烈な化学反応がおきた、最近では最もブルージーなうたのロックアルバムだ。」(By 三輪二郎)

曽我部恵一、七尾旅人、前野健太らと並び評価されるべき人だと思います。本作での大森靖子らの参加も三輪二郎という漢(おとこ)の魅力を際立たせています。ライヴを観に行った際、彼が一音ギターを鳴らした瞬間、場が静まるのを何度も目撃しました。決して彼目当てではない、それまで雑談していたお客さんたちが、それだけでもう、説明なんていらないでしょう?

先日の『りんりんふぇす』でも子どものお喋りを聞いて「お前(二郎)もまだまだだなって(あの子は)言ってるんですよ」とか、「選挙に行って、せめて身内に迷惑かけないで暮らしていきたい」など、内省的な発言を繰り返していたのが印象に残っています。

吉田ヨウヘイgroup『Smart Citizen』

吉田ヨウヘイgroup『Smart Citizen』

吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen
P-VINE RECORDS, 2014年
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「このバンドでは、歌もののロック、ギターが中心になって作られてきたポップス(仮にギターが入ってなかったとしても、そういう質感のもの)にこだわって音楽を作ろうと思っています。歌があるとか、分かりやすいメロディーがあるとか、サビがあるとか、ある程度の短さであるとか、そういった普通の形式は守って、その中で最大限自由を獲得することを目指しています。音楽をインストにするとか、プログレッシヴで複雑にするという方向もあると思うんですが、音楽をそのように変化させて作ることは進化ではなく全く別の作業だと思っています。
『Smart Citizen』も、これから作る作品でも、ある程度普通の形式のものにこだわって、その中で光るような素材をいろいろな音楽から探すというつもりで作ると思います。まっさらなところから新しいものを目指すというより、更新していくことを目指すといったほうが自分の感覚には近いです。そしてそれを聴いた人が、新しいものだと感じてくれたら嬉しいなと思っています。」(By 吉田ヨウヘイ)

吉田さんは日本や欧米のロックだけでなく、レア・グルーヴ的な観点からもアイデアを探し、しかし決して小難しい高尚なものにはしない、親しみやすいポップスを志向しています。ライヴ演奏もかっこつけず、ときにみっともないくらい熱い、真剣勝負。そこがいい! とギターの西田修太さんに伝えたら、「長い付き合いだけど、吉田君はずっとそういう奴です」と笑って語ってくれました。

ROTH BART BARON『ロットバルトバロンの氷河期』

ROTH BART BARON: ロットバルトバロンの氷河期

ROTH BART BARON
ロットバルトバロンの氷河期 The Ice Age
Felicity, 2014年
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「僕らの住んでいる東京ではあまりにも“西洋化”と“安っぽい形だけの日本らしさ”に囲まれていて、“自分が生まれた場所、国の音楽”というものをとても見失いやすくなっていると感じることがあります。
過去の日本の作曲家たちは、積極的に海外からの音楽を日本のものとブレンドして素晴らしいものに作り変えようというというスピリットを持っていました。僕らはそのワクワクするようなスピリットが好きでロック・ミュージック、古いフォーク・ソングはもちろんのこと、その魂を持った滝廉太郎や伊福部昭に影響を受けています。
僕たちがこの間リリースしたアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』は日本語で歌う僕らの音楽をアメリカ、フィラデルフィアの街で日本語を話さないアメリカ人のエンジニア達と一緒に作り上げました。
そういった違う人種同士の交差点にはいつだってハプニングが起きますし、いいアイデアをもたらしてくれる。その交差点、接触が僕らをとても楽しくさせるのです。作品を作り上げる体験はとても日常では得がたいものでしたし、アルバムも素晴らしいものになりました。テクノロジーや手法、楽器は西洋のものを使っていますが、おそらく僕たちはまだ誰も見たことのない、深い奥底にある日本の景色を目指しているのかもしれません。
バンドはいつか世界中を演奏して周り、各土地の土着的な音楽と出会いたいと思います。ロック・ミュージックを通して世界の人々が生きてきた地図のようなものを覗いてみたいのです。」(By 三船雅也)

「春と灰」という曲の歌詞で《この間おきた戦争で》という下りがあります。そこから私は村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』を思い出しました。作中で主人公の無意識を代弁する存在である羊男はベトナム戦争から逃れるために密室に潜んでいます。戦争は終わったと聞いても「どうせまた始まる。知らないだけでずっと続いているんだ。人間は心底では殺し合うのが好きなんだ。そういうのが嫌だったら別の世界に逃げるしかないんだよ」という内容を語り頑なです。三船さんとお話していて、似たフィーリングを感じました。彼の感性は村上春樹と同じでちっぽけな島国に縛られていないし、同時に我々のルーツも深く見つめている。だからリスナーに対しても誠実な作品になる。(『ダンス・ダンス・ダンス(上巻)』村上春樹著、講談社文庫、P171より要約)

