syrup16g: HURT

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syrup16g: HURT

syrup16g
HURT
DAIZAWA RECORDS, 2014年
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正常なのは、五十嵐隆の方だったんだよ。そんな物思いに耽っていた。

実に6年振りの復活となる今作だが、僕の中では2004年の作品『Mouth to Mouse』以降、彼らの時間は止まっていた印象をもっている。それ以降ライヴ活動はあっても作品発表は無く、2008年のラスト・アルバム、武道館公演でバンドは幕を閉じた。

昔ヤバかったロック・スターが今はまともになったなぁという話がしたいわけではない。何故なら、元々彼は普通の人以上にまとも過ぎる人間だからだ。つまり、まともな人間が正常に生きられない今を憂い、嘆き、怒りをぶつける。それが彼の表現スタイルなのだ。曲がりなりにも、この浮世を生きられている人たちにとって五十嵐の吐き出す狂気は、生々し過ぎて、それに対しては口をぽかんと開けるしか無かった。ただ、彼は本当の心の叫びを穿った結果、ロックに辿りついただけなのだ。

『HURT』は活動休止前のラスト・アルバム『syrup16g』の延長線上にある。あの全てから解き放たれた白盤の「イマジネーション」の歌詞“あなたの帰る場所はあるから”に続く物語を本作では感じることができる。

シロップの初期を思わすハードな曲「share the light」から始まり、古典的なロックを踏襲した「ゆびきりをしたのは」「哀しきshoegaze」、彼らの曲で最も疾走感のある「Everseen」の景色を、今の五十嵐の目線で歌った「宇宙遊泳」、フォーキーで、情緒性豊かな「理想的なスピードで」などが作品を彩る。

五十嵐にとって帰る場所とは、syrup16gそのものだったと思う。彼は心に傷を負いながらも、ずっとその中心で正常を叫び続けていたのだ。そして、再び彼はここに戻ってきた。だから底抜けにポジティブな曲「旅たちの歌」を歌えたと思う。バンドをリスタートすることが、彼にとっての旅たちになった。

最初に彼は「正常」と言ったが、それは、“死んでいる方がマシさ”という歌詞からもわかる。「正常に生きられないなら死んでいる方がマシだ」という思いがそこには込められている。復活について色々な捉え方が出来るが、僕が言えるのは、syrup16gの時間が止まったままでいるよりはマシさということ位だ。

Author Profile

留永 裕貴
1984年生まれ。三重県在住の会社員。facedook、twitterでディスクレビュー等随時更新中。ロック評論家になるため、日々音楽を思考。
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