【レビュー】職人気質な神戸っ子に宿るパンへのリスペクト | シンリズム『NEW RHYTHM』

シンリズム『NEW RHYTHM』
Disc Review
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シンリズム『NEW RHYTHM』
シンリズム
NEW RHYTHM
Ano(t)raks/FAITH MUSIC ENTERTAINMENT INC., 2015年
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「海があって、人があまりいなくて、パンもすごくおいしい。」

LOSTAGE 五味岳久の奈良からの手紙~LOVE LETTER form NARA~ > 第5回 tofubeats

tofubeatsの神戸感。あまりにも的確な一言である。特筆すべきは最後の一文! フランスパンを戦後の日本に広めたドンクやビゴの店は神戸から生まれ、今では修行を積んだブーランジェ達が至るところでお店を開いている。レコルト、ビアンヴニュ、レ・ミュウ……。トップクラスの実力と人気を誇る上記のベーカリーも、兵庫県内にてDNAを引き継いでいる。

何故この話をしているのかというと、十中八九、ザ・職人気質なシンリズムはパン好きであるから。兵庫県は一人あたりのパン消費量は京都と競り合っているという事実。それらは小麦のエナジーが必然的に体内に宿ることを意味する。彼は無意識的に、あるいは意識的に『NEW RHYTHM』にパンへの敬意を表しているのだ。それは「superfine」と「Beautiful Sunday Morning」から読み取れる。

彼の評価を決定づけた冒頭曲「心理の森」が終わると、永遠の短パン男子ことカジヒデキを彷彿とさせる「superfine」の始まりだ。タブゾンビ、ノーナ・リーヴスの小松シゲル、高野勲などそうそうたる顔ぶれが並ぶものの、彼らはあくまでも脇役。作詞作曲から楽器演奏まで、ほとんどの舵取りはシンリズム。父親の影響からアズテックカメラ、ヘアカット100、スタイル・カウンシルなどを聴いていたそうだが、この曲はそれが如実に表れており、さらにはトーレ・ヨハンソンがプロデュースしたかのような、気持ちのよい爽やかなポップ感で満たされている。

おっと、音楽の話をしてしまった。曲中に“パンを買い夜道を歩く 誰かに絡まれそう”と歌うリズム君。パン屋は18時には閉まってしまうことが多いから、コンビニやスーパーを想像する。神戸といえばニシカワ食品。この企業は渋谷の人気店VIRONや高級食パン専門店セントル ザ・ベーカリーも運営していて、味へのこだわりは確か。僕はメロンパンをよく買うのだが、もちろん白あん入りの関西風で、異国の地に飛んでいってしまいそうなおいしさ。これを持っていたら誰かに絡まれるかもしれない。なんてことを考えながら、次は本作の最終曲「Beautiful Sunday Morning」へ。

曲のタイトルからも明らかにパンが出てきそうな香りが漂う。“トーストや目玉焼き達が 朝のスタートを知らせて飛び上がり跳ねる”。なんてうつくしくておいしい歌詞なんだろう。ホーンセクションは小鳥のさえずりのようで、清々しい朝の始まりを演出する。日曜日は楽しくて切ない。好きなことをできる自由な日であるけれども、それは必ず終りを迎えてしまうから。だから日曜日の朝こそ、おいしいパンを食べたい。僕にとってそんな意味を持った歌なのだ。

さて、本題(もしくは余談)に入るが、上記でゲスト・ミュージシャンや影響を受けたバンドを挙げたわけだが、彼らに共通することは卓越した演奏力を持っているということ。シンリズムはベースを主に弾くそうだが、彼のベース・ラインを聴くと、ルートをなぞるということは少なく、躍動感のあるメロディで構成されている。それらをさらりと弾きこなし、さらには技術を見せびらかせずに、あくまでライトな曲作りに徹している高校生に末恐ろしさを感じる(もちろんいい意味で)。要は職人気質ということだ。

職人気質。パンの世界にも多くいる。例えばパンの世界大会〈第5回モンデュアル・デュ・パン〉は9月にパリで行われるが、2015年の日本代表は兵庫県西宮市にある「ブーランジェリー フリアンド」の谷口佳典シェフが選ばれている。第3回は三ノ宮の人気店サ・マーシュ西川功晃シェフが代表になるなど、神戸には実力者が多く、職人の街であるというが立証されている。それは、シンリズムに少しばかり影響しているように思う。

おいしい香りは人々を惹きつけるのと同様、晴れ晴れとした気持ちのよい音は多くの人に聴き継がれるはず。今後10年が楽しみな神戸っ子、パンへの敬意は忘れない。

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