【総評】以上、それぞれの作品にこめた思いをメンバー本人に語っていただきました。私が趣旨を説明し、色々な質問を投げかけ、その結果研ぎ澄まされた文章です。三輪さんは小気味いいほど荒削りでパワフルだし、吉田さんはとても丁寧で洗練され、しかし芯は熱い。三船さんは初々しいようで老成しています。なんだ。彼らが紡ぐ音楽と同じじゃないか! と嬉しくなりました。
音楽の本質は何か、遡っていけば胸の鼓動だったり、吐く息であったり、喜怒哀楽の叫びであったり、我々が生きること、この地上での営みそのものだと思います。
人の手触り、ぬくもりが感じられる作品、別に打ち込みであってもいいのです。その音が我々の生理の感覚、身体のリズムを表現しようとしていたら。あるいは自然、我々が立つ大地の営みを反映するようなものであれば、それが心地よいのです。私が長々と個人的感想を述べる必要なんか、本当はないのです。

雑穀がいっぱい入った全粒粉のデカいパンを食べてそうなベスト3

【総評】いやー、今年もベーカリーを回りまくってました。マルシェやお取り寄せを含めて、300店以上のパンを頂きました。気がつけば2014年はパンシェルジュ検定2級に合格し、10回ほどパンのイベントを京都市内で行っていましたし……。ああ、これはベストディスクの総評ですね……! 申し遅れました、ki-ftの運営責任者をやらせて頂いている山田です。最近は洋楽を聴く人が少なくなっていると耳にします。私自身も全くと言っていい程、外タレのライヴに行かなくなってしまい、特にメインストリームの洋楽は全然聴かなくなってしまいました。自戒の意味も込めて、私のベストディスクは洋楽縛りです(亀甲メロンパンの皮焼いちゃいました縛りで)。邦楽ではLOSTAGE『Guitar』my letter『my letter』ELEKIBASS『Home Party Garden Party』、THE FULL TEENZ『魔法は溶けた』、Climb The Mind『渋谷節(DVD)』、DEEPSLAUTER『ELEVATION DEPTH』、Discharming manとdOPPOのスプリットCD『dream violence』などをよく聴きました(ついでに言うと『アオハライド』のEDになったフジファブリック「ブルー」はいい曲だなあとアニメを見ながら思いました。三十路越えですが、むさ苦しく泣きます……!)。ベストを選んで思ったのは、フリー・フォークやオルタナ・カントリー、フォーク・ロックはやっぱり好きだなーと。来年は個人的にロマ・ミュージックの研究を音楽ライター講座でやりたいですね。パンと音楽のイベントも予定しています。ki-ftは始動して半年、マイペースに投稿していますが、たくさんの反応を頂き、楽しい一年目になりました。来年も当サイトをよろしくお願いします!(山田 慎

【1位】Bear’s Den『Islands』

Bear's Den『Islands』

Bear’s Den
Islands
Communion Records, 2014年
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待たせすぎだろ! 一年以上待ったわ! 2013年3月2日にネットサーフィンしていて見つけたのがBear’s Denでした。カントリー・フォーク・ロック・バンドという括りで語られると思うのですが、いろいろ調べてみると、アメリカではなくイギリスのアーティストだったことに驚いたんですね。UKのインディ・ロック・フェス〈Green Man Fes〉などにも出演していて、向こうでの注目度は高いようです。ブルックリンでコーヒーロースターやってそうな、ヒゲモジャのおじさんたちが街中で優しすぎる唄「Agape(アルバム収録)」を奏でている動画が最高すぎます。京都公演は全力でサポートするので、プロモーターの方、よろしくお願いします。

【2位】Sam Amidon『LILY-O』

Sam Amidon『LILY-O』

Sam Amidon
LILY-O
Nonesuch, 2014年
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2013年に初来日。トクマルシューゴ主催〈TONOFON FESTIVAL〉、そして京都ライヴハウス磔磔での演奏。『I See The Sign』は2010年の愛聴盤だったので、来日公演はとても待ち遠しかったことを覚えています。磔磔ではドラムのクリスと共に1時間ほどライヴを披露。音源よりも表現力豊かで茶目っ気があったことは今でも記憶に残っています。その後の打ち上げでは隣同士となり、テンション上がったなあ……。本作はビル・フリゼール、Shahzad Ismailyが参加し、ビョークなどを手がけたヴァルゲイル・シグルズソンのプロデュース。それだけでも聴く価値がありますが、Sam Amidon節が相変わらず全開で、10年代における重要なシンガー・ソングライターという事実を、このアルバムは物語っています。

【3位】Saintseneca『Dark Arc』

ザ・ナショナルが生まれた地、オハイオ発のフォーク・ロック・グループ。Art of FightingやFreelance Whalesなどの男女混声バンドが好きな方はマストバイ。Bear’s Den同様に、街の至るところでライヴを行うノマド的ロック・バンド筆頭。ブライト・アイズっぽい声質にシューゲイザーっぽさもあって、M83やMEWなどを聴くリスナーまでイケるのではなかろうか? と思うのです。M1「Blood Bath」で大合唱したい(来日公演キボンヌ)。

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関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
関西を拠点とした音楽メディア/レビューサイト「ki-ft(キフト)」は音楽ライター講座in京都を通して生まれました。音楽を伝えるためのメディアとして、アルバムレビューを中心に更新。複数人によるクロスレビュー、コラムなども書いています。
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