【レビュー】大阪文化の伝統を現代にリバイスさせるミクスチャー・ヒップホップ | ローホー『Garage Pops』

ローホー『Garege Pops』
Disc Review
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ローホー『Garage Pops』
ローホー
Garage Pops
P-VINE RECORDS, 2016年
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昨年2015年末の本サイト、ベストアルバム企画でも私が筆頭としてあげていた大阪のラッパー、ローホーの『Garage Pops』がついに全国発売となる。これまでは心斎橋アメリカ村を中心に本人とゆかりのある店数軒、ライヴ会場でしか入手できなかったが、これでどこでも入手が可能だ。とはいっても単なる再発ではなく、Skitトラック含め4曲の追加、既存曲もいくつか録り直しを行い、ジャケットも異なる“白盤”として再構築、全国に打って出る気合いを入れなおしている(これまでの自主制作盤は“黒盤”)。

ここで改めて彼のプロフィールをまとめておこう。1988年生の現在27歳。ギタリスト故・石田長生と同じ大阪八尾の生まれ。ホームレスの期間が2回あるというリアルストリート経験を持ち、人との付き合いと音楽への熱意でもってこれまで生きてきた。パンクロック、ブルース、レゲエ、ヒップホップ、落語とボーダレスに嗜好する中、当初はバンドのボーカルやDJを従えてのライヴを行っていた。しかしビート/言葉/メロディ全ての要素をブーストする独自の音楽を模索し、アコギをしばきながらライムするという、スラム奏法弾き語りスタイルにたどり着いた。

本作はヒップホップのフォーマットでありながら、ブルースのギタープレイやレゲエのラバダブ(複数のDJやシンガーでマイクを取り合って自由に語るパフォーマンス手法)など、何でもごった煮にされた全11曲。「NeetNeet」「Get My Money」でのラップはまるで落語「蝦蟇の油」や、講談「天保水滸伝」かのように威勢のいい啖呵を切って人間の業を肯定する。木村充揮、清水興、石田長生といった大阪レジェンドミュージシャンとも交流があり、「浮き草」や「ミンナノウタ」で顕著に吹く上方の風は上田正樹と有山じゅんじ『ぼちぼちいこか』を彷彿とし、久々に関西ソウルの系譜を見事に引き継いでいる。黒盤から歌詞・アレンジ共に大きく変貌を遂げたトーキング・ブルース・ラップ「Genpatsu Boogie」の切れ味するどい皮肉は、友部正人のデビュー曲「大阪へやって来た」に匹敵する初期衝動があり、まるで当時の70年安保闘争と現在との類似点を指摘するよう。2010年代の若者の生活を描いたウェッサイな「土砂降りの休日」は美しいメロディがグルーヴを形成しており、日本人の鳴らすソウルミュージックの雛形になりうる大名曲だ。

現在の京都シーンの多様性と充実に対して、キャッチーなギターロックバンドが全盛を極める大阪のライヴシーンの中、酒を飲みながら影響力と交友を広げていくローホーのブルース。連綿と続く大阪下町の音楽文化をヒップホップのストリートスタイルでもって解釈することで、伝統を現代にリバイスさせている正しく最前線である。

ローホー ワンマンライブ at 高円寺JIROKICHI

日時:2016年4月1日(金)
場所:東京高円寺JIROKICHI
時間:Open 18:30 / Start 19:30
出演:ローホー(Vo,G)
Meets Artist:ISSEI(MONOTONE LABEL)、DJ Martin-Kinoo(CHELSEA movement / BRAIN SWEAT)
料金:2700円(1ドリンク別)

ローホー ワンマンライブ at 高円寺JIROKICHI
ローホー ワンマンライブ at 高円寺JIROKICHI
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