【レビュー】現場から生まれたフォークオリエンテッドな“うた” | 中川敬『にじむ残響、バザールの夢』

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中川敬『にじむ残響、バザールの夢』

中川敬
にじむ残響、バザールの夢
ブレスト音楽出版, 2015年
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寄る年波に抗いはせずとも、若い世代に負けてられるかと、信念曲げずいつまでも番長気質な中川敬の姿がここにある。ソウル・フラワー・ユニオンのフロントマンによる3年ぶりのソロアルバム。前作『銀河のほとり、路上の花』からの彼の動きは前身ニューエスト・モデルからの全キャリアを含めても最も精力的といえるだろう。本体のユニオンは昨年アルバム『アンダーグラウンド・レイルロード』をリリースし、3か月に1回は東名阪宮ツアーを欠かさない。またソウル・フラワー・モノノケ・サミットでも年始と盆時期のツアーは恒例で長らくデフォルトサイクルとなっていた。しかし2012年以降、その合間を縫って盟友リクオとの「うたのありかツアー」、そしてさらにその合間を縫ってソロ弾き語りツアーを行うという一年中全国行脚の見事な“旅芸人”っぷりを発揮しているのである。

そんな中での本作であるが、前2作がソロでやる音楽として“アコースティックサウンド”を構築していく作りだったのに対し、こちらは1人で全国の現場を回る中で自然と“うた” が生まれ、また鍛え上げられていったものをそのまま記録していくような極めて無理のないシンプルな作品に仕上がった。5曲の新曲と8曲のカバー(セルフカバー含む)、2曲のインストの全15曲、新曲とカバーがA面/B面のように順に並べられ、両サイドから心を満たしてくる。

新曲では戦災孤児を歌った「地下道の底で夢を見てる」、後藤健二さんと湯川遥菜さんの報道から一気に書き上げた「異国に散ったあいつ」といった辛辣なテーマに対しても、プロテスト/アングラ・フォークにはせずレクイエム・フォークとして美しいメロディで描かれる。デモにも積極的に参加している彼だが扇動者ではなくあくまで頭数となることの大切さを自負しているが、ここでも怒りを浄化し、大衆に対して説くのではなく、語り継ぐ、また刻み込むという“フォーク歌手”としての役割、また彼のスタンスが表れている取り上げ方である。

カバー曲もタイマーズ「デイ・ドリーム・ビリーバー」やカンザスシティバンド「新しい街」などこれまで数多くのミュージシャンが取り上げてきた楽曲も収められている。全員が大合唱できるスタンダードな曲を自分の歌に出来るということは、弾き語りで鍛えられた賜物であるし、そもそもカバー曲パートの冒頭に収録されている「アリラン」は95年阪神淡路大震災での出前ライヴで観客に何度も求められ、今日まで中川が歌い続けてきたスタンダードナンバーだ。今改めて収録されていることにも彼のカバーに対する一貫性が感じられる。

一方で挑戦といえばシーナ&ザ・ロケッツ「ユー・メイ・ドリーム」と仲井戸麗市「月夜のハイウェイドライブ」のカバーだろう。リスペクトフルに先人たちを演じており、前者では彼からまさか“コケティッシュさ”を感じたことに驚き、後者はこれまで聴いたことのない高音域で、歌手としての引き出しの多さを見せている。

すっかり“大型新人フォーク歌手”として板につき、円熟味さえ増してきた。現場主義を一貫として掲げる中川が行きつくべくして到達したフォークオリエンテッドな作品である。

Author Profile

峯 大貴音楽ライター兼社会人、京都講座東京特派員
1991年大阪生まれ。2014年3月に京都講座 で制作した「現代関西音楽帖」を編集長として発刊し、同志社大卒業、就職のため上京。 現在もライターとしてQuick Japan,CDジャーナル,BELONGなどに寄稿。落語とフォークをこよなく愛する生粋の大阪人。HITORI JAMBOREE~Mine Daiki Official Tumblr~