【レビュー】none but air [at the vanishing point]『S.T.』

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none but air [at the vanishing point]『S.T.』

none but air [at the vanishing point]
S.T.
Further Platonic Records, 2015年
BUY: タワーレコード

どうでもいい話だが、私は高校時代から森博嗣の小説を愛読していて、講演会の為だけに名古屋大学の学園祭に行くほど傾倒していた。にもかかわらず、バンド名が『スカイ・クロラ』シリーズの『ナ・バ・テア』(の英語表記)に由来することに、長い間気付かなかった。自己嫌悪が止まらない私のことはさておき。京都の激情ハードコア・バンドnone but air [at the vanishing point]のセルフ・タイトルEPからは、その名の由来と同じ空気感を感じた。

カナダのポスト・ハードコア・バンドMilanku、同じくダーク・アンビエントTHISQUIETARMYの来日公演のうち関西公演のオーガナイズをするなど、積極的に活動しつつも、全国流通盤の音源としては初となる本作。叫びとスポークン、変則的で時に畳みかけるドラム、随所で躍動するベースと、涙腺に訴えるフレーズを重ねる2本のギター。その前のめりなハードコアに、プログラミングを用いたポスト・ロック等の要素を違和感なく融合し美しい景色を描いている。2分台の「憧憬ⅰ」「憧憬ⅱ」ですら、目まぐるしく展開し短編とは思わせない。以前の3曲入りEPに原型が収録されていた「閉鎖」も、より分厚く肉体的に仕上がっている。叙情的かつ壮大な音楽性はやはりenvyを思い出させるけれど、明らかに違う点は、その蒼さと透明感だ。

まさにそれが『スカイ・クロラ』シリーズと同じ空気感。大人にならない性質を持つ戦闘機パイロット達が淡々と語る世界。大人とこども、生と死、自己と他者。様々な主題と内包する不安定さをすり抜けて、世界はただ在る。それを見通す蒼い純粋さが、楽曲にも強烈に感じられるのだ。淀みの中に生きていることへの諦念と、諦めの悪さに暴発するエネルギィ。内から溢れる生命力と、肌に寄り添う死の気配。そんな相反する要素や不安定さが旋律と歌詞から切なく伝わることが、楽曲の美しさを頑強に補強している。矛盾といえば歌詞カードからして、訴えかける内容なのに大半が空に潰されていて、伝えたいのか伝えたくないのかどっちだ、と思う。それとも、伝わりづらさのメタファなのか。

現在の編成に固定された時点から、none but airの後ろに[at the vanishing point]と続けている、とnisika(Vo, Prog)は語ってくれた。その響きからは遥かな遠景を想像せずにはいられない。どこまで飛んでくれるのだろう。そう、件のシリーズでこども達が空へ発つとき、幾度か出てくる科白を思い出した。「最適の健闘を。」

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増澤 祥子
奈良市出身、在住の会社員。音楽はラウドからポストロック、インディまで雑食です。地元のお勧めは二月堂。人が少なくなった黄昏時を狙って行くと、恐ろしいほど現実逃避できますよ。