【レビュー】my letter『my letter』
- By: 白原 美佳
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: my letter


my letter
& records, 2014年
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京都の男女4人組、my letterのファースト・アルバムを聴きながら夜の道を歩いた。このレコードはなぜこんなに心地が良かったのか、それは私の思考を日常の情報の回線から、ぷっつりと遮断したからだ。
歩調に呼応するようにゆったりリズムを刻むM1「アメリカ」から始まり、M2「夜は遠くから」でリズムが転調すると、目の前の景色はモノクロになり、一人取り残された気分になった。背後からリヴァーブのかかった声が聴こえ、2本のギターのシングルノートも重なり、徐々に色彩を取り戻した。かと思えば、M3「ルーザー!」ではドラムとベースがリードして駆け出し、うねるギター・リフが今まで押し殺していた感情を吐き出す。そうやって今日と明日の境目を行き来して、M9「車窓」の寂しげなキーボードと、メランコリックなコーラスが重なるアウトロが終わる頃に朝を迎えた。ようやくここが夢の世界だということに気付く。寂しさはあるが、孤独を感じることはない。目が覚めても、私の耳にはあの心地良い音像が残っていた。そう、このレコードをベッドルームで再生して眼を閉じるだけでいい、音楽が外へ連れ出してくれる。チャーリー・カウフマンやミシェル・ゴンドリーだって、そうして幼い頃の夢物語を現実世界へ具現化してきた。
夢物語は誰にも壊す事は出来ない。現実から遮断した脳内に真実が隠れている事もある。夢から覚めた人々は「音楽媒体、無論CDは終わりだ」と言う。1曲単位での楽曲DLや、シングル曲を羅列させるリリースが多発する現代、アルバムのコンセプトが希薄しているが、『my letter』はアルバム単位で聴く意味が大いにある。この9曲を聴き終えると、「本当に素晴らしい音楽とは、一生夢から覚めない」事を良く知る人間の作品である事が分かる。これには、アバンギャルドなコンセプトも、センセーショナルなリリックも、握手券も封入されていない。けれど、一人ひとりの夢物語の切れ端をかき集めて、1つひとつの音と言葉を、4人が紡ぐ透明な糸で器用に編み込み、見えない暖かな衣を私に纏わせてくれる。今作にはそんな情念が具現化されていて、聴く程に惹き込まれる。この作品が、リスナーの「本当の音の道標」となる事を願わずにはいられない。
『my letter』はあなたの記憶、あなたの記憶は『my letter』の物語。「my letter」の物語は続く、私達の物語が続くかぎり。