【レビュー】中村佳穂『口うつしロマンス』

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中村佳穂『口うつしロマンス』

中村佳穂
『口うつしロマンス』
studioSIMPO, 2014年
BUY: studioSIMPO

ある日、ツイッターにてくるりの岸田繁が京都のSTUDIO SIMPOに行った事を呟いていた。その際、そこで録音されたあるアーティストに対して“良かった”と呟いており、気になった僕は試しにその音源を聴いてみた。ピアノの音がどんどん加速をつけて走り出し、そのサウンドが最高速になった瞬間〈重なり合う手をとって 僕らは命を確かめ合うのさ〉と力強い歌声が僕の心を奪っていった。しばらく呆気にとられた後、CDを買ったのは言うまでもない。それが中村佳穂との出会いであった。

今年5月に発売された7曲入りミニアルバム『口うつしロマンス』。全体を聴いて試聴だけではわからなかった、彼女の変幻自在な歌声にさらに驚嘆した。僕の心を奪った1曲目「FOME」に続く形で演奏される「夜のダンス」では、ジャニス・ジョップリンを思い起こさせるような、情熱的で野性味あふれる歌声を披露し、M4「聴いて見る」やM6「シャロン」では打って変わり、まるでエッタ・ジェームスが耳元で歌っているかのような、とてもしなやかで艶のある歌声を聴かせてくれる。この両者を兼ね備えたアーティストが京都の大学生なのだから、さらに驚きである。

そして、この作品では彼女の魅力的な歌声を最大限に引き立たせる様、パーカッションにある工夫がなされている。それが“段ボール”を楽器として使用している事である。この段ボールがカホンや他の打楽器に比べると、響きが柔らかく、彼女の魅力的な声を壊すことなく引きたたせており、M3「センチメタルナイト」では段ボール叩くのではなく、こする表現を使う事で、誰もいない町中で北風が吹き付けるような音を生み出し、楽曲に面白みを加えている。

素晴らしい歌声とその存在感を引き立たせる演奏。その双方が噛み合い、魅力が濃縮されて出来た『口うつしロマンス』。これからの京都、いや全国の音楽シーンを引っ張ってくれるのではないかと予感させるような作品である。

Author Profile

安井 豊喜
大阪出身の20代と30代の境目を漂うPOPミュージックバカ一代。基本は邦楽(ロック、ポップス、アイドル等)が中心。ちなみにTwitterのアカウント名が「ゴリさん」となっているのは高校時代あだ名である説が有力。