坂本慎太郎: ナマで踊ろう

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坂本慎太郎: ナマで踊ろう

坂本慎太郎
ナマで踊ろう
zelone records, 2014年
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不安や怒りをつぶやくと同時にそれを許し包み込むようなAOR/ファンク・サウンド。穏やかなムード歌謡のようで、ときに激しいメタルより刺さる。音楽の持ちうる幾つかのカタルシスを矛盾なく止揚することに成功している。ドラム、ベースとのトリオ編成で坂本はスティール・ギター、バンジョー等を操る。ハワイアン、ラテン風の享楽的な調べに、虫声や醒めた歌い回しが加わり、ダークで厭世的な響きすら漂う。

子どもの頃読んだSF小説や漫画からインスパイアされたと坂本は語る。彼が挙げるフィリップ・K・ディックの小説は日常に潜む陥穽を描くが、坂本も突然世界が暗転し地獄に変わる様を歌う。漫画は手塚治虫を挙げるが、『火の鳥』で描かれた未来永劫続く輪廻、人間が過ちを繰り返し栄えては滅ぶサイクルを想起させる。8曲目「やめられないなぜか」のせわしないベース・ラインと単調なエイト・ビートの繰り返しは人間の終わらない業を表すのかもしれない。また1曲目、ゲストの女性ヴォーカルで優しく歌われる「未来の子守唄」から私は手塚の愛弟子、小室孝太郎のSF漫画『ワースト』を思い出した。この作品では地球全土に降ったウイルスの雨で人間がワーストマンと呼ばれる化け物に変化し、彼らと残る人類との熾烈な氷河期をまたぐ戦いが描かれる。雪の溶けた地上に蠢き出したのは人類か、ワーストマンか、最後まで作中では明かされない。そういえば坂本はソロ作において、しばしば人類以外の視点から歌詞を綴っていた。どれだけ犠牲を払っても核を手放せず、戦争をやめられない人間を冷めた目でみつめている。

一方で4曲目「ナマで踊ろう」は、いにしえの祭における求愛のダンスを思わせ、9曲目「好きではないけど懐かしい」では憎しみを超えた本音の感情を告白する。ヴィブラフォンの印象的な終曲「この世はもっと素敵なはず」は破壊の後の再生、輪廻からの脱出を示唆する。本作を通して坂本は人類の業を昇華しようとしているのかもしれない。